救援要請


「それで、今のお前の活動はどうなってるんだ?愛。なんだかピンチだって来たけど正直言ってどうなんだ?」

父親はそう言って私の方をじっと見てくる。

「確かにピンチだよ。でも、川村プロダクションの成績を最後まで引っ張っていったのは私だから。たとえオーディションがあったとしても、私は勝ち抜くから。それにそのオーデションの期間まで私は川村プロダクションをクビにさせられるわけじゃないし、安心して。」

そう言うと父親はこう言って私にまくし立ててきた。

「馬鹿野郎!違うだろうが。そもそもお前はそんなオーディションすらも跳ね除けて特別権を得るくらいじゃないといけないだろうが!何甘ったれたこと言ってるんだ。オーディションに受かるだのなんだの。」

「っ……それは。」

そう言うと父親はリビングの小さなテーブルをバン!と叩きこう言ってきた。

「もういい。そんな言い訳ばかりなら一人暮らしもこれでおしまいだ。荷物をさっさとまとめろ。車で来てるからそこに荷物は乗せてやる。」

私は仕方がなく荷物をまとめる。そして、父親が荷物を玄関へと持ち出そうとしたその時、玄関のチャイムが鳴る。

「宅配便か。早く受け取ってこい。今のうちにお前の忘れ物がないか見ておく。」

私は玄関のドアを開け、一階の入り口へと向かう。

そこには、あの人が立っていた。

◆◇◆

大川が帰った後、すぐに僕の携帯に大川からの着信があった。

「須井くん、今家の前に私のお父さんがいるんです。絶対何かが起こるはずです。このまま電話を繋げておくので何かありそうだったら私のマンションのインターホンで私の部屋の402号室のインターホンを押してください。私が宅配便だと言ってどうにかそっちまで行きます。」

しばらくはまだ行くべきころではないなと思い、僕は玄関でスニーカーを履いた状態で待機していた。

しばらくすると、電話から大川の父親が急に荷物をまとめろと言い始めていた。

流石にこれはまずいと思い、僕は玄関から飛び出す。タイミングを見計らい、インターホンを押す。

特に怪しまれるような行動はしていないはずだ。

大川は予想通り何事も無く、マンションの入り口まで来ることができたようで、僕を見た瞬間に安堵の顔をしていた。

「須井くん……!私のお父さんが私を勝手に引っ越させようと……!」

「わかってる!とりあえずは荷物を持って僕の家に避難するしかないかもしれないな……。まだ僕のことに関しては大川のお父さんにバレてないはずだ。持ってこられたらでいいが荷物を持ってきて欲しい。あとはどうにか逃げるしかない……。」


大川は恐る恐ると一旦はマンションへと戻っていき、しばらく僕は静寂の時間を過ごしていた。

しばらくして、大川は少し大きめのビニール袋を持って走ってきた。

「とりあえず必要なものだけ持ってくることができました……!でも次のエレベーターでお父さんが追ってきてます、とりあえず急いで逃げないと……!」

入口の方に目をやるとエレベーターから1人の男性が降りてきている。あれが大川の元父親なのだろう。

その男性はこちらを見るやいなやものすごいスピードでこちらに向けて走ってくる。

「大川!家の合鍵だ!荷物は僕が何とか持ってくからこれで僕の家に避難するんだ!」

僕は大川から荷物を受け取って、大川より少し後ろを走る。

大川が家の方向の左に曲がったところを僕は大川に荷物をパスし、わざと右に曲がる。

それにつられるように大川の父親も僕の方に向けて走ってきた後で段々と異変に気づき始めたようだ。

「おい、そこの愛と一緒にいたお前、愛はどこに行った?」

「ここには居ないですよ。この道は行き止まりに向かう道。僕の家への道は別の道を行かないと行けませんよ。」


そう言うと、大川の元父親は手をグッと握ってこちらへと向かってくる。

「お前……そんなことしてどうせ愛の人生をお前が少しずつ狂わせる気なんだろ?俺を悪者に仕立てて、あいつを堕落させる気なんだろ!」

そう言って大川の元父親は僕に向けて拳を向けてくる。

「っ!危ない……。さすがに暴力はダメですよ!それにあなたが娘さんだと思っている人は、あなたのそういう完璧主義な性格にうんざりしているんですよ。彼女自身がそう言っていました。」


「そんなの口からいくらでもでっち上げ出来る。それに仮に言っていたとしてお前がそう言うように圧力をかけた可能性だって捨てきれないからな。」

そう言って大川の元父親は言うことを聞こうとしない。

「そうですか……。では、一つだけ言わせて頂きます。また僕も子供なのでこんなこと言えたものじゃないですが……そんなのだから父親として失敗していて、大切だと思っている娘さんからも好かれないんだと思いますよ?」

「なんだと……?俺の愛に対する教育の仕方が間違っていたというのか!?」

そうですと言おうとした瞬間、大川の元父親はもういいと言って僕の横を通り過ぎる。

「お前が誰だかは分からないが、そのうち痛い目を見るぞ?覚悟しておけ?」

そう言って大川の元父親は元来た道を引き返して行った。







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