アイドルは体育が苦手?(2)〜須井視点〜

ドン!

力強いドリブルは音を立てながらゴールへと向かっていく。

赤羽のドリブルは隙が無く、彼に取られるとほとんどの確率でシュートを入れられる。

ただ、それは一対一の時だ。

「今だ!いけ!」

村川のその指示で、僕は赤羽がもう一人のクラスメイトからボールを守るのを夢中になっている隙に、僕は後ろからボールを奪いに行く。

目の前に夢中になっていた赤羽に手を伸ばし、僕はすかさずにボールを味方へとパスする。


ドン!ドン!

ボールはそのまま相手側のゴールへと向かっていく。

シュートをするのは他の人の役目なので僕は後ろでこぼれ球が来た時のために立っていた。

そこへバックボードに弾かれたボールが飛んでくる。パスを回そうにも周りの味方たちは誰かしら敵にマークされており、とてもパスができる状況ではない。

「須井!お前がいけ!今フリーなのはお前だけだ!」

村川に言われ、僕はボールを持ってシュートの姿勢を構える。

キュッっと音がして、僕の足は地面から一瞬の間だけ離れる。

ボールは弧を描き、そのままゴールへと飛んでいく。ボールはネットをくぐり、ゴールとなる。

相手チームはすぐにボールを回収し、赤羽へと投げていく。

僕たちはすぐにフォーメーションを整え、赤羽の進撃を止めようとする。


ピー!と機械の音が鳴り、ハーフタイムに入る。

後少しで赤羽にゴールを入れられそうになっていた僕たちは、ほっと一息をついて休憩をする。

何度もコートを行ったり来たりした僕たちは疲れ切って壁際で休んでいる中、相手チームの人たちは赤羽を筆頭に余裕の笑みで雑談をしている。

その余裕の笑みをしている赤羽に対して試合前のように女子たちは歓声をあげ、褒めの言葉を浴びせていた。


それに対して手をひらひらとして返す赤羽を見て、村川が僕の隣でボソッとこう呟いた。

「はぁ……。ああ言う感じで女子を扱うのどう思う?俺はあんまり好きじゃないな……。流石に俺も小松と休日に関わったりはするけどよ、あそこまでじゃあないな……。」

小松とは、村川の幼馴染の彼女のことだ。本人は頑なに彼女ではないと言い張っているが、明らかに周りから見ても彼女判定されるような行動をよく二人でしている。

「まぁ、気持ちはわかるぞ。ていうかこんな高校生とかの時代に恋愛したってどうせ大学別になったら別れるんだから意味ないだろ……。長くて2から3年だろ?だったらもし作るとしても大学で恋人を作った方がその先のことも考えてもいいんじゃないか?」


そういうと村川はクスッと笑ってからこう言ってきた。

「分かってないなぁ。須井、いいか?将来大学生の時に彼女を作るとして経験がなかったらどうしたらいいか分からないだろ?それの予行練習みたいなもんよ。」

予行練習。その言葉は何か少し違う気がしていた。

「じゃあ今付き合っている人は、捨て駒みたいなものってことになるのか……?」

そう聞くと、村川は我にかえったかのように驚いた顔をしたまま何も言わなくなる。


「あ、別に怒ってるわけじゃないんだ。少し疑問に思っただけで……。」

そういうと村川はまたニッと笑ってこう言ってくる。

「いや、須井ならそういうこと考えてそうだなって思っただけだ。なんかお前は人柄もいいから、彼女できたらどんな人でも、どんな状態でも一生大事にしそうだもんなぁ。」

そんな話をしていると、休憩終了を知らせる機械の音がする。

「結局あんまり休めなかったなぁ。」

村川と笑いながらそんな話をしていると横に大川の姿が目に入る。

そのちらっと目に入っている数秒の時に頑張れというようにガッツポーズをこちらに向けてしてくる。


「おい、見たか?今転校生の大川が俺に……!」

「いや、俺にだ!お前なんかより俺の方がいいからな!」

そんなことを奥の方にいたクラスメイトたちがギャーギャーと言い合っているが、僕はあのガッツポーズが自分に向けられたものだとどこかで確信していた。

そう思うとニヤケが止まらなくなる。推しのアイドルでもある人が僕に対して応援をしてくれたのだ。


「おいおいおい、誰にやったのかもわからないあの転校生の大川の応援を魔に受けてるのか?」

コートに戻る途中に村川がこっちをニヤニヤして見ながらからかってくる。

「別に僕に向けてじゃなかったとしてもいいだろ……?そういう想像をしたくなるお年頃だとでも思っておいてくれ。」

そういうと村川は笑いながら、もうそれならあいつと付きあっちまえと言ってきた。

僕はそれに対してそんなつもりは毛頭無いと伝えると、何故かがっかりしたような顔をされた。


機械の音が鳴り、試合が始まる。

後半戦の僕は何故かいつもよりも多くシュートやアシストをできた気がした。

原因は何かは僕の中ではもう明確だった。







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