アイドルは体育が苦手?(1)〜大川視点〜
最悪だ。厄介なファンから気持ちの悪い手紙を受け取った時と同じくらい、最悪かもしれない。
その位に体育の球技というものが私は苦手だ。ボールをキャッチして投げたり、蹴ったりする。それだけでも私にとってはきついものだった。
球技よりも肺活量などが試される陸上競技系の方が、私はまだ好きだし、自信があった。
はぁとため息を漏らした後で、私は今日の体育をどうしたらいいかを考え始めた。
たまたま教室へ忘れ物を取りに行った時、教室の中にいた須井くんに手招きをする。
須井くんは自分に用かと言うように自分を指差す。私はそれに頷いて返すと須井くんはすぐにこちらへと来てくれた。
「須井くん、体調を今から悪くするにはどうしたらいいですか……?」
そう私が聞くと、須井くんは困惑をした顔をした後で私に何かあったのかと心配してくれた。
そして、私が球技をやりたくないということを言うと更に悩み始めた。
「方法はいくつかあるんだが……お前の成績の点数的にもおすすめはしないぞ?」
そうだ、思い出した。この活動をやっている以上、定期的に休まなくてはならないのは学校側も理解してくれている。しかし、その代わりに出席日の体育の授業は全て出るように言われているのだ。そう考えると休むのは得策ではない。
「確かに須井くんの言う通りですね……いくら嫌だとはいえども成績が足りなくなる方が嫌です!」
そんなこんなで体育館へと移動した私は流れのままにチームに振り分けられる。
初めはチームごとのパス練習やシュート練習などで、私はバスケ部のクラスメイトと二人組を組まされた。
別に球技ができないことに関してはどうだっていいとは思っている。しかし、試合をするときにパスをされたら?シュートをしてなどと言われたら?そう考えると、少しでもバスケ部のあの子からフォームなどの真似できるところを吸収するしかない。
シュートの時は足をしっかり踏み込む、手を三角のような形にする。そんな基礎的なことかもしれないけれども、私にとっては大事な情報だった。
前にいたバスケ部の子が3ポイントシュートを綺麗に決めていく。私はその過程を、振り付けの指示動画を一瞬で暗記しようと見ている時と同じようにじっと見ていた。
私の番になり、ボールが優しく投げられて私の手の中に入る。
走る。ステップを踏む。飛ぶ。ボールから手を離す。
ボールはそのまま弧を描き、ゴールネットにガコンと音を立てて吸い込まれていく。
入った。そう思った瞬間、私は相方のバスケ部の子に褒められていた。
私、意外と球技できるのかもしれない。そう思ったし他の子達にもそう思われていたようで、どうやったらすぐに上手くなれるのかと何度も聞かれた。
試合でも何度も私はパスを貰う。それを試合中も他の人を観察して、見よう見まねのドリブルでゴールまで運ぶ。私自身がシュートをする時もあったし、他の子にパスしてシュートをしてもらう時もあった。
とにかく、私は嘘でも本気でも戦犯と呼ばれるような存在にはなりたくなかった。
常に上を目指すということをアイドルでも勉学でもしてきた。本当なら勉強は人並みにやってアイドル活動に専念したかった。
でも、それは……。
そんなことを考えていると、クラスメイトから回されたパスで現実へと引き戻される。
周りには誰もいない。私が決めるしかない。
踏み込み、ボールを投げる。しかし、急だったこともあり、少しフォームの崩れたシュートはバックボードへとぶつかり、シュートにはならなかった。
外した。急な対応が追いつかずにフォームが崩れたのだ。
キュッ!
音がして相手チームのクラスメイトが、ボールをゴールへと運んでいる。立ち上がった頃にはもう追いつけない。
シュートを決められる。一本、またもう一本。
同点となったところで試合が終了となり、私たちはなんとか負けることはなかった。
クラスメイトも気にすることないよと言ってくれたが、あのミスが私にとってはとても悔しかった。
完璧を求める私にとって、それはとても許せないミスだったのだ。
「ごめん、私がシュートを外したせいで……。」
そんなに気にしなくてもいいと言われても、その言葉が何度も口から出てくる。
授業の後半は男子のバスケの試合になる。
女子のバスケとは違ってパワフルな動きがある。そして、男子たちのアピールできるチャンスでもあるのだ。
「キャー!赤羽君頑張って〜!」
定期テストでは学内でほぼ一位、運動もできる。それがクラスメイトの一人、
隙あらばと様々な人がプロポーズをしているらしいのだが、それをどれも断っているという。
そんな彼はどんな時でも色々なチームの引っ張り凧で、彼一人で戦況が変わると言っても過言ではないようで、チームピックでは一番最初に選ばれていた。
それに比べれば、須井くんはクラスの中ではそこそこという立ち位置で、いなくてはならない存在というわけではないようだ。
私は落ち込んだまま、須井くんのバスケの試合の姿を気づけばずっと眺めていた。
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