アイドルはゲームセンターに行きたい

 学校帰りに僕は久しぶりにお金が沢山入っている財布を握りしめる。

「お、今日は月に一度の仕送りデーか?」

帰り道、横にいる村川が羨ましそうにこちらを見てきている。

僕の家は親からの仕送りは生活費の他にも、娯楽用のお金がある程度入っている。

「そんな目で見てもあげないからな?これで今日はゲーセン行くって決めてるんだ。」

結局、今日は大川も疲れたようで友達作りも諦めて帰るようだった。

「ところでさ、今日の昼休みに大川さんにお前がどこに居るか聞かれて反射で答えちまったけど大丈夫だったか?」

「おかげさまで大川に秘密の場所がバレたよ……。てか、何で大川は僕を探してたんだ?」

「なんか本が好きみたいだから何の本を読んでるのか聞きたいんだって言ってたぞ。」

僕は咄嗟に嘘をついて昼休みに大川が仕掛けてきたおふざけのことを悟られないようにした。


「へぇー、あいつ本も読むんだ。なるほどなぁ……。ちなみに、どんな本を最近は読んでるんだ?」

「芥川賞受賞作と候補作。」

そう言うと村川はしっぶ!と言って俺には漫画で十分だなと独り言を言っていた。

村川とは学校の近くのバス停でいつも別れることになっている。隣の市からバスで通っているので、この学校では珍しく、登校に時間がかかる生徒なのだ。それにもかかわらず、よく寝坊をするので学校に遅刻してくることが多い。

「ほんじゃ、またな!」

バス停でしばらく話した後で、バスが来た村川はそのままバスに乗って行ってしまった。


「それじゃあ、ゲーセン行くか……!」

帰宅路とは別の道を進む。その途中で僕は後ろからの謎の視線を感じるようになった。

ずっとついてくる。適当に寄り道をしてもその視線はついてくる。ただ、悪意があるものではないことは確かだ。

ただ、一定の距離を保とうとしているだけに見える。そして、段々とその視線が何なのかを僕は気づき始めた。

曲がり角に差し掛かり、僕は1つの作戦を試してみることにした。曲がった先の道路にはすぐ近くに電柱がある。

僕はそこに身を隠して曲がってくるその人物を待つことにした。

「あれ?須井くん?どこに行ったのでしょうか……。」

後ろからやって来ていたのはやはり大川だった。どうしてここまで来ているのだろうか。まさか、僕を追うためだけにここまで来たのだろうか。


「大川!お前そこで何してんだ?」

T字路の真ん中でずっとキョロキョロと2本の道を眺めている大川に僕は思い切って話しかけると驚いたのか大川は一歩後ろへと後退りした。

「わ!び、びっくりしました……。須井くんでしたか。てっきり……いや、こんな話よりもですよ?なんで私を誘ってくれなかったんですか!?」

「誘うも何も……ゲーセン行くなんてお前に一言も言ってないぞ?」

そういうと大川は頬を膨らませてこう言った。

「それはそうですけど……。別にどこから聞いたかなんて、どうだっていいじゃないですか!」

いや、どこがだよというツッコミをしようとしたが、これ以上言うと色々と面倒そうなので聞かないことにした。

「じゃあ、お前も来るのか?ていうか、仕事とか今日は大丈夫なのか?アイドルって結構忙しそうなイメージあるんだが……。」

「確かに忙しいは忙しいですよ。でも、今日はたまたま空きがあるんです。なのでこうやって須井くんの後をこっそりついて行ってたんです。まさか気づいていたなんて……。」

どうやら大川は僕に気づかれること無く、ゲームセンターまで尾行をしたかったらしい。

「バレてしまった以上はまぁ、しょうがないです。私ゲームセンターとか行ったこと無いので……何が楽しいのかとか教えてください!」


そんなこんなで、僕は大川と一緒に駅前のゲームセンターに来ていた。

「わぁ!こんなに沢山遊ぶものがあるんですね……。入った時の大きな音にはビビりましたけど……。」

まず初めに大川が興味を示したのは動物のデフォルメ姿のぬいぐるみのクレーンゲームだった。

「須井くん!このぬいぐるみかわいいです!私、この猫ちゃんのぬいぐるみが欲しいです!」

そう言って大川は僕にどのようにクレーンゲームを操作したらいいかを聞いてきた。

僕は大川にクレーンゲームのあれこれを教え、その後で操作する姿を後ろから眺めていた。

ポイントは掴んでいたようだが、アームが調整されているためか1回で取ることができない。大川はクレーンゲームに負けじとまたコインを入れる。そして、またクレーンは無慈悲にぬいぐるみを手放す。

「また取れませんでした……これどうなってるんですか!?」

そう言って大川は僕の肩を揺らしてくる。

「じゃあ僕が代わりに取ってやろうか?」

そう言うと大川は目をキラキラとさせてお願いしますと言ってきた。

僕はクレーンゲームの台にコインを入れ、ぬいぐるみのタグを狙ってアームを動かす。

タグはアームに引っかかり、少しずつ景品投入口へと向かっていく。

そして、ぬいぐるみは景品受け取り口へと落ちてくる。

「やった!ありがとうございます!須井くん!」

そう言って大川はその場でクレーンゲームの台を背景に、ぬいぐるみの写真をスマホで何枚も撮った後で、また来ましょうねと言ってきた。















 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る