あの子は転校生として近づいてくる
大川と話してから1週間ほど経ったある日、教室に入ると机が1つ増えていた。
大川と1週間前に話した僕はそこの席に誰が座るのかは分かっているが、他のクラスメイト達はもちろん知らないので様々な噂が飛び交っている。
海外からの転校生だの、隣の街の不良がこっちに送り込まれてきたなど色々な想像が話し合われていた。
僕はいつものように教室の一番後ろ廊下側の席に座っていつも通りブックカバーをかけた本を読む。
自分には縁のないような内容の恋愛小説。最近はそんな小説を読むのにハマっている。
そのままホームルームの時間になり、いつものように先生が入ってくる。
小説をリュックにしまい、いつものように先生の重要なお知らせをメモを取る。
「どうせ今日もあいつがこのノートを見せてって群がってくるんだろうな……。」
僕はまたぼーっと外を見ている友人の昌樹の方を見る。
どうせまた先生に怒鳴られるんだろうなと見ていたところ、案の定昌樹は先生に怒鳴られた。
「おい、村川!話聞いてんのか?」
先生に怒鳴られた昌樹は僕の方をチラッと見た後でいつも通り適当に返事を返していた。
「あぁ、大丈夫ですよ。ちゃんと聞いてますって!」
「本当だな?後で後悔するのはお前だぞ?」
そう言って先生はまた話を続ける。
基本的な連絡事項が終わり、先生は遂に転校生についての話をし始める。
生徒たちは急に先ほどの静けさが嘘かのようにざわつき始め、先生のいつも通りの長ったらしい接し方のレクは誰も聞いていない。
先生が全体にうるさいぞと怒鳴ると、やっと他の生徒たちのざわつきは落ち着き、先生がドアを開けて手招きをする。
教室に入ってきた大川にクラスの男子たちはおぉ!と声をあげる。
ホームルームが終わり、僕と反対側の窓側の後ろの席にいる大川の席の周りは沢山の生徒が取り囲んでいた。
「いやぁ、あの大川って子人気だなぁ。須井は大川に興味ないのか?」
唯一僕の方の席に来ている村川は僕を
「いや、別に僕はそういうのは興味ないから。それよりも早くメモしたらどうだ?」
そういうと村川は急いでノートに僕の書いたメモを書き写した後で、大川の周りの人混みへ俺も行こうと言って行ってしまった。
「はぁ、あの調子だとしばらくは男子達の対応が大変だろうな……。」
その後も授業が始まるまで大川の周りを男子達が取り囲んでおり、授業5分前に入ってきた先生に言われてやっと男子達は各々の席へと戻って行った。
その後も休み時間毎に、大川の周りには男子達が群がっている状態だった。
お昼休みに入り、僕はいつものように弁当箱を持って中庭の近くの学校林の中に置いてあるベンチに座り、いつものように食事を一人でゆっくり食べようとしていた。
しかし、一人の静かな時間はすぐに終わりを迎えた。
「やっぱりここに居たんですね……?」
そう言って向こうから近づいてくるのは大川だった。
「大川!なんでここが分かったんだ!?」
この学校林の中は木が沢山あるおかげで外から見ることはできず、しかも入口は中庭からは離れているので余程注意して見ていないとここへ入っていくのは見えないはずだ。
「須井君のお友達の村川君に聞きました。どこにいるか聞いたらすぐに教えてくれましたよ。」
「あの野郎っ……!」
僕は握り拳を膝の上に叩きつける。
ここは自分がいつもこっそり食事をしたりしているところで入るところを一度村川に見られたことはあったが、今まで彼はそれを秘密にしてくれていた。
しかし、よりによって村川は大川にそれを教えてしまったのだ。
「まぁ、そんなにがっかりしなくてもいいんじゃないですか?私はここに入ってくる時に誰にも言わないようにしましたし、しかも今なら私と二人きりで内緒話だって出来ますよ……?」
そう言って大川は自分の座っているベンチの空いているところへ座ってくる。
「お、おい。ちょっと近くないか?」
そう言っても、大川は座ってる位置を変えようとしない。
「別に誰も見てないんですし大丈夫ですよ。それに私も須井君も、お互いに変な手出しをできるような人ではないでしょうし……。」
そう言った後で大川は立ち上がってこちらをじっと見てくる。
「何だよ……。」
「いやぁ、顔真っ赤だなぁって。」
「逆にそうならない人がいてもおかしいと思うぞ……。ていうか大川はなんでそんな普通にしていられるんだよ……。
そういうと大川は僕に顔が見えないようにした後でボソッと呟いた。
「そりゃあ、私は一応アイドルだし、ドラマとかでそういうシーンを撮ったりしてるから?でも、撮影以外でこういうのをやったのは初めてですよ。二度とネタでやらない方がいいって分かりました……。」
そう言った後で大川は僕に顔を合わせずにまた学校林の入り口の方へと戻っていった。
「ネタであんなことをする大川の神経がよく分からないなぁ……。向こうもやった後で恥ずかしくなってるなら、初めからやらなきゃいいのに……。」
僕は腕時計を見て休み時間が後少しなのに気づいて急いで残りのお弁当を食べた。
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