第12話 大阪蔵屋敷

 大阪に着くと早速、薩摩の蔵屋敷くらやしきまわりを探ってみた。薩摩の蔵屋敷は一つではなかった。最も大きいのが土佐堀とさぼりにある蔵屋敷だが、さらに、江戸堀えどぼり立売堀いたちぼりにもある。その中でも土佐堀の蔵屋敷の警戒は厳重だった。昼も夜も警備の者達が蔵屋敷の周りを巡回している。外がこの状態という事は中の警備はさらに厳重なのであろう。また、蔵屋敷自体が広大で、蔵も一つや二つではない。外から見える蔵だけでざっと数えて十はある。蔵の数は、全体ではおそらくその倍はあるであろう。その中のどれかの蔵に芋があったとしても、それを探し当てるのは大変だ。忍び込むのが困難な上に、それ以上の難儀が待ち受けている。

「困ったな?」

「困りましたな」

「どうする?」

「どうしましょう」

 そばで小春が薄笑うすいを浮かべながら答える。二人の間の会話は、遠慮と言う垣根が取り払われ、もはや夫婦の会話そのものだった。

「それにしても、この警固の厳しさは何故なぜなのでございましょう?」

 小春はさすがに女忍び、勘は鋭い。

御禁制ごきんせいの品々があるのであろう。いわゆる密貿易よ。南蛮渡りのギアマンとか唐の玉とかがあるのではないか」

 吉十郎が答えると、

「見てみたい」

 と無邪気むじゃき微笑ほほえむむ。

 ともかく、盗みに入るとしても、その肝心の芋がどのような芋なのか知らねばならない。見たこともない物を盗むことはどんな大盗賊でもできるはずはない。吉十郎は、薩摩藩の蔵役人たちが出入りしている安酒場に目を付けた。客としてまぎれ込んで誰かと懇意こんいになり芋の事をさりげなく訊くことにした。

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