第6話 薩摩飛脚
伝三にはすべてを打ち明けた。伝三は江戸詰めとして何年か江戸に暮らしたことがあり、江戸に集まる諸国の情勢に詳しい。甘藷の事を見知っているのではないかと期待していたのだ。だが、答えは「知らぬ」の一言だった。
反対に、伝三に問われた。
「お前、その
伝三の目が笑っている。
「一応、化けてみたつもりでございますが」
「いやはや、度胸があるのう」
「と、申されますと?」
「薩摩は国を閉ざしているようなもので他国者が入ることはまず無理じゃ。
「
「そうよ、薩摩飛脚。行ったきり戻ってこない
そう言うと堪え切れずに声を出して笑った。そして、
「お主は、弥助の爺さんから聞いてはおらぬのか?」
と聞いてきた。
「はて?」
「そうか、お主には言うとらんかったんか。実は弥助の爺さんが
「へぇー左様で、豊臣の残党狩りで返り討ちにあったという事だけは訊いておりますが、薩摩での出来事だったとは、初めて聞きました」
伝三が聴いた話では、弥助は大坂夏の陣の数年後、薩摩に潜入した。その頃、大阪落城の時に豊臣秀頼の子国松が、抜け穴を通って城外に脱出し、真田幸村の息子、
だが、望みはかなわなかった。脛を撃ち抜かれて、ほうほうの体で逃げ戻ったと言う。一緒に潜入を試みた他の二名は帰らなかった。おそらくは
「まさに知らぬが仏、よくぞお教え下さった」
吉十郎は自らの無知に顔から火が出る思いになった。
「ですが、若かりし頃は伊賀一と
「それは薩摩言葉よ」
吉十郎の問いに、伝三は答えた。
「薩摩言葉が
「そうではない、薩摩言葉はよくよく学んだそうだ。だが、薩摩言葉は村々で
伝三は、薩摩の国に入り目的の地へ行くには、その目的の地の言葉をよどみなく口にできなければならない。生半可な薩摩言葉ではすぐにばれると弥助の爺さんは言っていたと語った。
「しかし、何で大殿はその芋を盗んで来いと?」
今度は伝三の方から問うてきた。
吉十郎は定基から聞いたことを伝三に伝えた。
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