治すための治療(2)
「ナツメの怒りの矛先は、自身への無力感のようなものでしょう? だから私からしたら真逆の、「優しい」とか「情に厚い」とかそういう印象になるわ。敢えて責めろと言われても、それにしたって責め役は貴方自身で事足りてるわよ」
私から見ても今日来た患者たちは、少々自分勝手と思う。ナツメでないと治せないような傷を、彼が治すことを前提に負ってくるのだから。
勝手に怪我をして、でも死んだらナツメのせい。中には、ちゃんと自業自得だと思う者もいるかもしれない。けれど、少なくともナツメは自分のせいだと心を痛めるだろう。
止めを刺したいというナツメの言葉の真意は、『怪我を繰り返す行為を止めたい』だ。
「責め役は、俺で事足りている……?」
呆けた感じで、ナツメは私の言葉を繰り返した。
「はははっ」
かと思えば、次の瞬間には彼は肩を震わせて笑っていた。
「やっぱり俺は好きですね。そういう俺とは異なる発想を持つ貴女が」
「……っ」
笑いながら今日もまた迂闊に「好き」ワードを繰り出してきたナツメに、思わず息を呑む。
何故これを公式で発揮しなかったのか、この男は。
そうしたらゲーム中で美生が「私は好き、でもナツメさんは違うみたい」と、あんなにも悩まずに済んだだろうに。
ここにいるナツメなら、少しくらいは自分のことを好きでいてくれるのではと、そう思えて――
「――あっ、そうそう。この前、美生と一緒にイスミナの街に行ってきたんだけど、聖女が来てるのに本当普通で。ちらほら彼女に向けられる視線はあったから、多分認識はされていると思うんだけど」
何故だか急に落ち着かない気分になり、私は思考を中断して話を換えた。まったく心臓に悪いったらない。迂闊な発言は控えてもらいたい。
「やっぱり街単位で消えてて、誰も
あからさまな話題転換をナツメに冷やかされる前に、さらにイスミナの話を続ける。実際、イスミナの様子に疑問は感じていた。私としては、寄ってくる人波を縫って美生を脱出させる場面を想定していたのだ。なのであの淡泊な反応は拍子抜けだった。
「それもあるでしょうが――アヤコさんは、例えば草原に突然城が現れたとして、建てた人や方法が気になったりします?」
ナツメが一度ふっと笑って、それから彼は話に乗ってきてくれた。……された質問の意図はわからないが。
「唐突ね。んー、そうね……気にはならない、かな。それによって自分に被害が及びそうなら、調べるかもしれないけど」
「そういうことです。ルシスが再生されたからといって、誰がやったのかと熱心に探す人は案外いないんですよ。人の興味の先は大抵、それで自分の生活がどう変わるかであって、それを行った人物には向きませんから。アヤコさんたちが異世界人だと知られた場合の反応もまた同様だと、俺は踏んでいます」
「あー」
確かに便利な発明品の登場に歓喜はしても、だからといって発明した人が誰というのは、多くの人は気にしないかもしれない。異世界人の方も、有名人を目撃した程度のことでしかないのかも。
「だから――安心してルシスにいて下さい」
なるほどねと感心していた私の思考を、今度はナツメの声が中断させた。
「――――そうね」
何でもないはずの、添えられただけのはずの言葉がやけに響いて聞こえた。
その事実を、私は気付かなかったことにした。
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