二つの異世界(1)

 さて。現在食堂にて、本編では聞けない会話が繰り広げられている。

 設定としてはあっても本編ではしよられていた裏舞台という奴を、私は料理を食べながら眺めていた。

 食事の最中にルーセンが『彩生』の話を切り出すのが、本編の合図だ。私が今後突然場を離れてもそれは予言を的中させるためだと、前もって伝えておいた。なので目下の問題は、私が本編開始までに何種類の料理を食べられるかに尽きる。取り敢えず、見た感じ好みそうなものから順番に行こう。


「ルーセンさんは王都から来られたんですか?」

「そう。僕は先月ここに来たんだ」

「そうなんですね。てっきりずっとここに住んでいる方だと思ってました」

「俺も時々、ルーセンは俺より長く居るような錯覚を起こすな」


 美生の感想に、彼女の隣に座ったカサハが苦笑する。


「カサハさんは五年ほどになりますね。センシルカの街で暴れていたのを、俺が連れて帰ったんですよ」

「ナツメ、妙な言い方をするな」

「妙? 両手両足合わせて十カ所以上骨折してるのに魔獣と遣り合っていた貴方に、俺はこれ以上適切な表現なんて思い浮かびませんけどね」

「一掃した後で治療した方が効率的だと判断した」

「それなら貴方以外の兵士なりを餌にして、万全の貴方が一掃した後で餌にした人間を治療させた方が、余程効率が良かったと思いますよ」

「はいはい、物騒な発言はそこまで。せめて食堂以外でやって」


 ルーセンが言葉を挟み、二人が謝罪する。


(うーん、初日っぽい遣り取りだねぇ)


 喧嘩に見えなくもない二人に、美生がオロオロしている。本編でも前半はそうで、でも後半になると美生も見慣れて、彼女が仲裁に入ったりするんだよね。

 私は、魚料理っぽいものを木製フォークで口に運びつつ、彼らの様子を眺めた。

 魚料理っぽいものという言い方になるのは、ルシスでは料理の名称や使われている食材が地球とは異なるからだ。まあそれでも結局そのルシスの世界観を作ったのは地球人なので、そう見た目を裏切らない味にはなっている。……原材料についても裏切られていないと信じたい。


「あ、これ美味しい。サーモンのムニエルに近い」

「そうなんですね」

「アヤコの例えが通じるんだ?」


 美生の相槌に、ルーセンが話に入ってくる。


「美生の世界は、私の世界を模して描かれたものだからね」

「あー。アヤコから見て、ミウや僕らは物語の登場人物なんだっけ」

「そそ。『美生が異世界に召喚された物語』を、私は私の世界で見ていたの」

「では『ミウさんが異世界に召喚された物語を見ているアヤコさんが出てくる物語』を、見ている人もいそうですね」

「余計にややこしい話にしなくていいから、ナツメ」

「私は美生の話が聞きたいな」


 ナツメとルーセンは放っておいて、私は美生に話を振った。

 ゲームだと、食堂で美生が自分の話を色々したって一文が書かれていただけだったのよね。

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