二つの異世界(2)

「私の話ですか? えっと、そうですね……私は一人っ子で、両親と一緒に暮らしていました。両親はとても仲が良くて、とても優しくて大好きです。家族でよく動物園や水族館に行っていました」

「それって街の施設か何か?」


 聞き慣れない単語に興味を見せたルーセンが、美生に尋ねる。


「はい。動物園と言うのは――」


 美生は彼に、動物園と水族館について説明した。彼女は小動物が好きなのだろう、小動物について話す時には特に詳しくなっていた。

 美生の話に大きく「へぇ~」と返すルーセン同様、カサハとナツメも熱心に彼女の話に耳を傾けていた。


どうもうな動物を多数囲うとは、有事の際にも対応できるほどの部隊が王都以外にもいるのか」

「生態系の異なる魚を一所で飼うわけですか。設備もさることながら、管理する人間の知識も素晴らしいですね」


 とてもレジャー施設の紹介に対するものとは思えない感想が二人から飛び出し、美生が曖昧に笑う。


「安定した平和な世界だったんだね。ってことは、アヤコのいた世界も似たような感じ?」


 ルーセンが、今度は私に話を振ってくる。


「世界観的にはほぼ同じね。ただ、私は美生と違って一人暮らしだったから、家族と和気あいあいって日常ではなかったけど」

「そうなんだ。でも動物園と水族館ってのは、一人で行っても楽しそうだよね」

「そうね、私も昔は近くまで行ったらフラッと一人で寄ったりもしたけど、ただ最近はほとんど家から出ない生活をしてたわ。仕事の入りも不規則だし、夜中に連絡が来ることもあるし、納期変更も多いからずっと家にいた方が対応しやすいのよね」

「家でずっと仕事をしてたってこと?」

「大体は。私の場合、依頼の返事も完成品の納品も家からできる仕事だったから。最近は買い物すら宅配で受け取る生活で、外に出るのはたまに打ち合わせに行くときくらいだったかも」


 ここでこんなのんびりした時間を過ごして、果たしてあの日常にすぐ戻れるだろうか。少し不安だ。

 現実世界に思いを馳せていると、何故かこちらを可哀想な人を見るような目で見ているルーセンと目が合った。


「……アヤコ、元の世界で軟禁されてたの?」

「アヤコの世界も大概大変だったんだな……」


 気付けばカサハにも同情の眼差しを向けられていた。


「いや、そういうわけじゃないからね?」

「いっそルシスに永住してはいかがですか?」

「ナツメ、貴方のはからかってるだけなのわかるからね」


 一人だけ明らかに笑っているナツメの皿から、私はアボカドに似た彼の好物を一つ奪ってやった。

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