イスタ邸(1)
拠点『ルシス・イスタ』――通称『イスタ邸』に到着。只今、玄関ホール。
邸は全体的に白を基調とした石造りで、
神官の住居だっただけあって、外観も内装もシンプルではあるのだが――
「広いですね……ここ」
「とっても同意」
同じ感想を抱いていたらしい美生に、私は即座にそう返した。
『彩生世界』は、神の名がそのまま世界の名になっているように、創造神ルシスの一神教。祭事を取り仕切る神官の地位はかなり高く、王都ルシルサから王が自ら訪ねてくることもあるほどだという。下手な貴族より立派な邸に住んでいるのも当然か。
にしても、拠点の邸がこんなに広かったとは。『彩生世界』の場所移動は、見取り図選択式だったため、気に留めたこともなかった。これは移動の順番をよく考えないといけない。私は美生ではないからイベントの回収等は関係無いが、普通に無駄に歩きたくない。
「ああ、来たか」
西側の廊下から、カサハがホールに入ってきた。
カサハと一人の少年が並んでこちらへ来る。カサハと同じ魔法衣を身に着けた少年は私たちに会釈をし、そのまま外へと出て行った。
「イスミナの街の境界線は、ここからも消失が確認できた。先程、部下たちを周辺調査に向かわせた」
(あの子、ロイくんだ)
今程すれ違った少年にも、見覚えがあった。彼も『彩生世界』における攻略対象の一人だ。
赤毛な短髪に、ヘーゼルの瞳はやや吊り目。最年少の十六歳。唯一の非戦闘メンバーであり、年下担当なわけなのだが――
「カサハさんの部下、ですか?」
はい、ロイフラグ折れたっと。
ロイの個別ルートはここで美生が「部下って、さっきの方がですか?」と言うのが、最初のフラグになっている。どうやら今回はロイのルートではないようだ。
そういや私、あの子より背が高いんだよねぇ……一センチだけどさ。
「俺はイスタ邸の自警団の団長を務めている。今出て行った者も自警団所属で、ロイと言う」
「正規の神殿騎士は、セネリア襲撃のときに全滅したらしいからね。自警団はイスミナの街から避難した住人で構成されているよ」
ルーセンが、自警団について補足を入れる。
「カサハは別の街で貴族の護衛をしてたから、団長に
「ああ。ロイに用意してもらった」
「え、いつの間に。ありがとう」
カサハから革製のショートブーツを差し出され、私は礼を言って受け取った。
カサハが先に戻ると言った際にナツメが何やらメモを渡していたが、あれが靴の調達依頼だったのか。
一緒に渡された少し湿らせてある布で足裏を拭き、早速靴を履いてみる。
「メモに書かれていた数値がやたら詳細だとは思っていたが……。ナツメ、何故アヤコの靴のサイズを知っている?」
「知っていたわけではありませんよ。普通に見て測っただけです」
「それは「普通」に当たるのか? 少なくとも俺は自分の足ですらわからないが」
「ナツメだからねー。ありがとう、履き心地もとてもいいわ。さすがね」
カサハの突っ込みには同意だが、ナツメの目測の正確さはゲーム本編で予習済み。だから私は、先の戦闘でもナツメにフロアの広さを尋ねたのだ。
本編でのルーセンの曰く、『ナツメの目測と器用さは変態レベル』とのこと。最初はルーセンが自分で魔法陣を描こうとして描けず、それが可能な人間を探していたところ出会ったのがナツメだったはず。
魔法陣ていったらあれでしょ、細かい幾何学模様がギッシリの。そりゃ誰にも描ける代物じゃないわ。
「ナツメは二人の案内を頼む。ルーセンは俺と来てくれ、皆にイスミナの話をする」
「わかりました」
「はいよ」
ナツメとルーセンがそれぞれ返事する。
そしてカサハとルーセンはこの場を去り、残ったナツメは私たちを振り返った。
「では、簡単に案内しますね」
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