境界線と彩生(1)

 初勝利を挙げた後、皆で神殿の外へと向かって歩き出す。

 カサハだけは一足先に拠点――イスタ邸へと戻った。彼は邸の自警団の団長をしているから、ゲームでもいったんこの場を離れてそちらの様子を見に行っている。

 カサハ含め自警団は皆、魔法衣と呼ばれる白地に金のしゆうが入ったケープマントを着ているので、誰がそうなのかは一目でわかる。魔法衣はその名の通り魔法が掛かっており、魔獣のターゲットになりやすい。まさに身体を張って邸を守っている集団だ。


「やー、鮮やかなお手並みだったね。面白いほどアヤコの言う通りの位置に魔獣が来るとか。僕は一瞬、実は君が飼い主なんじゃないかと疑ったよ」


 歩き始めてすぐにルーセンが、私に向かってそう言ってきた。


「私が飼い主なら、ルーセンを各個撃破しに行ってるわ」


 ちょっと意地の悪い顔をした彼に、もっと意地の悪い顔で返してやる。


「んでもって、倒せる自信があるわ」

「アヤコが飼い主じゃなくて本当に良かったと思う!」


 今更だけど、私さっきから初対面の人相手にする会話してないよね。最初は夢だと思っていたからなあ……まあいいか。それこそ、今更だ。


「魔獣は、セネリアによって生み出されているんですか?」


 私がルーセンと話している間に、前方では美生とナツメが聞き覚えのある会話をしていた。


(この時点で、もう魔女セネリアのことを美生は聞いていたんだっけ)


 やや離れた位置から、二人の後ろ姿を眺める。本編に絡む場面は、なるべく近付かない方がいいだろう。本来、私は存在しない人間なわけだし。

 美生からごく自然にセネリアの名前が出たことに、私は『彩生世界』の流れを思い返してみた。

 オープニングは、美生が学校からの帰り道を歩いているところから始まる。

 そこで美生は聖女として異世界ルシスにナツメの魔法によって召喚され、カサハたちと出会う。そして彼らに魔女セネリアに破壊された世界を元に戻すための協力を乞われる。

 当然戸惑う美生だったが、その時頭の中に助けを求める女性の声が聞こえ、同時に彼女は魔法を操る能力に目覚める。感覚に従い魔法で風の刃を生み出す美生。女性の声が切実なことと何より声の主が気になった美生は、自らも戦闘に参加する意思表明をする。

 本来ならそこで最初の戦闘が始まるはずが、今回はその間に私が喚ばれるという展開になったようだ。


「魔獣とセネリアの関係性については、今のところ不明です。ただ、セネリアが世界を闇に変え始めた時期と魔獣が現れ始めた時期は、ほぼ同じ。まったくの無関係とは思えないですね。一度目に神殿を訪れた彼女は「二日後にイスミナの街を消す」と脅迫し、そして二度目に、実際街は消されました。魔獣を生み出すくらい容易いかもしれません」

「街が消された?」


 聞き返してきた美生に、ナツメは頷いてみせた後、無言でそのまま歩き出した。

 先頭を行っていたナツメが神殿の外へと出て、そこで彼が立ち止まる。


「え……?」


 短く声を上げた美生が一度足を止め、それから彼女はナツメを追い抜いて、もっと前へと駆け出した。

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