『予言』の力(3)

「それ、回復魔法? だったら今はそれをやっては駄目」

「? どういうことです?」


 思った通り、回復魔法だったらしい。

 詠唱を止めたナツメが、私を見上げてくる。


「私が知ってる方法で勝利結果を出すには、戦闘中に決まった手順を踏むことが必須なの。だから、戦闘中にナツメを私の都合で動かすことはできないわ」

「それは……俺たちは安全でも、貴女はそうではないということになりますね」

「え?」


 まったく予想していなかったナツメの切り返しに、ついぽかんとなる。


「貴女は、「そこまでは考えていなかった」という顔ですが」


 考えるわけがない。普通は画面の中で繰り広げられている小さな世界を外から見ているのだから。

 しかし、言われてみればつまりそういうことになる。

 彼らを無事クリアまで導くには、私は戦闘の場にいる必要がある。でも、その『無事』に私は含まれていない。

 あれー?


「……わかりました。俺たちのことで忙しい貴女を、俺が見ることにします」

「えっ、でも」

「勿論、貴女の指示は守ります。勝手に移動も魔法も行いません。その上でなら、口を出すぐらいはいいでしょう?」


 ザシュッ

 私は、ちらりとフロアを見た。丁度最後の魔獣を、カサハの攻撃で消滅させた光景が目に入った。


「うん、まあ多分」


 戦闘中にランダムで会話が発生することもあったし、こうしてナツメと話していても問題無くステージ1は終わった。そう判断して構わないだろう。


「では、回復魔法をかけても?」

「え? あ、うん。もういいと思う」


 私が答えるや否や、改めてナツメが私の足に触れてくる。

 暖かな光を発している自分の足が不思議で、ワクワクする気持ちを隠しきれない。じっと見入ってしまう。


「へぇ……回復魔法って意外と時間がかかるのね。印を中心に徐々に広がるということは、大きな怪我だとそれに比例して長くなる感じか」


 ゲーム画面では、一瞬キラッと光ってパッと完了していた。でも、例えばグリッド十マスを移動するのにゲームでは一秒やそこらしか掛からないところを、実際は十メートル移動する分の時間が経過しているわけで。その辺を頭に入れておかないと。


「あ、治ったみたい。ありがとう」

「どういたしまして。靴はすぐに手配しますが、ひとまず簡単な防御魔法を掛けておきます」


 言ってナツメが、今度は私の足に手を翳す。簡単なと言っただけあって、こちらはキンッと一度硬質な音が出ただけで完了したようだった。


「向こうは無傷のようですね」


 うん、そうね。戦闘してない私だけ怪我をしてるね。

 この世界で最弱なんじゃないかしら、私。まあ美生たちがクリアしてくれれば、元の世界に帰れるはずだから、それまでどうにかやり過ごそう。


「それじゃ、皆のところへ行きましょう」


 私はナツメに声を掛け、美生たちのいる場所へと向かった。

 ラストまでこの調子で、目指せクリアだ。

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