『予言』の力(2)

「うわっ、やっばい。魔獣がアヤコが書いたまんまの動きしてる!」

「かなりおかしな気分だな」

「これです! 私が見た彩子さんと、同じです!」


 フロアから三人分の興奮気味な声が上がる。

 既に指示を書き終えた私は、伝達盤と彼らの動きを追っていた。

 魔獣が実体を持っていないせいか生臭さが軽減され、どうにか直視できている。


(次はああなって、こうなって――終了、と)


 ここはチュートリアルマップなので、敵味方とも行動回数はそう多くない。しかし、今後戦闘開始直後にこうして指示を出すのなら、次回からはカンペを用意しておいた方がいいだろう。他のステージも同様に、もはや条件反射でスイスイ攻略できる自信はあるが、準備しておくに越したことはない。


(これできっと、『予言』を採用してもらえるわよね)


 予想通りの動きをする魔獣に、私はホッと胸を撫で下ろした。

 自分の知る攻略法が通用することがわかったこともだが、その方法を実行に移せる機会が与えられたことに、何より安堵した。


「ありがとう、ナツメ。貴方が口添えしてくれて、助かったわ」


 私はナツメに向き直り、自分とともにこの場に残った彼に礼を言った。

 ナツメがこちらを一度振り返り、けれどすぐに視線をフロアの三人に戻す。


「いえ、貴女が「一択だ」と言った意味を俺なりに解釈したからです」

「解釈?」

「選択があるということは、貴女に見える未来は一つではなく複数なのではと思ったのです。そしてカサハさんたちに具体的に指示を出した貴女なのに、俺への指示は無かった。つまり、貴女が選択した方法は誰も怪我を負わない、もしくは戦闘後で済む程度の軽傷。違いますか?」

「! 合ってるわ。ナツメってすごいのね」


 感心のあまり、私はつい彼の服の裾をつかんでしまった。

 外から見ていた私と違い、ナツメは生粋のこの世界の住人。それなのにさっきの遣り取りでそこまで読んでしまうなんて。

 服を掴まれたせいか、ナツメがまた私を見てくる。


「俺が治療できてしまうせいもあり、特にカサハさんは自分の怪我をいとわない傾向にあります。だから俺は「怪我を負わないこと」を最重要とした貴女の作戦を見てみたいと思ったんです」


 そこまで言ってナツメが、ふと何かに気付いたように突然その場に屈む。そして彼は私の裸足の足の甲に触れた。

 予想外のことにギョッとして、思わずナツメを見下ろす。


「貴女の足は、普段は裸足では歩かない足ですね。石段で擦り傷が出来ています」

「あ……ああ、うん、そうね」


 五つも年下の綺麗な青年にかしずかれるこの構図(実際には違うが)。何だかイケナイことをしている気分になってくる。

 そんな私の胸中など知らず、ナツメは私の足に触れたまま、何か呟いた。


「! あっ、待って」


 その『何か』に思い当たり、私は慌ててナツメを止めた。

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