『予言』の力(1)

「では、そういうことで――」


 フォン

 ナツメがおもむろに宙に手を翳す。すると、この場にいる全員それぞれの目の前に、二十センチ四方のホログラムっぽいものが現れた。何故か私の前だけには、その下に三十センチ四方のものと二つ並ぶ。


「アヤコさん、大きな方の光に手を触れて下さい」

「? こう……って、わっ」


 ホログラムが一度輝き、その光が収束する。するとそこには、私が先程思い描いていたマップがまんま表示されていた。……どういう原理?


「なるほど。これは状況がわかりやすいですね」


 ナツメだけが一人納得顔で、「魔獣も俺たちの表示も、特徴をとらえています」なんて言っている。


「アヤコさんにこれだけ詳細な記憶があるのなら、今のような指示が出てきた理由もわかります」

「私の記憶?」

「ええ。記憶を映す、写影の魔法です。自警団では誰が使用しても図形が並ぶだけだったのですが、アヤコさんのは面白いですね」


 まあ一から考えるなら、普通チェスみたいなものを思い浮かべるだろう。戦況を見て、その場で図形に変換できる方が素直にすごいと思う。


「使い勝手は異なると思いますがアヤコさん、大きな方に触れてアヤコさんの記憶に近しい形で最初の指示を再現してみて下さい」

「えーと、触れて再現ね……」


 スマホゲーム的な感覚で、操作してみろということだろうか。私がプレイしていたのは家庭用ゲーム機だったけれど、そういえば今度スマホにも移植されるという話だった。


(スマホなら……こんな感じかな)


 私は指先でカサハのユニットアイコンに触れ、南へ三マスドラッグした。指を離すと、オーソドックスな白枠に黒背景なコマンドが出てくる。

 『攻撃』

 『待機』

 『キャンセル』

 縦に並んだ三つの中から、『攻撃』を選ぶ。

 と、カサハの移動経路を表す矢印が青の実線で描かれ、目的マスの上方に『攻撃』と書かれた吹き出しが表示された。攻撃対象となる魔獣の吹き出しは、『撃破』となっている。

 そして寧ろゲームより勝手が良いことに、その次に動く魔獣の経路が赤の点線で表示されていた。これなら美生たちにも、より視覚的に伝わりやすい。

 最後に『決定』を押せば、小さな方のホログラムにそれは反映された。こちらは皆のものも連動しているようだ。


「出す指示が決まっているのであれば、最初にすべて指示盤に書いていただいていいですよ。伝達盤には、直近三つの指示のみ表示されます」

「何て便利な……」


 これを使えばゲームと変わらない操作ができるじゃないか。

 『アヤコは まほうのどうぐを てにいれた!』

 今、そんなテロップが流れたわ。きっと。


「じゃ、アヤコのこれで一度やってみるということで。先陣よろしくカサハ」

「ああ」

「頑張りますっ」


 最初の指示に従い、ルーセン、カサハ、美生が駆けて行く。

 それに伴い、現状を表示するホログラム(小)――伝達盤上のユニットも動き出す。

 私はそれを目の端に、ホログラム(大)――指示盤の方へステージクリアまでの指示を書いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る