第12話
「大丈夫かな…」
ついつい呟いてしまった私。
それに対して、一華さんは呆れたような顔になっている。
「あの程度なら本来の姿になる必要も無いですわよ」
「あっ…!」
そうだ、確かリルちゃんは龍王っていう種族なんだった!
人間じゃなかったんだ!
でも、今の姿を見ると心配…!
だけどそんな心配と裏腹に、戦闘は一方的に進んでいく…
――――――
「ーーーーーーっ!!!」
よく分からない言葉のようなものを発しながら、わたしに物凄い大きさの大剣を凄まじい速度で振ってくる。
だけど、それだけ。
こちらを舐めているのか技術のようなものは感じられない。
「それなら、すぐ終わらせる。」
そう呟くと、わたしは2本の剣を取り出して、片方の剣で大剣をいなして防ぐ。
流石にあの大きさであの速度ならダメージくらいは喰らわせられそうだし、痛いのはいや。
もう片方の剣を大剣を振り切って隙を晒しまくっている大鎧――確かロイヤルガードナーだったかな――の鎧と兜の僅かな隙間に刺し込む。
びくん!と大きく震えたロイヤルガードナーだけど、わたしは気にせずに刺した剣を振り抜く。
すると、兜がずり落ちた。
「終わったかな。
…ッ!?!?」
そう思って凛と一華の方を向いたわたしは、油断していて、側面から大剣で殴り飛ばされた。
どうやら兜が無くても、ダメージが少しあるだけで特に支障はないようだ。
…痛い、もう、許さない…
「…さっさと、死んで…!!」
ロイヤルガードナーが対応できないような速度を出し、わたしは両の手に持った剣を隙のないように交互に振り抜き、連撃を続ける。
だけど、ロイヤルガードナーはすごく硬い。
剣じゃ相性が良くないようで、わたしは仕方なく剣を納めて、素手で戦うことにする。
剣戟よりは打撃の方が効き目ありそうだし。
「ーーーーー!!!」
「む…?」
変な声のような音を目の前の鎧が発すると、一華と凛とマスターがまとまっている所に沢山の首のない騎士――デュラハンかな?――を召喚した。
「無駄に力を消費していいの?」
向こうが弱いと思ったようだけど、デュラハンはせいぜい下層のボス程度。
私とマスターと一華は勿論、今の凛でも1対1なら勝てると思う。
なので、わたしは向こうは無視して目の前のロイヤルガードナーだけを見て仕留めることにする。
大剣を水平に振って、こちらを叩き斬ろうとしてくるロイヤルガードナー。
だけど、そんな見え見えの軌道なら余裕で防げる。
「そこ…【アイシクルコフィン】」
大剣の平らなところを叩いて地面に落とさせて、その隙にわたしは思いっきり殴り飛ばされた仕返しをする為に、【氷撃魔法】で氷の棺に閉じ込める。
この程度なら直ぐに抜け出してくるだろう。
だけどその一瞬があれば十分。
「しかえし」
端的に一言呟いて、わたしは全力で回転蹴りを胴体のど真ん中に打ち込む。
凄まじい音を立てながら、ロイヤルガードナーはダンジョン壁に突撃した。
「少し満足。」
わたしの全力の蹴りには耐えられなかったのか、ドロップアイテムを落として消えたロイヤルガードナー。
正直、もう少し強いと思ってた。
ドロップアイテムは、よく分からない金属の塊が一つと割と大きい魔石だ。
この魔石は、確か人間たちがえねるぎー?とやらに変換してるから、大きさによって売れる値段が変わったはず。
後は武器素材にもなる。
そして凛の方を見てみると、デュラハンが一体だけ残っている。
どうしてだろうか?と思って近付いてみると、どうやら一華の結界で閉じ込めているようだ。
そして更に近くに行くと、少し言い合っている声が聞こえる。
――――――
「いやいやいや!?
私じゃデュラハンタイマンは無理だって!」
「いけますわよ!
レベル凄く上がったんですから、寧ろ余裕ですわよ!」
そう、私は今、一華さんにタイマンでデュラハンを倒して見てって無茶振りされているのだ。
下層ボスをタイマンで倒せる人なんて、今の日本には一人しかいない。
日本最強って言われてる、レベル1700の人だけだ。
私は多分レベル1600くらいだろうし、タイマンじゃ勝てないと思う。
なのに戦わせようとするんだよ!?
無理無理!
「んー!
鈴宮さんはレベル1700超えてるのでいけますわよー!!」
「え!?
レベル1700!?」
「そうですの!
魔力量や身体能力的に余裕で超えてますの!」
「…そう、だったんだ」
:レベル1700!?
:今の日本最強と同じ!?
:↑いや、日本最強はほぼ確実にカスミちゃんゾ
:カスミちゃん除いて日本最強と同じ?
:多分!
:それなら、デュラハンにもソロでかてるんじゃね!?
:でも凛ちゃんが嫌なら無理しないでね!
:でもソロで倒すかっこいい凛ちゃん見たい…見たくない?
「む、むぅ…」
コメント欄も戦えるって判断の人が多い…
レベル1700…日本トップの人はこんな身体能力してたんだ…
でも、デュラハンソロは…
でも6体同時に相手して五体瞬殺して一体捕らえることが出来た人――モンスターだけど――もいるんだよね。
「うー…わ、わかった!
やるよー!!!」
「おぉ!
それでこそ鈴宮さんですわ!」
「ん、頑張れ。
今の凛なら勝てる。」
もう半分くらいヤケになりながら刀を構えて、いつ結界解除されてもいいように準備しておく。
いつの間にかすぐそばに居たリルちゃんは気にしない方針で。
もうこうなったら倒してカスミちゃんに褒めてもらうし…!
「じゃあ解放しますわね〜!」
「ーーーー!!!」
解放されたデュラハンはやかましいくらい激しく鎧の音を立てながらこちらに向かってくる。
だけど途中で一華さんの方に向かっていく。
「そりゃずっと捕まってたんだったら仕返ししようと思うよね。
でも…相手は私だよ?」
多分私は速度特化なのだろう。
駆け出すと次の瞬間には離れていたはずのデュラハンが目の前にいる。
多分前の私なら動体視力が追いついておらず、ぶつかっていただろう。
だけど今の私は動体視力も強化されている。
余裕で目は着いてくるし、それどころか少しデュラハンの動きが遅くすら見える。
「征く!」
そう言って私は気合を入れると、すぐそばに居るデュラハンを手にしている刀で斬り掛かる。
しかし、流石は鎧。
凄まじく硬い。
火花を散らしながらも弾かれた私の刀をちらりと見て、このままじゃ厳しいと考える。
でもあの二人は今の私で何とかなるって言ってたよね。
「なら、突破口を探すまで…!」
そう呟くと目の前で大振りに両刃剣をこちらに振り下ろしてくるのを確認する。
当たるとタダではすまないだろう。
下手をすると死ぬかもしれない。
「当たらなければ、大丈夫…!」
横に跳んで避けると、大ぶりの攻撃だった為隙だらけ。
その隙だらけのデュラハンとの距離を一息で詰める。
「【風刀術】 嵐花!
吹き荒れろ!」
私オリジナルのスキルを発動させて、追加詠唱も即座に入れる。
このスキルは、まず刀の一振で相手を打ち上げる。
そこに風の刃が嵐のように殺到するスキルだ。
嵐花の追加詠唱は単純強化だ。
風の刃の数が倍以上に増えて、更に相手を風の結界で閉じ込める。
そういうスキルだ。
前の私ならこれを放つだけで息切れをしていたんだけど、今の私はまだ余裕がある。
「ーーーーっ!!!」
風の結界を突破してきたデュラハン。
だけど、その鎧には大小様々な傷が入っている。
これは…行けるかも…!
「もっと…」
だけど速度が足りないのかどんどん対応され始めてきた。
…もっと
「ーーー!」
少しデュラハンが余裕を取り戻してきた気がする。
もっと…!
何が足りない?
力、足りない。
これは仕方ない。
速度。
どうして、私は速度特化。
レベル1700の特化ならもっと出るはずなの…!
もっと!
「もっと!!」
自分の中で何かがハマった。
これは多分、私が自信が無かったから。
だから、実力を出し切れなかっただけなんだ。
「ーーーー!?」
先程までよりも更に速度が上がり、対応出来ていないデュラハン。
さっきまでは隙を見つけれなくて使える気がしなかったけど、今の私を見失って隙だらけなデュラハン相手なら…いける!
「【風刀術】 八閃万花!!
咲け!万花!」
私の使えるスキルで一番攻撃力が高いスキルを使う。
これは私の奥義的な物だから、魔力量に変わらず残りほとんど全ての魔力を強制的に消費する。
でもその分、今回の八閃万花は前回の数倍の攻撃力になる…!
追加詠唱も即座にする。
この追加詠唱の効果は内側に風の刃を発生させることができるんだよ。
デュラハンだろうと、内側を魔法で攻撃されたら…死ぬでしょ?
その考えの通り、デュラハンはその場に倒れ込み、靄となって消えてなくなる。
デュラハンが居た場所には、デュラハンの装甲の一部、更にはそれなりの大きさの魔石が落ちていた。
「やっ、た…?」
「ふふ、お疲れ様でしたわ!
かっこよかったですわ!」
「ん、かっこよかった、お疲れ。」
二人に褒められて、漸くソロで討伐したんだ、と言う実感が湧いてくる。
それと同時に、疲れと魔力不足で倒れそうになる。
「おっと、危ないですわよ」
倒れそうになったが、一華さんが支えてくれた。
私は、一人でデュラハンを討伐できたんだ…!
「やったぁ!!」
:うぉぉー!!!
:やりやがった!
:凛ちゃん最強!
:日本で公式二番目のデュラハンソロ討伐者だよ!?
:や、やべぇ、マジで凄すぎて…やべぇ
:語彙力死んでるニキ居て草
:凛ちゃんの奥の手、発動したぁ!!!
:ホンマに日本トップ勢のひとりになったぞ!!
:まさかデュラハンソロ討伐できるとは…このリハクの目でも見抜けなかった
「ん〜、凛ちゃん〜!
お疲れ様だよ〜」
そんな喜んでる私に飛び付いてくる人影がひとつ。
私はほとんど反射で抱き抱える。
「カスミちゃん!!
ありがとー!」
私は嬉しさからそのまますりすりと頬擦りをする。
少し恥ずかしそうだが、それでもカスミちゃんは嫌がっている風には見えず、そのまますりすりしているとストップが入る。
「ん、確かに頑張った。
でもスリスリしすぎ。」
「そうですわよ!
わたくしたちでもそんな事したことないですわ!
狡いですわよ!」
無理やり私からカスミちゃんを奪い取ったリルちゃん。
もっとすりすりしたかったけど…仕方ない。
「ボクはぬいぐるみじゃないよ〜?」
少し困ったような顔でそんな事を言うカスミちゃんは物凄く可愛い。
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