第10話

「ん、いつもの剣、ちょうだい」


抑揚のない話し方でボクに剣をもとめてくるリル。

それに対して、ボクはアイテムボックスから2本の剣を取り出して投げ渡す。


「これだよね〜?」


この2本の剣は、リルに頼まれて、リルの鱗や爪を使って作った剣なのだ。

その為、以前作った神剣なんかよりも数段上の力を感じる。


それに打ち合うためにも、ボクは自分の武器を取り出す。

見るものを魅了するような、そんな刀。

銘を、【フリューゲル】という。


羽のように軽く、それでいて相当頑丈だ。

更には切れ味が凄く高い為、この程度の階層ならば壁をバターのように切り刻めるだろう。


「……じゃあ、始める?」


「ん〜、これ、地面に落ちたらスタートで〜」


そう言うとボクはアイテムボックスに手を突っ込み、取り出した硬貨を親指で上に弾く。

そして…カラン…と地面に落ちた音が鳴ると同時に、リルがこちらに向かって攻撃をしてくる。


初めの頃は技術なんて全くなくて、ただただ力任せに振り回していただけだったリルだけど、いつの間にかきちんと技術を手に入れて鍛えていたらしい。


右の剣が迫ってきていると思ってそちらを見ていると、左の剣が下から跳ね上がってくる。

ボクは咄嗟に上体を逸らして避けるとそのままサマーソルトを放つ。


「…やっぱり、こんなんじゃ無理」


「え〜、相変わらずしんどいな〜…」


「じゃあ、次…!」


「んっく、お手柔らかに〜」


一回、二回と打ち合っていると、リルのギアが上がったことを感覚で理解する。

これは…少し本気でやらないとまずいかなぁ…


ボクはさっきまでの防戦一方から一転、攻勢に移る。

双剣なリルとは違ってボクは一本だ。

だがそれでも速度を出しながら斬り合うと、リルは少しキツそうな顔になる。


「ん〜、隙だよ〜!

【アイシクルスピア】〜!」


「っ!ぐっ…【ファイアウォール】…」


剣を弾いて隙を晒したリルに向かってボクは【氷魔法】の氷槍を飛ばす。

すると、【炎魔法】の炎の壁を作ってなんとか対処したリル。

だけど…


「視界を塞ぐのはどうかなあ〜?

【クリエイトグラヴィティ】」


「あぐっ…!

…【クイック】」


【重力魔法】を使いリルに圧力をかけるが、この程度で倒せる程甘くは無い。

すぐさま重力の範囲から抜け出したリルは、急加速してボクの懐に潜り込んでくる。


「…あっぶなぁ…!

いつの間にか、相当強くなってるし〜…」


「一華と鍛えてたから」


どこかドヤ顔混じりに言われると、微笑ましく感じるけど、今は戦闘中。

こんな話をしてる間にも並のモンスターなら余波で死ぬほどの剣戟を行っている。


「ん〜、強い〜…」


「それは、こっちのセリフ」


「…っ!

【アイシクルジェイル】!」


お互い少し距離を取った瞬間に、ボクは【氷魔法】で檻を作り出すと、そこにリルを閉じ込める。

だけど、この程度の檻じゃリルを少し足止めするくらいしか出来ない。


というか、そもそも氷魔法だとリルの方が実力が上なのだ。

やるなら別の魔法の方がよかったような、と考えるけど、ボクが咄嗟に使ってしまうのが氷魔法だ。


「【氷撃魔法】氷華万閃ひょうかばんせん


「ッ!!!

【煉獄魔法】ヘルファイア〜!」


【氷魔法】の上位魔法、【氷撃魔法】を放ってくるリルに、ボクは慌てて【炎魔法】の上位である【煉獄魔法】を放って何とか相殺する。

しかし、その隙に氷の檻からは抜け出されていて、いつの間にかボクの目の前に居る。


「…ッ!?

【ショートワープ】」


「…やっぱり、空間魔法はずるい…」


慌ててボクが空間魔法を使い、距離を取るとそんな事を言うリル。

正直、今のは距離取らないと負けてたと思う。


「ん〜、リル、強いよ〜

頑張ったんだね〜?」


「ん、マスター、わたしの事を褒めてもいい」


「んふふ〜、そういう所可愛いね〜?」


「そういう事ばかり言うのはどうかと思う。

勘違いされても知らない。」


「勘違い〜?

何を勘違いするのか知らないけど〜、とりあえず、続きと行こうか〜」


そういうが早いか、ボクはスキル【縮地】を使ってリルの視界から一瞬外れる。

それでもすぐにこちらを捉えてくるリル。

だが、その外れた一瞬で魔法を発動させながら接近していたボクは、凛ちゃんがしてたって一華が言ってた事を真似することにした。


凛ちゃんは、風魔法と刀術を合わせたらしいけど、ボクは炎魔法と【雷魔法】を合わせることにした。


「【炎雷魔法】 紫電炎雨しでんえんう


「ッ!

いつの間に新しい魔法を作ってたの…!」


雨のように雷が落ち、落ちた場所には青色の炎が残っている。

それなりに上位のモンスターでも黒焦げは免れない程の威力を見せているこの魔法だけど、欠点としては自分にも当たるから距離があるときにしか使えない。

後は魔力の消費がそれなりに激しいので適当に打つのは危険だ。


リルは、当たったところで致命傷とまではいかないけど、それでも中程度の怪我は負うことになるだろう。

その為、全ての雷を避けている。


どうしても避けれない時には剣で弾いているが、それでもかなりキツそうだ。

しかし、これは戦い。

雷にばかり気を取られていちゃ、ボクに攻撃してくれって言ってるようなものだよ?


「【土魔法】 アースランス〜」


ただの土の槍だが、それでも魔力を込めれば相当な硬さにはなる。

ボクはかなり込めたので、当たればリルでもただじゃ済まないだろう。


「征け…!」


「んぐッ、おかえし…!」


「…くぅっ…!」


勢いをつけて飛ばしたが、咄嗟に体を捻って避けたリル。

だが、その避けたタイミングで雷が落ちてリルに当たる。

苦悶の声が聞こえるが、その直後。

【氷撃魔法】のアイスジャベリンが飛んできた。


炎の障壁を貼るが反射的なものでは止めることは叶わず。

障壁を貫いて来た氷の槍はボクの腕に深々と刺さる。


しかし、その直後にリルが倒れた為、戦闘は終わりになった。

…やっぱり戦いって好きじゃないなぁ

腕、痛い。


「ご主人様、大丈夫ですの!?」


走って近付いてきた一華。

正直腕に氷の槍が刺さってるだけだから、雷に何度も打たれていたリルの方が重症だと思う。


「リルを治療してあげて〜?」


「いえ、リルならば勝手に治りますわ!

それよりも、人間のご主人様の方が治療優先するべきですの!」


…確かに、もう傷はほとんど癒えてるっぽい。

満足したのか、無表情な顔に少しだけ笑みが乗ってる。

…ような気がする。


「やっぱりマスター、強い。

わたし、また負けた…」


「いやリル、あなたもかなり強いですわよ?

ご主人様に傷をつけるなんて、相当鍛えてましたわね!

これはわたくしも負けてられませんわ!」


ボクを治しながらもリルの健闘を称えている一華。

この二人、結構仲良いんだよね。

よく戦闘訓練として戦ってるからかな?


まぁ仲良しなのはいい事だよね。

そして呆然とした表情で佇んでいる凛ちゃんの元へボクは歩いていく。


「凛ちゃん〜?

どうしたの〜?」


「……はっ!?

いやいやいや!?

どうしたのって、あの戦い何!?

模擬戦のようなものだと思ってたのに、ガチの殺し合い!?」


殺し合い?

そんな物騒だなぁ。

どこからどう見ても模擬戦なのに。


「ちょくちょくしてる模擬戦だよ〜?」


「…私の知ってる模擬戦と違う。」


:…おい、何かみえたやつ、居るか?

:レベル1450の俺でも見えなかったんだが?

:レベル1450ってガッチガチのトップ勢じゃねぇか!?

:そんなやつでも見えない戦いって…スーパースローで見ても見えなさそうだなぁ…

:ぼやけてそう

:途中なんか【重力魔法】的なもの使ってたような…

:え!?お前見えたの!?すげぇ!

:俺なんて炎綺麗だなぁくらいだぞw

:俺は雷綺麗だって思ったな

:だけど俺らなら余波で即死しそうな戦いなんだよなぁ…

:アニメかよ…

:いや、アニメなら見えるからアニメ超えだな!

:アニメは見やすいようしてしてくれてるんだなって感じたわ

:なんでこいつらこんな余裕そうな顔してんの?

:そりゃおめぇ、天使だからだよ

:うーん、こりゃこの子はずっと眠そうだし眠たげ天使様って呼ぶしかないな

:眠たげ天使様www

:案外言い方好きだわw

:こりゃ二つ名きまったなw

:凛ちゃんが二つ名なんだっけ?

:凛ちゃんは【風の戦乙女】だぞ

:かっこいい!そして可愛い


「あれ〜?

凛ちゃんって〜、【風の戦乙女】って呼ばれてるの?」


「うっ…一応…組合が勝手に決めた二つ名はそうなってる…」


顔を真っ赤にしながら頷く凛ちゃん。

なんか…可愛い。


「可愛いよ〜?

風の戦乙女だ〜!

可愛いしかっこいいね〜」


「………。」


真っ赤になりながら俯いている凛ちゃんを見て楽しく感じているボクはにやにやしている。

ボクの2つ名も決まりそうになってることも気が付かず凛ちゃんをから買っていたボク。


「カスミちゃんだって眠たげ天使様って言う二つ名つきそうじゃん!」


「…???」


ボクは言われたことを理解できずに呆ける。

そしてコメントを見せられて、本当にそう呼ばれそうになってることに気が付く。


ちなみに今の同接は70万を超えている。

なぜなら、アビスの中に入っているような映像が相当珍しいので、そのせいで増えて行ったらしい。


でも何よりも一気に増えたのが、ボクとリルの戦闘シーン。

ボクとリルは両方とも小さい。

認めたくないけど、小さいんだよ。


なのに普通の人には見えない速度で戦っていたから、一気に拡散されたらしい。

たくさんの人に見て貰えて嬉しそうな凛ちゃんを見て、ボクは少し嬉しく感じた。


ボクが戦ったら人が増えるのかな?

もしそうなら、もっと戦ったら人がもっと増える?

そしたら凛ちゃんは喜ぶ?


「ん〜、ちょっと適当にモンスター連れてくるね〜?」


「え…!?

ち、ちょっとぉ!?」


ボクは返事を待たずに適当に走ってモンスターをトレインしてくる。

少しでも失敗したら大惨事だけど、とりあえず20匹くらい連れてきた。


大半はフェルスバードで、アラクネが二匹と火龍が一匹、更にフェンリルが三匹だけ混ざっている。

やっぱりこの階層は大半がフェルスバードなんだね。


「な、何してるの〜!?!?」


「ん?

戦ったら人が増えるかなって〜。

人が増えたら凛ちゃん嬉しいでしょ〜?」


「う、嬉しいけど、それ以上に私はかすみちゃんが大事なの!

あまり危ないことしないで!」


危なくないのに…

この程度のモンスターなら正直すぐに全て処理することが出来ると思う。

更に安全を期すなら、リルや一華に手伝ってもらえば確実に一瞬で仕留められるよ。


でも、それだと余り楽しくないしね。

それするなら今から全て同時に仕留めるよ。

スキル使えば余裕だし。


とりあえず、仕留めていこうかな。


「とりあえず〜、倒すね〜」


「ちょっと〜!?

危ないことしないでって言ったよ〜!?」


放置しておく方が危ない気がするなぁ…

とりあえずスルーしておこっと。


ちなみにここで倒したら凛ちゃんのレベルを一気にあげれるんじゃないかなって言う期待もあるよ。

一気にレベル上げると慣れるまで時間かかるけど、それでもここには今ボクと一華が居る。


だから余裕を持ってどんなことでも対処できるので、一気にレベルを上げちゃおうって所だよ。


「「「「ぴー!!!」」」」


「ァォォォッン!!」


「――――ッ!!!」


「グガァァァァ!!」


それぞれ思い思いに叫ぶモンスターたち。

特に火龍がうるさい。

それはリルもそうだったのか、火竜を睨んで一瞬魔力を放出した。


その結果、圧倒的な実力の差があると分かった火龍は、その場から逃げ出す。

ダンジョンモンスターって逃げるっていう手を取るんだね…


まぁ逃げるのなら追いかけるの面倒だ。

放置しておくことにする。

あ。


「煩わしいですわ!」


ボクは放置しておいたのに、うるさくてイラついていたのか、一華が結界術で閉じ込めた。

勿論このままじゃ閉じ込めただけだけど、壊せないならこのまま縮めていくと、正直かなり黒いけど結界で押しつぶすことが出来るのだ。


そして、この程度のモンスターでは一華の結界を破壊できる訳もなく。

抵抗虚しく押しつぶされて火龍は死んだ。


残りのモンスターは、ボクがこうやって火龍を見てるうちに沢山の石の槍が飛んでくる。

この石の槍はフェルスバードの物な為、かなりの魔力が込められている。


「でも、この程度の槍じゃ〜無理だよ〜?

【空絶】」


ボクは空間魔法の一つである【空絶】を使う。

空絶は、空間自体を遮断する結界だ。

弱点としては魔力消費が馬鹿みたいに多いこと。


「【空裂】」


「ぴぎぃぃっ!?!?」


同じく空間魔法の一つである、【空裂】を使う。

すると空間自体に亀裂が入り、その亀裂は逃げようとしていたフェルスバード達を追いかけるかのように広がっていき、当たった瞬間。

フェルスバードの、その体にも亀裂が入っていき、抵抗できずに広がり切った瞬間にフェルスバードの全身から血が噴き出す。


勿論、これで全てのフェルズバードを倒せた。

しかし、アラクネとフェンリルに関しては余裕そうに避けていた。


なのでボクは追撃を放つ。


「行くよ〜?

【迅雷一閃】」


ボクがそう呟いた瞬間、ボクはモンスター達の真後ろにいて、いつの間にか抜いていた刀を納めている。

フェンリルたちがこちらを振り返った瞬間に、フェンリルとアラクネが粉微塵になって死んだ。


なんということは無い。

ただ一瞬で近付いて切り刻んだだけ。


「…夢…?」


呆然としながらこちらを見ている凛ちゃんに、ボクは微笑みながら手を軽く振る。



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