第9話

「皆、こんばんは!

いつも通り、鈴宮凛だよ。

今日はダンジョンじゃなくて、家で配信するよ!

ダンジョンはまた行くから待っててね!」


:こんばんはぁぁ!!

:ばんわ!

:そういえばなんだけど、決まり挨拶みたいなんないの?

:こんばんわぁ!

:待ってた!

:お!家配信来ちゃ!

:ダンジョンのかっこいい凛ちゃんも好きだけど、家でゆったりしてる凛ちゃんも好き!

:そういえばカスミちゃんどうしたの?


「お、いいとこに気がついたね!

カスミちゃんは今居るよ!

一緒に配信することになった!

ちなみに挨拶は特に考えてないかな。」


「んぅ?

凛ちゃん〜、もういいの〜?」


ボクは配信の挨拶をしている凛ちゃんを見ていて、目配せして貰ったタイミングで、下からにょき、と生えてくる。


:www

:はえてきたw

:1にょっき!w

:草w

:↑草に草を生やすなァ!!

:ごめんやん

:相変わらず可愛いなぁ


なんかよくわかんない事を言っている凛ちゃんの配信の視聴者さん。

人前に出るのは好きじゃないけど、ただの文字だと考えれば気にならないかな。


「というわけで、私の家に住むことになりました!

うちの座敷わらしちゃんです!」


「座敷わらし?

ボクはにんげんだよ?」


:座敷わらしw

:確かに福が来そうだけどw

:そういえば服可愛い!

:確かに!

:おそろいコーデだね?


「おぉ!

気付いてくれた!

今日カスミちゃんと一緒に服を見に行ってたんだよ!

そこでお揃いの服を買っちゃった!」


「…服、見に行ったね〜」


着せ替え人形にされていた時を思い出して死んだような目をしているであろうボクを見てか知らないけど、コメント欄が草やwで埋め尽くされた。


「楽しかったね!」


「…つかれた」


凛ちゃんと外出は楽しかった。

それは本当だけど、それ以上に着せ替え人形のせいで疲労が強い。


「…よし!

この話やめよっか!」


少しは罪悪感があるのか、目を逸らしながらそう言う凛ちゃん。

それに対して少しジト目を向けるボク。

コメント欄はてぇてぇ、や草が大量発生している。


その中で「そう言えば一華ちゃん召喚してたけど、ほかに召喚できるモンスター居るの?」という質問が見えた。

それを見て、リル――すっごく強い龍王のモンスター――を召喚しようと思ってたことを忘れていたことに気付く。


拗ねられるかもしれない、と思ったボクは少し慌てる。

その慌てたボクを見て凛さんは不思議そうにする。


「どうしたの?カスミちゃん。」


「リル、召喚するつもりが忘れてた〜!

どうしよ〜!拗ねちゃうかも〜」


「あー…言ってたね、後で組合長さんの所に行く?」


「………ダンジョンに行って召喚して来る〜!」


「え!?」


そうと決まればこうしてはいられない。

今すぐ行かないと、とダンジョンに行く準備をするボク。

だって、遅れれば遅れるほどリル、拗ねるしなぁ…


「ま、待って!

その召喚、配信してもいい?

私も行きたいんだけど、配信始めたばかりだから…」


「んー…まぁ、いいよ〜?」


:よしゃぁ!!

:あの一華ちゃんみたいなの召喚するんですか!?

:楽しみ!

:でも何故ダンジョン?

:大きいんじゃない?

:あー、確かにな

:どんなのが出てくるか予想しようぜ!w

:じゃあ、でっかい鳥!

:いやいや、りるって名前なんだろ?ならフェンリルだろ!

:フェンリルとかw現在未確認モンスターじゃんw

:敢えてのドラゴンと予想!

:いやー、楽しみ!


凛ちゃんも用意をさっさと終わらせたようで、いつでも行けるようだ。

ボクはおもむろに手を差し出して、握るように言う。

不思議そうにしながらも凛ちゃんは握ってくれる。


「どうして手を握るの?」


「ん、転移するから。」


「は?」


「【テレポート】」


「…???

ッ!?!?」


一瞬理解してなかったようで俗に言う宇宙猫のような表情になった凛ちゃん。

でも、ダンジョンだと理解した瞬間刀に手を掛けて戦かえる準備を即座に終えるのは流石、だね。


でも…


「よっ、と〜。

えいっ!」


「ぴぎぃっ!?」


ボクは、死角から飛来してきた石の槍のようなものを素手で掴み取る。

そのまま飛んできた方向にそれなりの力を入れて投げ返す。

すると、この石の槍を飛ばしてきたであろう土魔法を使える鳥、確か、フェルスバードだったはず。

そのフェルスバードの頭にボクの投げ返した槍が刺さる。


否、それだけではなくそのまま貫通して、硬すぎて壊せないと評判のダンジョン壁に数センチ突き刺さる。


勿論、飛ばしてきたフェルスバードは脳天を貫かれて即死している為、既に姿は見えず、ドロップアイテムの羽と肉が落ちている。


「…い、今のは…?」


「ん〜?今のはフェルスバードっていう鳥さんだよ〜?」


「…飛ばしてきたのは、【ロックランス】…?

いや、硬さ的に上位魔法の【アースランス】?

魔法を使えるモンスターは居るけど、上位魔法を扱うモンスターとか…1500レベル以上のボスモンスターくらいでしか確認されてないはずだけど…?」


「ん〜、ここは〜、所謂アビスって言う場所だよ〜?

あの鳥さんは弱い方だね〜」


レベルも精々2700と言うところだろう。

レベル2500のパーティーなら、壊滅覚悟で戦って、被害を出しながらギリギリ一匹狩れるかな?


ボクが倒した時はただの雑魚に見えるだろうけど、実際問題、唐突に現れたボク達の視界に入る前に、空間の歪みに気付き隠れる。

更に死角から致死レベルの魔法を放ってくるんだから、そりゃあ、まぁ強いって言われるよね。

そもそもこの子のこと知ってる人、居ないっぽいけど。


まぁ、全部対処できるようになったらただのお肉だけどね〜。

この子のお肉、美味しいよ。


「アビス…どうして、こんな危険なところに…?」


「ん〜、だって〜、呼び出したら多分戦うことになるし〜。

上の方だと脆いから崩れちゃうの〜」


リルの機嫌を治すために戦闘することになるだろう。

それが人化形態ならまだいいけど、龍形態なら崩れるだろう。

その為、周りに人がいない、更には魔力の濃さから壁が堅い所に呼び出すのだ。


「…アビスなのは理解したよ。

理解したくないけど、理解した。

私が全く戦えない所だってね。」


まぁ、1280の凛ちゃんじゃ、無理かな。

あ、いや、今のフェルスバードのおかげでレベル1400くらいまで上がってる…?

どちらにせよ無理か。


「凛ちゃん〜、レベル、多分一気に上がっちゃった〜」


「え?

…確かに、言われてみれば凄く体が軽くなった気がする…」


やらかしたなぁ。

レベル、一気にあげると体が上手く扱えなくなるから、危険なんだよね。


とりあえず、一華呼んで、凛ちゃん護衛ついでに体の扱いに慣れてもらおうかな?

凛ちゃんが怪我しても、一華なら治癒できるだろうし。


この前呼び出したように魔法陣を出して、一華を召喚する。

この前みたいな狐ではなく、始めから人型だった。


「ご主人様、どうかしましたか?」


「一華〜、凛ちゃん守ってあげて〜?

ついでに、体の扱いに慣れさせてあげて〜」


「護衛?

…あぁ、確かにこの場所じゃ鈴宮さんじゃ厳しいですわね。

任せてくださいまし、両方とも、承りましたわ!」


そこまで話して、ようやく再起動した凛ちゃんがこちらに突っ込む。


「当たり前のように一華さん召喚したね!?

そして一華さんはそれでいいの!?」


「わたくしはご主人様の為に居ますから、どんなことでも頼ってくれるなら嬉しいんですわ!」


「あぁ、そっか。

まぁ、私もカスミちゃんに頼られたらどんなことでも嬉しいかも…」


「ですわよね!!」


:いやいやいや!!?

:【テレポート】!?

:そんな魔法あんの!?

:え、それがあればいつでもダンジョンから帰還できるじゃん!!

:うわぁ、どれだけエグい魔法持ってんのカスミちゃん…

:…!?!?

:なんか飛んできた!?

:カスミちゃんが掴んで投げ返したァ!?

:どうなってんの反応速度!

:フェルスバード?聞いたことないな。

:てか聴き逃してたけどここ、アビスなん!?

:うわぁ…てことはあの鳥も相当レベル高ぇよな…?

:それをワンパン…スキルも使ってないよな。

:うーん、きちんと知れば知るほどカスミちゃんが人間なのか怪しくなる。

:一華ちゃん来たァ!!

:癒しのご到着じゃぁ!!

:めんこいのう!


なんか二人が意気投合してるっぽいから、少し開けた場所に着いた辺りで二人に離れて貰う。

開けた場所で何をする気か気付いた一華は、急いでボクでも割るのにそこそこ苦労する結界を組み立てる。


相変わらず【結界術】のレベルが高い。

結界に関しては勝てる気が全くしない。


「ふぅ、それじゃあ、呼ぶからね〜」


そう離れた場所にいる二人に言うと、一華を呼ぶ時よりも数倍大きな魔法陣が空中に現れる。

そしてそれがいくつも現れて、その沢山の魔法陣がひとつに纏まる。

その纏まった、とても大きな魔法陣から凄く大きい、ドラゴンが現れる。


それを見た凛ちゃんは、近くにいるだけでプレッシャーを感じているのか、冷や汗を掻きながら少し足が震えている。

一華は、よくこのドラゴン、龍王 リンドヴルムのリルと訓練と称して殺し合いまがいのことをしている為、プレッシャーを飄々と受け流している。


コメント欄をちらりと確認してみるとコメントが止まっている。

多分このドラゴンの圧力で指が動かないのだろう。

画面越しでも多分圧力くらいは感じるだろうからね。


そして当の本人…本龍?はこちらを見下ろして一気に縮む。

どうやら狭かったようで人型になるようだ。


そして人型になると、どうしてかボクより少し高い程度の身長――凛ちゃんと同じくらいかな?――まで縮む。

本龍曰く、まだ子供の時代らしいので人間だとこのくらいのようだ。


見た目は、少し目付きが鋭く、髪の毛は前髪アリのショートボブ。

青髪で、龍の角と尻尾が生えている。

元々氷龍だったのが、進化して龍王になったらしいので、青髪らしい。


一華が炎を扱うのが得意だから二人は反対だね。

ちなみに羽も生やせるらしいけど、人型だと歩く時にバランスが取りにくいらしくて収納しているらしい。


「…マスター、呼ぶの、遅い。」


「ごめんね〜?」


「別に。

マスターが何処で何をしてようがわたしに関係は無いし。」


あまり抑揚のない話し方で、聞く人にクールな印象を与える声を発するこの子は、龍王ドラゴンロードリンドヴルムのリル。

戦って倒した後に仲間になってくれた子だよ。


王なのに女の子?って疑問に思うかもしれないけど、あくまで龍王っていうのは種族名。

本人的には女王って感じらしい。

言いにくいから龍王のままなんだって。


「ん〜、ごめんね〜?

あまり拗ねないで〜?

ボクで出来ることならなんでもするからさ〜?」


「その言葉、待ってた…

じゃあ、戦って」


やっぱりかぁ、この子、ちょっと戦闘狂なところがあるからなぁ。

戦うのはいいけど人型か普通の龍か聞かないと。


「いいけど〜、どっちで戦うの〜?」


どっち、と聞くだけで意図をきちんと読み取ってくれるので、有難いよね。


「ん、人型で」


人型ってことは技術を磨きたいんだね。

…眠たいけど、仕方ないなぁ、頑張ろう。

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