第7話
結局、ボクはお金の使い道を思いつかなくて、凛さんと少しお高いところの焼肉屋に来た。
割とこの付近だと有名らしく、凛さんがこのお店を教えてくれた。
「ねぇ、カスミちゃんに奢ってもらわなくても自分で払えるよ?
私、そのくらいは稼いでるし、だから奢らなくてもいいよ?」
お店に入るまでもずっと言われてたけど、中でも言われるとは思わなかった。
「凛さん、ボク、お金の使い道思いつかないので〜
むしろ、使わせて欲しいんだ〜」
これは本心だ。
実際、ボクには物欲というものがほとんど無い。
それこそ、世界最高の枕や布団のためならなんでも捨てられるくらいには、枕、布団以外のものへの執着がない。
あ、でも、流石に仲間と枕なら仲間を取るけどね。
いくらボクが枕、布団を第一に考えてるとはいえ、仲間が一番大切だからね。
…ちなみに、今使ってる枕は頑張って集めた一華の狐形態での抜け毛を綿代わりにして、皮はとある蜘蛛を仲間にして、その子の糸を使って作った布で包んで縫ったものを使ってるよ。
前回武器売った時のお金を何に使ったかと言うと、もっといい素材が無いかな、と手当たり次第に買ってたんだよね。
だけど天狐族のふわふわもこもこの毛に勝てるものはなかったよ。
布も、いいのはあったけど脆いからすぐに破れちゃうから、結局ボクの仲間の蜘蛛の糸で作った布にしたしね。
けど、ボクの知らない素材もあったから、いくつか便利グッズは作れたし、お金を消費した価値はあったかな?
「…まぁ、カスミちゃんがそう言うなら…」
しぶしぶ、といった表現が似合う表情で引いてくれて、ようやくこの話を終わりにできるな、と思う。
正直、こんな話よりもご飯を食べたいんだよね。
「じゃ〜、食べよ〜?」
そういうが早いか、ボクはドンドンお肉を焼き始める。
ふふふ、無駄に地下暮らししてるだけあって、ボクはお肉を焼くのは上手いと思うよ。
「これ〜、いい感じだよ〜?」
そう言うとボクはいい感じに焼けたお肉を凛さんの所に置いて、その後に焼けたものを自分のところに置く。
そしてもう一度並べて焼いてる間に食べ始める。
「いただきます〜」
「いただきます。」
ハモったりはせずに、少しだけタイミングがズレてお互いに言う。
そしてどちらからともなくお肉を食べる。
「ん〜!
美味しいね〜!」
「…ふふ、そうだね、美味しいよ。」
ついつい目を輝かせながら美味しい!と言うと、どこか微笑ましげな視線で凛さんがボクに笑いかける。
むぅ、これじゃボクが子供みたいじゃない?
「ほら、これも〜、これも大丈夫だよ〜」
少しいらっときたボクは、どんどん焼いて凛さんのお皿に大量に置いていく。
食べる速度より増える速度の方が早く、慌てながらボクを止めて、ボクにも食べるように言う凛さん。
こんな感じで、穏やかに食事は進んで行った。
そしてボクと凛さんは凛さんのお家に帰る。
ボクが帰るって言うのもあれだけど…
まぁ今はご飯の感想を言い合おうかな。
「ん〜、美味しかったよ〜
また行きたいね〜」
「そうだね!
でも、次行く時は私が奢るからね?」
「え〜?別に気にしなくてもいいのに〜」
「だーめ!
カスミちゃんが私にお金の事で気を使ってたでしょ?
ほら、私の家に住むってなった時にさ?
それと同じで私も気にするの!」
むぅ…それを言われたら弱いな〜。
だって、ボクが言ったことだから。
「ま、とりあえずしばらくはダンジョン潜るのおやすみしよっか。
どうせ、ほとんどダンジョンから出てきてないんでしょ?
少しは休まないと!」
「ん?
ダンジョンは趣味みたいなものなので〜
特に疲れたりはしないよ〜?」
そう。
ボクからするとダンジョンって静かで寝やすい最高の環境なんだよね。
確かに、危ないっていうのは分かるけど、それでもあそこの寝心地は凄まじいものがあるよ…!
そう思っているボクは少しだけごねる。
「でも〜、あそこで浮かびながら寝るのが一番気持ちいいんだよ〜?
少し寒いエリアもあるけど〜、そこはあったかいお布団に包まって浮かんどくの〜
気持ちいいし寝やすいよ〜?」
「私の家の布団、かなりふかふかで眠りやすいと思うのにな〜?」
ボクの興味を引く事をよく分かってる凛さん。
それを聴いたボクは、一度だけお布団を体験してみることにする。
その結果…
「ふわぁぁぁ…!
ふかふかで、お日様のいい匂いがする〜!」
外見年齢相応にはしゃいでしまって、生暖かい目で凛さんに見つめられる。
でも、そんなことにも気が付かないでボクは、ごろごろとお布団を満喫している。
「ふふ、どう?
このお日様の匂いはダンジョン内では体験できないでしょ?」
「…全力で開発すれば…!!」
「いや、そこまでしなくてもこっちで寝れば良くない?
ダンジョンに行かない時は好きに使えるんだよ?」
「あ、確かにそうだね〜?
なら〜、しばらくダンジョンはおやすみします〜!」
あー、このお布団好きに使えるなんて最高だね〜♪
枕は…いつものやつの方がいいかな〜。
ボクは、お布団で陥落させられて、ダンジョンにはしばらく行かないことになった。
まぁ、しばらくって言っても数日休んだら多分また行くけどね。
「あ、そう言えば、ずっとダンジョンに居るって言ってたけど、お風呂とかどうしてたの…?
もしかして、汚い…?」
「むー!
失礼〜!
きちんと【光魔法】の【クリーン】で綺麗にしてるもん〜!」
汚い、と言われて少しがーん!と来たボクは、ついつい全力で言い返す。
…その時の姿がまさに小学生高学年くらいの子がやいやい言っているだけのソレとほぼ同じことにも気が付かずに。
あ、でも、普通の違うのはいつでも眠たいから、目がずっととろん、としているところかな〜。
正直、こんだけ話しているけどすぐにでも寝たい…
今日は色んなことがあったから、いつもより疲れてるんだよね。
ステータスのお陰で身体的には疲れてないけど、精神的に凄く疲れた。
うん。今日のボクは頑張った。
ご褒美としてまるまる2日間くらい眠るべき。
「ふぁぁ…もう、寝てもいい〜?」
「え、まだ早くない?
っておもったけど、そういう子だったね。」
くす、と言う笑い声が少し聞こえるけど、そんなことよりもとりあえず眠たいボクは自分の枕と、凛さんのお布団で眠りにつく。
「…おやすみなさい〜」
――――――
「…やっぱり、寝るの早いなぁ。
それに、あんなに強いのにこんなにも無防備…」
私はついつい、寝ているカスミちゃんのほっぺたをぷにぷにと突っついて呟く。
それこそ、アビスのモンスターも簡単に…かは知らないけど屠れるくらいには強いのに、私の目の前で寝ている少女は凄く無防備だ。
「それに、こんなものをくれるなんて、嬉しいな。」
私はくすり、と笑いながらカスミちゃんに貰った御守りを軽く握って言う。
このお守り、なんか、凄い力を感じるんだよね。
それこそ、神剣とかと同じか、それ以上の力を。
あのカスミちゃんが御守りとしてくれたものなのだ。
それこそ、アビスのモンスターを一撃死させる程度の効果はあってもおかしくない。
…こんなの持ってるって知られたら私、狙われるかも?
いや、ないか。
私を狙うよりカスミちゃんに頼んだ方が安全だし可能性はあると思う。
カスミちゃんって、気に入った人には尽くすタイプっぽいから、気に入られたら自然と凄まじいものをポンと渡されそうだし。
それに、生産能力も化け物クラスだけど、戦闘能力もはっきり言って訳が分からない。
今更ながら考えると、ミノタウロスの突進って深層モンスターの中でも最高クラスに速いって言われてるはずなのに、それを軽々と見切る。
それだけでなく、その突進してるミノタウロスの角を掴む。
そしてそのままその場で回りながらミノタウロスの突進を利用し、壁になげつけ即死させる。
言葉にすれば簡単…いや難しいな?
ま、まぁ、簡単に言うと、ミノタウロスの速度を軽々と見切る動体視力があって、突進してるミノタウロスの、その中でもあまり大きくない角を狙って掴む正確性。
それに、そのまま振り回して壁にぶん投げる腕力。
こんなのアメリカの、世界最強って言われてるレベル2500の人でもできないと思う、というか出来ない。
…自分で言ってて思う。
これ、人間?見た目も相まって天使って言われた方が納得できるよ?
あ、いや、出来ないわ。
七つの大罪を使う天使って何?
そんなのがいたら怖いね。
話が逸れたけど、簡単に言うととてもやばい。
語彙力が無くなるくらいにはヤバいよ。
それでいてどこか放っておけないオーラを放っているし、なんだかんだ優しい。
会って初日だけど、少しだけ惹かれているのを自覚しちゃう。
…ダメだ、組合での事を思い出す。
…あの時のカスミちゃんの少し紅潮した顔、抵抗しているようで全く力の入っていなかった腕。
これは、私の願望かもしれないけど、何処か期待しているかのような表情。
腕に関しては怪我させないように、かもしれないけど、それにしたって力が入って無さすぎる。
それに、怪我させないようにだとしたら凄く優しい。
私に、凄く優しくしてくれている。
その全部が、愛おしく感じる。
ダメ、さっきは少し惹かれていると言ったけど、私は凄く惹かれているようだ。
あのカスミちゃんの整った顔を眠たげにしている顔も。
真面目に武器作りに従事しているあのかっこいいカスミちゃんも。
面倒くさそうにしながらも、きちんと組合まで着いてきてくれる優しいカスミちゃんも。
今の無防備に眠っている可愛いカスミちゃんも。
その全てを愛しく思うよ。
でも、私の想いは重たいから。
内緒にして、少しずつ、少しずつ仲良くなっていこう。
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