第5話

「っは!」


しばらく呆然としていると、ふと我に返る。

いつまでもぼーっとしておくわけにもいかないため、帰る用意をし始める。


まぁ帰る用意って言ってもほとんど収納するものないんだけどね。

そんな事を考えながら用意していると、片付け終わり、いつでも帰れるようにする。


カスミちゃんを誘って帰らないとね!

とりあえずは、起こさないとかな?


「カスミちゃん、起きて〜?」


私は、優しく揺らしながら起こす。

まぁ、優しくでも浮いているから思ったより動いて危なかったけど…


全然起きないな、と思いながらずっと揺すっていると、小さく目を開ける。




――――――





「ん、ふぁぁ…?

どうしましたか〜…?」


眠たいなぁ…と思いながらも起きて、ボクは凛さんに何かあったのか聞く。

眠たいなぁ、寝たいなぁ、と考えながら返事を待つ。


「えっとね?

もしよかったら、私の家に遊びに来ない?って思ってね

それと、そろそろ私は帰るからさ」


む…凛さん帰っちゃうのか…

家に来ない、かぁ…

地上は面倒だなぁ…でも凛さんと離れたくないなぁ


「んぅぅ…わかりました〜

凛さんの家に遊びに行きます〜」


離れたくないから、地上に一緒に行くことにしたボク。

あ、でももうお金ないな、最後に武器売ったの二年前だから流石にもう無くなっちゃった。


高めの調味料とすっごく高い枕買ったからなくなっちゃってたんだ。

また武器売るべきかな?

作るの面倒だなぁ…


「凛さん〜、ボク、お金今無いよ〜?」


「あ、お金なんて要らないよ?

私があまりカスミちゃんと離れたくなかっただけだからね。

後、こんな可愛い子をこんなところに一人にしたくないから!」


可愛い…そんなことないと思うけど、言われるのは嬉しいなぁ…

顔が赤くなっているのを感じながらも嬉しさから少し笑ってしまっていて。


「ふ、ふーん?

そんなに言うなら〜、ボクも連れて行っていいよ〜?」


ついて行く気満々で、枕をアイテムボックスに入れて用意する。

凛さんについて行けばいいのかな、と隣に立って、行く準備を完了する。


「あれ、行かないの〜?」


準備は終わって、いつでも行けるのに全く進まない凛さんを見てボクはつい聞いてしまう。

どこか驚いているようにも見えるけど…


「…あーっと、なんでもないよ、行こっか!

……調味料しか入ってないと思ってた袋…アイテムボックスが付与されてたんだ…」


なんか小さく呟いた気がするけど、テンションが少し上がっているボクは聴き逃してしまう。

まぁ、それよりも地上だね。


「地上久しぶりだ〜」


ゆっくりと進む凛さんの隣でそんな事を言いながらついて行く。

何事もなく地上へ向かって進んでいる。


:…いや、はや過ぎない?!

:これ、RTAか何かか?

:カスミちゃん速過ぎ!!

:ちょっと速度落とさないと凛ちゃんしんどそうだよ!

:り、凛ちゃん!頑張って!

:俺らは応援することしか出来ねぇ…!


…何事もないったら無いんだよ。



まぁそんなこともありつつダンジョンから出るボクたち二人。

ちなみに一華はいつの間にか帰ってた。


ダンジョンから出ると、ボクには誰だあいつ?的な視線を、凛さんにはなんかあこがれ?のような視線を向ける人が多い。


……眠たい。

こんな視線ばっかだから地上って嫌なんだよ。

とりあえず行こ?と思って凛さんの服の裾を軽く引っ張る。


すると、こっちを見た凛さんが、ボクの視線に気付き、笑顔を返してくれる。

そしてそのまま手を繋いで凛さんの家へと向かう。

流石にダンジョンから出たあたりで配信は切ってたようだよ?


凛さんのお家の前に着くと、ボクは驚いて凛さんを見る。

なぜなら、凛さんはかなり大きなお家に住んでいたからだ。

えっと、確か、たわまん、?ってところかな。

そんなところに住んでいるようで、大っきいマンションを見てボクはついつい凛さんを見つめてしまう。


「あはは…実は、お金に関しては視聴者さんのお陰と、ダンジョン素材売れば問題ないし、お金とかよりも渋谷ダンジョンまでの近さの安全性を重視したらここになったんだよね。

ま、近いのがいいってだけだから高層階なんて買う気もないんだけどね?」


確か、高さが高くなればなるほど値段も上がるんだっけ…

くす、と笑いながらボクに色々と説明してくれてる凛さん。

何階に住んでるんだろう?と思い、ボクは聞いてみることにした。


「凛さん〜、何階に住んでるんですか〜?」


「んー?私は1階だよ?

あまり高いと移動が面倒だからね。」


展望目当てとかじゃないんだー?と思いつつも凛さんに連れられて部屋に入る。

思ってるよりは広くて、お部屋も綺麗だった。


まぁおうちに関してはこんなところでいいかな。


「凛さん〜、ボク、寝ていい〜?」


この辺りは静かで寝やすそう、そう考えて、寝ようと思い聞くが、今は電話中みたいだ。

仕方ない、待っとこうかな?


…暇だから、適当に鍛治しよっと。

そう思って、ボクは【空間魔法】を発動する。


「【断絶空間】」


熱や悪いものを遮断してくれる結界魔法だよ。

ここは人の家だから、熱で壊れないようにしないと…


「久しぶりだな〜、頑張ろっと〜」


特に気負わず、軽い気持ちで鍛治をするための用意を全部出す。

とは言ってもスキルの不思議でトンテンカン、としたら簡単に出来るからハンマーと素材だけだけどね〜


「えい、えい、」


軽く言いながらとん、てん、かん、かん、と下層の下、深層、その更に下のアビスのとあるモンスターの素材をつかうことにした。


「むぅ…硬い…強いモンスターだったからかな…?

真剣にしないと」


そう言うと、ボクは深く集中する為にスキル【集中】を発動した。

深く集中して、目の前の素材しか見えないようになる。


「ふ、ふ…」


槌を振る時に軽く息を吐きながら集中して、完成系を脳裏に浮かべる。

この時にきちんとイメージできてないと弱くなるから要注意。


「はふ…完成した〜…」


時計を見ると、始めてから三時間経っていて、それなりにいい物を作れた!と満足感がある。

ふと横を見ると、呆然としている凛さんが見える。


…呆然としてる凛さん、見慣れたなぁ

なんてことを考えながら、悪い空気や、熱を全て【闇魔法】で消し去る。


そして安全になったところで【空間魔法】を解く。

そしてぼーっとしてる凛さんの肩を軽く触る。


「凛さん〜?

お電話終わった〜?」


「あ、いや、えと、電話はとっくに終わってて、カスミちゃんを見て驚いてただけなんだよね…」


「…?」


驚くようなことあったっけ〜?

暇な時によくやることしてただけなんだけど〜…


そんなことを考えながら作った物、を見て満足そうに頷くボク。

んふ〜、しばらくはこの武器メインでいいかも〜


「ね、カスミちゃん、その武器は…?」


「あ、えっとね〜、それなりに強かったモンスターの牙を使って作ったんだよ〜」


うん、あのモンスターはそれなりに強かった…

ブレス飛ばしてくるし、空飛んでるし、おっきいし、堅い。

その特徴を全て凛さんに伝えると、頬を引き攣らせながら素材が余ってるか聞かれる。


素材はまだ翼膜とか眼球とか爪とか火炎袋とか、逆鱗とか鱗とかがある為、ある、と伝える。

だって、普通のモンスターで沢山倒したから余ってるんだよ。


「ね、そのモンスターの素材、鑑定してみない?」


「鑑定…確かにいいかも〜」


あのモンスターさん、それなりに強かったし名前くらい覚えときたい。

でも、あのモンスターさんで普通のモンスターだったからなぁ…ボスのあの子とはもう戦いたくないや。


あ、というか、あの子に聞けばいいんじゃないの?

あの子、あの空飛ぶモンスターたちの主だったし、覚えてると思うけど、どうだろ?


「カスミちゃんどうしたの?

考え事?」


「うん、考え事。

凛さん、呼び出したい子が居るんだけど、おっきいから騒ぎになるかもなの。

何処かいいところ、無い?」


「騒ぎ?

どれくらいの大きさ?」


「えっと、10メートルはあるよ?」


「…ん?

10?おっきすぎない!?

何を呼ぶ気!?」


あの子、確か種族は龍王ドラゴンロードリンドヴルム…だった気がする。

そのまま名前伝えて伝わるかな?


龍王ドラゴンロードリンドヴルム、だよ?

ボクの仲間でもトップクラスに強い子だよ〜

今だと多分、一華と互角くらいじゃないかな?」


うん、多分そうだね。

この前聞いてみたら1210回戦って605勝ずつしてるって言ってたし、ほんとに互角なんだろうね。


「…龍王?

それも初耳のモンスターだし!!!

そんなやばそうなモンスターと一華さん互角なの!?」


種族としてはリル――リンドヴルムの名前だよ――の方が強いはずなんだけど、それと同格になるまで頑張った一華、凄いよね。


あの二人が戦う時、周りが荒れに荒れまくるから周りを気にしなくていいような地下深くじゃないと戦えない!って嘆いてたなぁ。


だから確かあの二人が全力で戦っても壊れないような場所欲しいって言われたんだよ。

それで思いついたのが空間魔法で亜空間を作り出す事。

って、なんでボクこんな話してるんだろう。


「それより、この子、呼び出す方法無い?

呼び出してあげないと拗ねちゃいそう。」


あの子、甘えん坊だからね。

可愛いから別にいいけど。


「あ、そ、そっか

呼び出せる場所…んー…探索者組合くらいしか思いつかないかなぁ…」


探索者組合って、なんだったっけ。

えっと…忘れちゃった。


「えーっとね、私たち、ダンジョンを探索する人のことを探索者っていうんだよ。

そして、その探索者がダンジョンの素材を売る場所のことを探索者組合って言うんだよ。

売る以外にも、依頼とかが貼られてたりしてるよ?」


なるほど、創作でよくあるギルド、みたいなものかな。


「さっき、電話してたのはね?

そこの組合長さんがカスミちゃんに会いたい、話をしたいっていう要望だったの。

だから、もし行くなら丁度いいから組合長さんと会ってくれない?」


…上の立場の人と会うなんて、めんどくさい…

嫌な人が多いって聞くし、出来れば嫌だなぁ…


「あ、一部ホントにゴミみたいな人がいるけどあそこは本部だから全員悪い人は居ないよ!

そこは心配しなくていいよ!」


ゴミって…そんなに言うんだ…?

でもそんだけ嫌な人ってことだろうけど、大丈夫って言うなら、信用出来そうかな?


…安全なら、会うくらいならしてもいいかも…?

でも、面倒だなぁ…

あ、でも鑑定するにはどちらにせよ行かないと行けないのか。

それに、リルを呼び出すためにも行かないといけないんだよね…


「わかった、行くよ〜…」


ホントーにいやいや、だけどね…

はぁ、憂鬱だ


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