第4話

「あのー、そろそろよろしくて?」


「はっ…!!」


ついつい思考停止しちゃってた…!

危ない危ない…


:危なかったって思ってるかもだけどもう手遅れよ?w

:いやー、五分間も呆けてる凛ちゃん、可愛いなぁww

:おいおいwあんまからかうなってw


「〜〜〜〜ッ!!!!

う、うるさいよ!!!」


「ふふ、ご主人様が気に入るのも少しわかる気がしますわね?」


くすくすと笑いながらそんな事を言う一華さんに、私はつい赤面して顔を逸らす。

だが、変な言葉が聞こえた気がするためすぐに振り返り聞き返す。


「え?

カスミちゃんが、私を気に入ってる?」


そうなのかな…?

確かに初めて会ったにしては色々教えてくれるし…

言うことも聞いてくれるけど…そうなのかなぁ?


「ん?

あぁ、本当ですわよ?

ご主人様って、普段ほとんど起きずに寝ていますもの。

それがわざわざ起きてまで人と話すなんて滅多にないことですわ。」


「そうなの?

…もしそうなら、嬉しいなあ」


気に入られてるなら嬉しい、そう思ってついつい破顔して笑う。

カスミちゃん、色々実力とかあれだけど、本人は優しいし、可愛いから私も気に入ってるんだよね。


「よし!

カスミちゃんを地上に連れていこう!」


:お!いいね!

:地下暮らしは流石に…

:本人がしたいからしてるんだろうけど…ダンジョンって怖いから…

:でも連れて行ってどうすんの?

:あ、確かに、地下暮らしなんだから地上に家とか無いかもね…?

:俺でいいなら面倒見てやるぞ!

:↑野郎の家にやらせるわけねぇだろうが!!

:んー…しっかりしたところじゃないとカスミちゃんに武器とか作らせそうなんだよねぇ…


「あ、勿論、連れていくんだから私の家に泊めるよ?

ほとんど無理やりに連れ出すんだから、そのくらいはしないとね?」


苦笑しながらコメント欄を見て、自分の考えを伝える。

すると、コメント欄が急に早くなる。

普段は同説31000人くらいなのに、今日に関しては55000人もいるからかな?

コメント欄が私の動体視力でも読めないや…


:え!?キマシタワー?

:おー!!確かにそれなら安心だ!

:キマシタワー建設や!

:キマシ?キマシ?

:これは…あんなことやこんなことを期待していいんですね!?

:百合豚共がやかましすぎで草

:もはやコメント欄見えねぇよ…


「…コメント欄早すぎ無い?

私、見えないんだけど」


「きましたわー?とかゆりぶた?とかなんとか言ってますわね」


「きゃぁっ!?」


読めなくて少し困っていたら横からひょっこりと顔を出した一華さんが、どんなものが書いてたのかを教えてくれる。

教えてくれたんだけど…急に出てくるのはやめて…驚く…


そしてなんか笑ってるし…

いつか絶対仕返ししてやるもん!!

今は圧倒的に実力が足りないかな。


それに、きましたわー?百合豚?

あぁ…確かにリスナーって、そういうの好きだもんねー…

私とカスミちゃんはそういう関係じゃないのに。


「おや?

鈴宮さん?顔真っ赤ですわよ?」


からかうように笑いながら指摘してくる一華さん。

その視線を、顔を逸らして受け流す。


「べ、別に!

カスミちゃんとはそういう関係じゃないから!

……悪くないって思ったけど…」


後半はぼそり…と呟いただけなのでリスナーには聞こえていないようだけど、一華さんは聞こえていたのか小さく笑いながらこちらを見てくる。


「わたくしとしても、鈴宮さんならご主人様を預けてもいいって思ってますわよ?

それこそ、ご主人様に武器とか求めずに、なんなら見返りを貰おうともせずに家に泊める気だったんですわよね?

そんな、まぁ…善人のあなたなら、任せてもいいですわ!」


保護者のような視点で私になら任せてもいい、と伝えてくる一華さん。

それを聞いて私は真っ赤になりながら、そういう関係になった私とカスミちゃんの事を想像する。


「って!

そんな関係じゃないって!」


自覚出来るくらい真っ赤になりながら否定する。

私…ノーマルのつもりだったのになぁ…


:あれ、なんか急に聞こえなくなったぞ?

:確かに、そういう関係じゃない、のところから全く聞こえなくなったよな?

:もしや、壊れた?

:でも急じゃね?

:んー、壊れたしか考えれないよなぁ

:いや、多分音遮断してるな?これ?

:え、遮断とか出来んの!?

:いや、言い方的に分かりにくかったかもやけど単純にミュートって事な?

:けっ!分かりにくいなぁ!


「さて、からかうのはこれくらいにしておきまして、モンスター、来ましたわよ?」


「え!?」


モンスターが来た、そう聞いた瞬間に意識が切り替わる。

先程までのゆったりした空気は一瞬で霧散して、代わりにぴりぴりとした張り詰めた空気が当たりを包み込む。


「ふむ、これは…なんのモンスターか分かりませんわね。」


:うぉっ!?

:チャージボアだ!

:こんな大きかったっけ?

:まぁ俺らは本物を見たことないし…

:いや、俺は下層探索できるからしってるんだが、普段よりふた周りくらい大きいぞ

:↑上位の探索者!?

:下層探索出来るやつとかそれなりに上位だぞ!?

:…やめろ、凛ちゃんとかカスミちゃんの前だと有象無象だ、ソロで下層探索できる凛ちゃんと違って、パーティーでゆっくり探索出来るだけなんだから…



チャージボアは、名前の通り突進をしてくるイノシシだ。

たったそれだけ?と思うかもしれないけど、速さがとてつもないの。


まぁ、レベルは1170で、私なら見てからカウンターも出来るけど、同格のレベル帯だと回避するので精一杯になるから、ほかのモンスターも一緒に来たら危険なモンスターだね。


でも、いつものよりもふた周りは大きい。

それに、普段のチャージボアよりもプレッシャーが強い…!

これ、俗に言う強化個体じゃないの?


他のモンスターの魔石を食べたモンスターは、レベルが人段階上がる。

でも、見た目は大きさが変わるだけなので、普段通りと思って戦ったら簡単に死ぬ。

それが強化個体っていうものだ。


「……ふぅ」


軽く息をついて、落ち着く。

まだ距離はある、だからきちんと集中しろ…!


「…ふむ、鈴宮さんなら、この程度のモンスターは倒せそうですわね、ある程度の苦戦はしそうですが、それも経験ですわね。」


後ろで何か聞こえた気がするが、それよりも今は集中だ。


ッ!来た…!


「フゴッ、オォォォ!!」


「ッ!?はや…!

くっ…!」


想像の二倍早くて、なんとか横に跳び避ける。

そして壁に突撃する強化個体のチャージボア。

だが、特に堪えた様子もなくまた突進の構えになる。


「ふぅ…征く!」


「ブモォォォ!!」


突進してくる強化個体のチャージボア。

それを真正面から見て

刀を構えておく、そして、当たる!と言うタイミングでひらり、と横にかわしそのままスキルを発動する。


「風刀術【八閃万花】!」


スキルを発動して刀を八回、高速で振る、でも倒すまではいかずに、チャージボアが嘲笑うかのように鳴く。

そして突進の構えをしてこちらに攻撃しようとする。

でも、このスキルはここから!


「咲け、万花!」


私がそう詠唱すると、急にチャージボアが苦しみ出した。

そしてそのまま数秒すると、チャージボアが倒れ込み、消え去った。


私のオリジナルスキル、【八閃万花】は、私の持ってるスキルの【風魔法】と、【刀術】の合わせ技だ。

もちろん、それだけなら他の人にも真似できるけど、刀術、それに風魔法のレベルが8はいる為そうそう真似できる人は居ない。


ちなみにスキルにはレベルがあってね?

そのレベルは1から10まであるよ。

スキルの組み合わせでオリジナルスキルを作れるし、レベル毎に新しいスキルを覚えれるよ。

勿論、覚えれないスキルもある。

それこそ、多分カスミちゃんの【怠惰】とかもそうだと思う。


とりあえず…ドロップアイテムは…牙と皮、かな。

強化個体の牙、結構高めに売れるんじゃないかな?

戦った感じ、レベル1250はありそうだったし…


:うぉー!!

:凛ちゃんの奥の手の一つ、【八閃万花】だ!

:それを使わないといけないくらい強かったの!?

:追加詠唱まで必要だったし…

:うおー…刀を振ったところ見えなかったゾ…

:まあ、速いし…仕方ないよね!

:でも、こんな強いなら普段から使えばいいのに、どうして奥の手なの?

:そりゃお前、凛ちゃん見てわかんねぇのか?


「はぁ、はぁ、ふぅ…はっ…」


スキル【八閃万花】を使うと、全身痛くなって、更には魔力をそれなりに持っていかれるから疲れがヤバい…

本当は、ボス戦部屋とかの、ボスが居なくなれば安全、って所のトドメくらいしか使わないのに…

こんなとこで使うとか、危ないし…


息を整えながらも私は色々考えていて、次モンスターが来たらどうしようか、と考える。

くっ…言ってるうちにもう一匹…!


私は、痛む体にムチ打って、立ち上がろうとする。

でも、一華さんに止められる。


「いや、あのモンスターは私に任せておいてくださいまし。

面白いスキルを魅せてくれたお礼ですわ!」


そう言うと、一華さんはいつの間に出したのか、手の中にあった紙――御札かな?――をモンスターに投げつける。

強化種では無いけど、それでも下層モンスターだ。

ただの紙を投げた程度じゃなんの効果もない。


「…ぇ?」


そう思っていた。

けど、実際は張り付いた瞬間に大爆発を起こした。

結界でも張っているのか、こちらに爆風も熱も全く来なかった。


そして、煙が収まって当たりを見渡すと、モンスター――クリムゾン・ビー――のドロップアイテムである赤い蜂蜜が落ちていた。


モンスターのドロップアイテムで、ミルクとか蜂蜜とかの液体は、壺に入って出てくるのか不思議だなぁ


なんて、現実逃避もそこそこにしておかないと…


「ふっふっふ!

これ、面白いと思いませんか!?

ご主人様が、陰陽師とか合いそう。って言ってくれたので練習してましたの!

そして出来るようになりましたわ!」


クリムゾンビーを爆殺した一華さんを見て、私は思った。

あぁ…主従揃ってヤバいんだなぁ…って。


いやまぁ?

天狐自体がレベル3400とかいう化け物なので?

更に鍛錬を積んでる一華さんはもっとヤバいんだろうけど…

こんなのにカスミちゃんはかてるの?


私なら何も出来ずに瞬殺されて終わりだよ…

スキル使ってもダメージ与えれるかどうか…


あ、あはは…

私は、笑いながらまた遠い目をしていた。


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