第3話

んふふ〜、安全ってなればいいんだよね?

なら、”あの子”呼び出せばこの程度の場所なら安全になるはず…


「ん…」


ボクが軽く指パッチンをすると、ダンジョンの中だからまぁ、それなりに反響する。

まぁ、そんなことはどうでもいいけど、ならした途端、光る魔法陣が目の前に現れる。


「へ!?

か、カスミちゃん!危ない!!」


…?

凛さんが何か勘違いしてそうだけど、この魔法陣、少し集中しないと失敗するから、スルーする事にした。

そしてそのまま凛さんをスルーしながら、数秒経つと一際大きく光る。


「か、カスミちゃん!

これ、カスミちゃんが…?」


返事する余裕が無いため小さく頷くと、そのまま魔法陣を大きくする。

すると、”ソレ”が召喚された。


「ッ!?!?

う、うそ…そんな…

可愛いー!!!!」


「えぇ……………。」


召喚されたモンスターを見て、勢いよくそのモンスターを抱きしめる凛さん。

…ボクが言うのもなんだけど、警戒心無さすぎない…?


「ね!ね!

カスミちゃん!この子すっごい可愛い!!」


「まぁ、確かにかわいいけど〜。

でも、その子それなりに強いよ〜?」


見た目こそ何の力もないようなただの狐に見えるが、その実、あまり戦いたくないくらいには強い。


「えー?

ホントに?

こんな可愛いモンスター、見たことないけどなぁ…」


:可愛い!

:おい狐!そこ変われ!

:美少女×モフモフ、それ即ち最強

:…ん?ミノタウロスをただのお肉としか見ないようなカスミちゃんが強いって認識するって…ヤバい子なのでは?

:あっ…

:それこそ深層ボスと言われても納得できるかもなぁ…

:でも、狐型のモンスターなんて居たっけ…


「んー、やっぱり皆知らないみたい、この子、聞いてもいい?」


「…あのー、ご主人様?

助けて欲しいんですが」


その狐は綺麗な声でこちらに助けを求めてきた。

キミなら空間転移でも何でもして抜け出せるでしょ。

そう思ってボクは無視することにした。


ん?狐が喋ることにツッコミしないのかって?

だって、その子、それなりに上位のモンスターだし?

それに…


「ふぇ!?!?

狐が、喋った!?!?」


ボクの代わりに驚いてくれる人、居るから


「わたくし、ただの狐じゃないですわ。

自己紹介したいので、離してくださいですわ!」


こちらに助けを求めるのは諦めたのか、凛さん本人に対して離すように要求している。


「あ、ご、ごめんなさい!」


「いえ、大丈夫ですわ!

ちょっと待ってくださいまし」


そう言うとその狐は少し跳んだ。

そして、着地する直前にぽんっ!という音と共に煙がどこからが出てきて、狐の耳としっぽが生えた、勝気な目をした黒髪ロングできれいなお姉さん――身長は少なくともボクと凛さんよりは高い――がどこからか現れた。


「…へ?」


:どっから現れた子のお姉さん!?

:それよりもあの狐は!?

:いや待て、このお姉さん狐の耳としっぽが生えてるぞ…?!

:……てことは、まさか?

:人に擬態できる狐なのか!?

:俺たちは化かされたのか!?

:でも正直美人さんすぎてすこ

:↑激しく同意

:人に擬態できるモンスターって…今のところ深層どころかさらにその下のアビスでも見つかったって記録ないぞ…?

:てかそれ以前にアビスって今のところ一層ボスどころかモンスターすら数匹しか狩られてないよな??

:しかもその狩れたモンスターもアメリカの最強チームが満身創痍になりながらなんとか倒せたレベルの化け物のはずなんだが?


うんうん、ボクも最初は驚いたよ〜、だから他の人が驚くのを見ると少し楽しく感じちゃう…

なんか、こめんと?を見てみると大袈裟に書かれてる気がするけど、まぁボクでこの子を倒せるんだから倒せる人くらい世の中にはそれなりに居そうだけど…


この子の毛、もふもふで枕の素材に使いたかったんだけど…強かったから倒してペットにしたんだよね。

抜け毛を貰ってもふもふ枕を作れたからボクとしては満足…♪


「さて、それでは自己紹介しますわね?

わたくし、”天狐”と言う名前の種族ですの。

名前は一華、以後お見知りおきを。」


そう、天狐って神話に出てくる名前で驚いたよ。

でも、伝説上よりは弱いのか、ボクでも勝てたからよかった。


「……てんこ?

天狐って、あの…神話の…?」


恐る恐る、と言ったふうに一華に問いかける凛さん。

そんなに怯えなくても、取って食われたりはしないのにね。


「えぇ、その天狐であってますの!

崇めて奉ってもいいんですのよ?」


ふふん!と言う擬音が聞こえてきそうなくらいのドヤ顔をしている一華を見てると、そんな凄い種族とは到底思えないんだよね


「…なんか、嫌かも。」


「なっ!?

失礼!失礼ですわー!!?」


「んふっ!!」


凛さんが崇めるのはいやって呟いた瞬間ボクはつい笑ってしまった。

笑ったせいか知らないけど、少し涙目になった一華を見て、軽く撫でて謝り、慰めておく。


「えっと、それで一華を呼んだ理由なんだけど〜、ボク、寝たいから護衛して欲しいなって思って〜」


「あら?そんなことですの?

というか、ご主人様に護衛なんていりますの?

この程度の場所なら【怠惰】発動させてれば安全では?」


「そうなんだけど、そこの凛さんが少し不安らしくて、ね〜?」


「はぁ、?

そういうことなら、承りましたわ、ご主人様が寝てる間の安全は保証しますわ!」


んふふ〜、一華って結構強いから安心して熟睡できそうだね。

まぁ、居なくても寝るけど…


「えーっと…一華さんは、そんなことで呼び出されて、嫌じゃないの…?」


「いえ別に?

わたくしはご主人様が好きなので、頼られるのは嬉しいんですの!」


「…ん、直球に言われると、照れる」


自分でも頬が少し赤くなってるのが分かる…

それを見てか、2人ともくすくすと笑っている。

んー!もう、寝る…!


半分ふて寝くらいの気持ちだったけど、いざ目を瞑るとすぐに眠気が来て…


「おやすみなさい〜…」


とりあえず、寝よう…すぅ




――――――



「…会ったばかりだけど、とりあえず寝るのが好きなことは分かるなぁ…」


はぁ、とついため息をついてしまうけど、視聴者の皆も気持ちがわかるのか特にからかいの言葉とかが飛んでくることも無く、同意のコメントがとても多い。


「まぁ、ご主人様は寝ることを生きがいにしてますのよ?」


「うわっ!?」


一応ダンジョンの中なので周囲の警戒はきちんとしていたはずなのに、気配もなく急に現れた一華さん。

私は驚いた声を出すと同時に、反射的にバックステップをして距離をとる。


「あ、驚かせたらごめんなさいですの!」


「ッ!?!?」


距離を取ったはずなのに、いつの間にか真横に立っていた一華さんを見て、唖然としてしまう。

きちんと見てたはずなのに、認識できないような速さで真横に来たのだろう。

私、これでもレベル1280はあるんだけど…どれだけのレベルがあればこんな事できるんだろう…


「あ、だ、大丈夫…ですよ?」


やばい、動揺は隠すつもりだったのに、声の震えが止めれてない!


「…ふふ、ご主人様相手には絶対できないことでからかえると楽しいですわね」


「な…!?!?」


その一言で、私がからかわれていた事に気が付いた。

気が付いたが、実際問題認識できない速度で隣にいつの間にかいたのは本当だ。


「…むぅ、私、これでも日本じゃそれなりに強い方なんだけど…」


「ふふ、にほん?とやらは分かりませんけど人間の中で強いだけじゃ、わたくしには勝てませんわよ?

……一部例外もいますけど…」


「…レベル、聞いても大丈夫?

というか、モンスターにレベルの概念あるのかな…」


もしレベルの概念がモンスターにもあるのなら、レベルを知りたい。

正直、私が認識できない速度で動けるって所から最低でも1700は超えてると思う。

それを超えてないなら流石に認識くらいは出来るから!


「レベルですの?

そうですわね、天狐という種族のレベルならわかりますわよ?

わたくしはご主人様に負けてからそれなりに鍛錬してますの。

なので今のレベルは計りようがないんですわ」


「…!

なら、それだけでも教えて欲しい!」


天狐という種族のレベルを知れればカスミちゃんのレベルの予想も着くかもしれない…!

いくつだろう?

1800?もしかしたら2000も行ってる?


「3400ですわ」


「………え?」


3400…?

聞き間違い…だよね?


「えーっと…もう一回、聞いてもいい?」


「だから、3400ですわ!」


先程よりも大きな声で言ってくれたから、今度こそきちんと聞こえた


「ええぇぇぇ!?!?

ちょっ!そんなレベルのモンスター、どこにいるの!?」


「…どこって、ここのダンジョンの地下ですわよ?」


:ちょっ!3400って流石に嘘だよな!?

:いやでも、凛ちゃんが認識できない速度で動けるし…

:そんなのレベル1800もあれば出来るわ!

:ちょっ、それよりもここのダンジョン、アビスまでだと思われてたのに更に下があったの!?

:はぁ!?アビスの下って、そんなのありかよ!?

:てかそれよりもレベル3400にカスミちゃん勝てんのかよ!?

:流石に誇張入ってるやろ!?



「ふむ、皆様があびす、と呼ぶ場所は知りませんわ、でも、それなりに深くまで行かないと天狐やそれに匹敵するモンスターは居ないと言いますわ!

…まぁ、天狐に匹敵するモンスターなんてかなり深くのボスモンスターくらいしか居ませんけど」


あ、だよね?

流石に3400が大量にいる場所とか…想像もしたくないなぁ…


:あぁ!凛ちゃんが死んだ目に!

:レベル3400が大量にいる階層…想像したらこうなるわな

:い、いくらなんでもそんな場所、アビスの中でも下の方かアビスより深い場所でしょ

:このダンジョン…そんな深いんだぁ…

:アビスすら一層すら満足に探索されてないのに…

:そんな場所のモンスターを狩れるカスミちゃん、なんで話題になってないの?

:あ、確かに、素材でも売ってればヤバいくらい話題になるはずだよな?


「確かに!

どうしてそんなヤバい子のこと聞いたこともなかったんだろう?」


「あ、それに関しては説明できますわよ?」


「え!?」


説明できる、と言われて私はついつい驚いたような…というか驚いた声を出してしまう。

いや、だって!

まさか返事があるとは思ってなかったもん!


「ふふ、面白い反応ですわね?

えっと、ご主人様が強いのに有名じゃない理由ですわよね?」


「うん!

そうだよ!どうして?」


「あんまり慌てないでくださいまし。

まぁ簡単に言うならご主人様はほとんどダンジョンから出ないですし、出ても何か買うわけじゃないのでお金を必要としてないんですの。」


…そんなこと、あるの?

飲み物とか…は魔法でなんとかなるか、食べ物…もドロップアイテムで行けるよね。

調味料はどうやって手に入れたんだろう?


「あ、お金が必要になったらオークションに作った武器を卸すらしいですわよ?」


「オークション!?

そんなとこに出せる武器を作れるの!?」


オークションといえば、ダンジョンの下層で見つかったすごくレアな回復薬、エリクサーとか、有名な工房の最高傑作とか、そのレベルのものしか出ないはずだよ…?


「そりゃあ、ご主人様は戦闘と同じくらい生産も出来るんですわよ?」


「え!?

それはおかしいと思うよ!?

どうして両立して同じくらいの実力になるの!?」


そう、両方同時に極めるとか、将棋と野球を同時に極めるようなこと、流石に出来ないはずだけど…


「あぁ、それに関してはご主人様のスキルのせいですわね。

戦闘と生産、その実力を同じくらいまで引き上げるユニークスキルですの!」


どこか自慢げにしている一華さん。

いや待って!?

そんなことよりも同じくらいの実力に引き上げる…?

それって…


:ちょっ!それってもしかして!?

:生産の実力も世界最強クラスなのか!?

:え、もしかしてたまにあった魔剣とか、聖剣とかって…!

:あ、あの今の生産レベルじゃ絶対に作れないはずってやつか!?

:いやでもアレはダンジョンから出たってことでFAだろ!?

:で、でも…戦闘と同じ実力なら…可能性はあるんじゃ…?


「魔剣?聖剣?

ご主人様なら簡単に作れますわよ?

なんならアイテムボックスも作ってますし…」


:その程度!?

:アイテムボックス!?

:いや待って、それがガチなら絶対作って欲しいってうるさいやつら多いぞ!?

:配信で言わない方がよかったんじゃ…


…やばい事ばかりで脳が理解を拒んでたよ…

コメントでも騒がしいし…


「驚きすぎて逆に冷静になったんだけど、要するにカスミちゃんは生産、戦闘共に極めてるってこと…?」


出来れば違って欲しい、と思いつつも恐る恐る問いかける。


「ええ、そういうことになりますわね?

少なくとも、わたくしの知ってる中では両方ともトップですわ」


……かえってねたい

脳がショートした私は、そんなことを考えてしばらく呆然と立ちつくした。

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