静かな湖畔にバカがいるから
(みんな着いているかな……)
私の名前はアケミ。16歳の高校2年生だ。
長い髪と眼鏡で素顔は見えにくいけど、超絶美人だ。クラスの男子はほとんど知らないけどね。
今日は親友のミホの提案で仲の良いクラスメイトとお昼をとることになっている。
(私が一番乗りか。5分遅刻だけど……)
待ち合わせ場所は、湖畔沿いの一本桜の下。
日曜日の昼下がり、風が吹いて桜が舞う。湖の水面に煌めく光、春の陽射しの暖かさを感じた。
「おーい、アケミ~」
聞き覚えのある声の方を向くと、ママチャリに乗った、あいつが来た。
(あのバカ、手を振るな)
あいつの名前はケン。同じ理系クラスの男の子だ。
手放し運転で、私に手を振る。あいつの前には小さな猫がいた。
「ケン! 前! 前!」
猫が轢かれると思い、私がそう叫ぶと、ケンはハンドルをきって自転車を滑らせ、そのまま湖に落ちた。
(流石、何かを起こす男)
ケンが浮かんでこないか水面を見ていると、ミホの声が聞こえた。
「おまたせ。アケミ」
「ううん。待っていないよ。ねぇミホ、その子は?」
「これ、私の弟」
ミホが弟と紹介した男の子は、私よりも背が小さく、中学生くらいにみえた。
「初めまして、僕はシズクといいます」
「私はアケミ。よろしくね。弟君」
「ねぇアケミ。カズト今日来れないってよ。残念だったね」
「だから、カズトとは何にもないんだって!」
「ふふ、どうかしら。今日はポニーテールにコンタクトレンズをしてくるなんて、誰かさんを意識しているようにしか見えないんだけど」
「そんなことより、ハルキは?」
「ハルキはデートでドタキャン。彼女に、私とどっちを取るの、って言われたみたい」
「じゃあ、誰がお昼持ってくるの?」
「いつもハルキに、まかせっきりだから、今日は私らで……」
「おう、ミホ。遅かったな」
(ケン、水草が付いているよ。それにゴミも)
「そいつ誰? カレシ?」
「私の弟。ほら、挨拶」
「初めまして、シズクといいます」
「おう、俺はシムラだ。シクヨロ」
(ケン、そのボケ聞き飽きたよ。それにシクヨロはない)
「ケン、今日はハルキが来ないから何か注文しようと思うんだけど」
(ミホ、ケンが濡れていることにはツッコまないの?)
「そうなのか? ハルキは来ないのか?」
「そうなの。だから私、お寿司注文するね」
(ミホ、みんなの意見を聞くんだよ。普通は)
「僕、ピザ頼みます」
(弟君、ミホが注文するから、被せなくていいよ)
「じゃあ俺、シリカゲル頼むわ」
(お寿司とピザにシリカゲルは必要ない。って言うか、私達を殺す気なの?)
「今の俺には必要だから」
(濡れているもんね。でもタオルを注文した方がいいよ。タオル)
「ピザ頼みました~♪」
(早いよ弟君。何してくれてんの)
30分後、ピザが届き、みんなで分ける。
(あれ?)
「弟君、なんで1枚も取らないの?」
「僕、トマト嫌いなんです」
(じゃあ、なんでピザ注文したのよ)
「じゃあ俺、52枚取るわ」
(ケン、12ピースだよ。トランプでも始めるんですか?)
「アケミにもタバスコかけちゃうね~」
(ミホ、私がタバスコ苦手なの知っているでしょ。横取りしたいの?)
「「「「いただきま~す」」」」
「そういえば、アケミはカズトが好きなんだっけ?」
「そんなことはない!!」
「そうか。クラスの中の彼女にしたいランキングで、カズトはお前を1位だって言ってたぞ」
「!!」
「俺は3位がお前で、2位がミホだけどな」
(ケン、知ってる? クラスで女子は2人しかいないって。1位は誰なの?)
みんな食べ終わり、今日は解散。ミホと弟君は帰っていった。
(やっぱり、カズト来なかったかぁ……)
私は寂しくなり、俯く。
「アケミ~!!」
「えっ」
カズトの声が聞こえたので顔を上げると、カズトがこちらに走ってきていた。
「はぁ、はぁ、はぁ。みんなは?」
「もう、帰っちゃった」
「そうなのか」
「うん」
「じゃあさ、どこか遊びにいかない?」
「えっ」
嬉しい。今日は残念な日だと思っていたけど、カズトとデートができるなんて。
「じゃあ、俺は邪魔だと思うから帰るわ」
そう言って、ケンは自転車を取りに、湖の中へと消えていった。
(つづく?)
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