出会いの季節とドレッドヘア

「待ったか?」

「6分50秒待った」


 僕は大学構内にある池の付近で、新歓コンパに参加するためにナオトと待ち合わせをした。

 ナオトは学部のオリエンテーションで、シラバスを忘れた僕の隣に座っていて、シラバスを忘れたことがきっかけで仲良くなった。それから一緒にいろいろなサークルを見て回り、ある飲み会サークルの新歓コンパが、立て看板という宣伝の方法を取っていたのが珍しいなと思い、その新歓コンパに参加することにしたのだ。そして今日は飲み会サークルの新歓コンパだ。


「新歓コンパって、どんな感じだろうね」

「たぶん、先輩が女の子を酒で潰すんじゃね」


 ナオトがそう言ったので、僕はなんとなくこの飲み会が嫌だなと感じてしまった。


「それにタダで飯が食えるからいいしな」


 僕は反射的に「只より高い物はないって」と彼に伝えた。

 そして会場となる居酒屋へ行く。目印は大きな桜の木で、隣に居酒屋があると先輩から聞いていた。


「トオル、ここなんか?」

「うん。大きな桜はここしかないから」


 中に入ると先輩が部屋まで案内してくれて、電話の近く以外だったらどの席でもいいと教えてくれた。 


「どこに座ろうか? トイレのことを考えて、入口付近にする?」

「それなら、奥がいいぞ。絡まれることが無い、野郎は奥がいい」


 ナオトは女性に気配りしているようにみえる。レディーファーストとはよく言ったものだ。お母さんがアメリカ人らしく、その影響も少しあるのかなと思った。


 席に座り、ナオトがどんな先輩がいるのだろうと言ったので、僕はナオトとはあまり話さずに、飲み会の開始まで周囲の様子を観察し続ける。

 そして僕は遠くのテーブルにいるドレッドヘアの男が気になった。


 ◆


「新入生のみんな、入学おめでとう。ささやかながら、先輩からのお祝いだ。じゃんじゃん飲んで食べてくれ」


 宴は盛り上がっていく。みんな楽しそうにしている中、ナオトはお酒も飲まずにいる。

 なんでも理性が効かなくなるのが嫌なみたいでお酒を勧められても、先輩の話に合わせて彼は上手くその場をやり過ごしていた。


「トオル、あの子どう見える?」


 ナオトは顎で、隣のテーブルの奥の方にいる赤毛の女の子を指した。


「どうって、戸惑っているように見えるけど」

「だよな」


 彼女が気になってしまったので、集中して先輩達との会話を聴く。


 ◆


「そこの君、学科はどこ? 名前は?」

「国文です」


「へぇー、国文の先輩紹介しようか? 授業の取り方教えてくれるよ」

「だ、大丈夫です」


「そうか。ねぇ、あっちのテーブルにいかない? 盛り上がっているよ」

「まだ、テーブルに食べ物が残っているのでいいです」


「向こうにもあるよ」

「でも」


 ◆


 宴が終わり、店の外に出る。外灯に照らされた夜桜は静かに僕達を見守っている。そう僕は感じた。

 そしてサークルの部長らしき先輩が中心になり、みんなに話しかける。


「新入生のみんな、そろそろ締めるぞ。じゃあ一本締めで」


「「「よぉー。(パン)」」」


「2次会行くやつ。こっちだ」

「こっち、こっち~」


 ナオトに2次会に行くか尋ねようとした時、僕の視界に先輩に取り囲まれてイヤそうにしている、あの赤毛の女の子が入ってきた。

 僕は先輩方の近くにいくと、女の子に話しかけている先輩方の言葉が聞こえてきた。


「2次会行こうよ~」

「先輩と仲良くなった方がいいぜ」

「そうそう」

「たくさん人脈作った方が就職などで有利になるぞ」


 僕は車に轢かれる猫を助けるかのごとく、先輩方の輪の中に入っていき、大きな声でこう言った。

「僕達高校からの友達なんだぞ。僕を放っておくなんて酷いじゃないか。こっち来いよ」


 僕は強引に女の子の腕を掴んで連れ去ろうとしたが、先輩からこう言われてしまった。

「おまえさぁ、友達なら、これからの楽しい時間を邪魔しちゃ可哀そうだろ」


 それでも僕は怯まなかった。するとあのドレッドヘアの男が来て、「おう、先輩だからって友達の中を割くなんて、どうなんだ?」とドスの効いた声を発し、先輩を睨みつけて威嚇する。先輩は怯んで、僕達には絡まなくなった。


「おう、俺は2次会に行くぜ。また今度な」

 そう言って、ドレッドヘアの男は先輩方について行く。


「あっ、そうだ。2次会用にピザを注文しないとな」


 僕は2次会がカラオケだと聞いていたので、そこでピザは注文できるのに、なぜデリバリーを頼むのか、彼の言っていることがよく理解できなかった。

 ドレッドヘアの男がピザを注文したその後、僕とナオトは女の子を送って行くことになった。

 彼女の名前はハンナ。今日は友達を作るために新歓コンパに参加したそうだが、男の先輩ばかりに絡まれて思惑が外れ、残念だったそうだ。


「今日はありがとう。助かりました」

「大丈夫。同じ1年だから気にしなくていいよ」


 僕はナオトと共にハンナを無事に家まで送り、そしてナオトと別れる。1人歩き進む夜の道、僕は生温い風が何故か心地よく感じた。


 ◆


 土日を挟んだ次の月曜日。この日は2コマ目から教養必修科目がある。憲法の講義だが、しっくりこなくて合わなかったら別の講義に変えるつもりだ。

 ナオトと共に学内を歩いていると、手を振りながらハンナがやって来た。


「トオル君、ナオト君、この前はありがとう」


 挨拶を済ませ、講義がないか聞いてみると同じ憲法の講義だったので一緒に行くことにした。

 3人で歩いていると、講義室前に知っている顔があった。ドレッドヘアの男だ。向こうも気づいたらしく、こちらに来る。


「よう、昨日ぶり」


 ドレッドヘアの男がそう言ったので、僕は「3日ぶりだな」と訂正し、続けて「ありがとう、この前は助かったよ」と感謝の言葉を伝えた。


「ははは、お安い御用だ。お前ら何受けるんだ?」

「憲法だよ」


「そうなのか?」

「そう、みんな一緒」


 彼とのやりとりを聞いていた、ナオトから提案される。


「トオル。せっかくだから、自己紹介するか」


「あぁ、そうだな。僕は経済学部経営学科のトオルです」

「文学部哲学科のナオト。母はアメリカ人、父は日本人のハーフなんだ」

「文学部国文学科のハンナです。ドイツ人の母と日本人の父のハーフです」


「俺はケン。マムは北海道出身でダッドは茨城出身のハーフだ」

(おいっ!!)


「まぁ、ハーフにこだわるなんて地球人の思考っていうのは何だかわからんな」

(あんたは発想が宇宙人なんだよ)


 4人で楽しく談笑し、時間になったので講義室へ。


「じゃあみんな、入ろうか」


「あぁ、俺大学生じゃないから帰るわ」


 そう言ってケンは池に向かい、飛び越えようとしたが、頭から落ちた。


(つづく?)

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