第9話

雪の大地を魔の森に向けて二頭の馬が並び疾走していた。


「兄さん、本当にこれでいいの?」


エリックが不安そうに聞いた。


「大丈夫だ、エリック。俺たちはこれが一番だと決めたんだろ?」


カインが笑顔で答えた。


俺たちはミラージュシティから馬に乗って魔の森経由で王都に向かう予定だ。


俺たちは北部連合の会合で、来年の秋にルシウスを倒すという計画を立てた。

しかし、それはブラフだった。

それでは、国を救っても人的被害があまりに大きい、内戦は避けるべきだった。

空中艇や自動人形の代金を帝国払うために莫大な借り入れまで発生して経済的にも大きな損失を負うはずだ。

そんな事は許せない。

俺たちはルシウスに謝罪をして許しを請うという先触れの使者を出し、二人だけで王都に向かっている。

そこで、ルシウスを説得する。


「でも、兄さん……」


エリックが言おうとした。


「エリック、心配しないで。俺たちは強くなったんだ」


カインが言った。


「強くなった?どうして?」


エリックが首をかしげた。


「それはね……」


カインは言葉に詰まった。

だが、エリックにだけは教えておこうと思う。

俺の鑑定に関する事を。


「実は、俺は生まれつき特別な能力を持ってるんだ」


「特別な能力?」


エリックが驚いた。


「うん。エリックも魔法や戦闘などで魔物を倒した時などに強くなることがあるだろ?その強さを数値で見ることができるんだ。それをレベルって呼んでるんだけど、レベルが上がると、体力や魔力や技能などが強くなるんだよ。」


カインが説明した。


「確かにそういう強くなる感覚はあるね。へえ、そうなんだ。じゃあ、レベルってどうやって分かるの?」


エリックが興味深そうに聞いた。


「それはね……」


カインは言った。


「俺だけなんだろうけど、目で見れば、その人のレベルや特性が分かるんだよ」


「すごいね!じゃあ、俺のレベルも見れるの?」


エリックが期待した。



「エリックのレベルは…98だよ。」


「98!?すごいじゃない!俺、強いんだね!」


エリックが喜んだ。


「うん、エリックはすごく強いよ。俺のレベルは99だけど、エリックは俺に負けないくらいだよ。」


カインが褒めた。


「兄さんもすごいね!俺たちは最強の兄弟だね!」


エリックが笑った。


「そうだね。俺たちは最強の兄弟だよ。」


カインも笑った。


俺たちは北部で暴れ者達と戦い魔物を討伐しながら、魔法や戦闘の訓練を積んできた。

その結果、俺たちはレベルをどんどん上げていった。

俺たちは王国の中でも最高レベルになった。

それは、ルシウス派閥を倒すための準備だったとも言えるのかもしれない。


「兄さん、あの魔物は何だろう?」


エリックが指さした。


「それはヘルハウンドだ。レベル79の炎属性の魔物で牙と爪と火炎で攻撃してくる。水魔法で炎を弱らせて、剣で斬りつけるのが良いぞ」


「でも、気をつけないといけないのは、ああやってヘルハウンドは群れで行動することだ。一匹だけじゃなくて、周りにも気を配らないといけないよ。」


「分かった。二人で協力して倒そう」


「そうだな」


俺たちは魔の森の中域まで進んできていた。

俺たちはミラージュシティから馬車に乗って王都に向かっていたが、途中で馬を降りて魔の森に入った。

それは、ルシウス派閥に見つかると面倒だからだった。


魔の森の中域は王国でも最も危険な場所の一つだった。

表層とは違い中域の森には様々な種類の強力な魔物が住んでいて、人間に襲いかかってきた。

森は表層と中域と深層に分かれていて、深く入れば入るほど魔物のレベルが高くなっていった。


俺たちは表層ではもうレベル上げに効果がなくなったので、せっかくなのでレベル上げも兼ねて中域に入ったわけだ。

中域には表層にはいない強固な魔物が出てきたが、俺たちは剣術を主体に魔物を倒していった。

エリックは水魔法で魔物の動きを阻害したり、軽微な傷を癒したりした。

俺は幻影魔法で魔物を惑わせたり、自分やエリックの姿を分身させたりした。


俺たちは二人で協力して戦った。

俺たちは兄弟だったから、お互いの動きや考えや感情を分かっていた。

言葉を交わさなくても、目配せや身振りや息遣いで意思疎通ができた。

俺たちは最強の兄弟になっていく。


100匹以上いただろうか、俺達は暗黙の連携で殲滅していく。

群れで連携して絶え間なく襲ってくるヘルハウンド達との戦いに流石に俺たちも疲労が隠せなくなった頃やっとその戦いにも終わりが見えてきた。


「これでヘルハウンドも倒したぞ!」


「やったね!兄さん!」


「一度休憩をして、次に行こうか。」


「良し、次に行こう!」



しばらく休憩をしていると


「兄さん、危ない」


エリックの言葉に反応し俺は地中から突き出した根を避けた。


「マンドレイクだ。血の匂いに惹き寄せられてきたのか?レベル88の土属性の魔物だ。植物のような姿をしていて、根や葉や花で攻撃してくる。地中に潜んでいて、気づかないうちに襲われることがある。耳をふさがないと、悲鳴で気絶させられるから、気をつけろ!エリック!水魔法で地中から引きずり出して、剣で斬りつけろ」


「了解!」



エリックは水魔法で薄く水を撒いたマンドレイクの居場所を探している。


「兄さん!5匹いる!」


水面からの反応で、マンドレイクが五匹ほど地中に潜んでいることが分かったようだ。

俺はエリックに目配せして、それぞれ二匹ずつ狙うことにした。


俺は水魔法で地中からマンドレイクを引きずり出した。

マンドレイクは驚いて悲鳴を上げたが、俺は泥で耳栓をしていたから影響されなかった。

俺は剣でマンドレイクの首を斬り落とした。


エリックも同じようにマンドレイクを倒した。

エリックは幻影魔法で自分の姿を変えて、マンドレイクの注意をそらした。

それから素早く近づいて、剣でマンドレイクの首を斬り落とした。


残りの一匹は俺たちに気づいて逃げようとしたが、俺は水魔法で足を絡めて止めた。エリックは走ってきて、剣でマンドレイクの首を斬り落とした。



本当に休む間も無いな。


ふぅと息を吐き空を見上げる。

視界に入る無数の黒い点が大きくなっていく。

そしてこちらに向けて大きくなっていく何か。




「グリフィンだ!レベル115の風属性の魔物だ。獅子と鷲のような姿をしていて、爪と嘴と翼で攻撃してくる。空から急降下してきて、一撃で仕留めようとするぞ。風魔法で竜巻や突風を起こすこともあるから、気をつけろ」


「わかった、取り敢えずどうする?」

エリックが聞いた。


「水魔法で空中に水柱を作って、グリフィンの飛行を妨害するのが一番だ。それから剣で斬りつけるか、水魔法で攻撃するかするぞ」


「でも、グリフィンは素早く動くから、狙うのが難しそうだよ、風魔法で反撃してくることもあるんでしょ?」


「そうだ。気をつけろ」


「はい」


俺は水魔法で空中に水柱を作った。

グリフィンは水柱にぶつかって飛行が乱れた。

エリックは幻影魔法で自分の姿をグリフィンに変えて、グリフィンに近づいた。

グリフィンはエリックの幻影に混乱したようだた。

隙をついてエリックは剣でグリフィンの首を斬りつけた。

グリフィンは悲鳴を上げて地面に落ちた。

俺は水魔法でグリフィンに追撃した。グリフィンは動かなくなった。


俺たちは王都に向かって休憩をしつつ魔の森を進んだ。

ルシウスを説得する。

それは、母上と国民のためだった。

俺たちの信じる道だった。




「兄さん、王都に着くまであとどれくらいかな?」


「もうすぐだよ。あと数時間で着くと思う」


「そうか。じゃあ、もう少し頑張ろうね」


「そうだな。もう少し頑張ろう。」


魔の森を抜けると夜間を選んで俺たちは王都に向かって走った。


王都に着き、俺たちは宿をとって身を清め、正装に着替えた。

そしてルシウスに会うために城に向かった。

王城の中心にある大広間には、ルシウス派閥の貴族たちがひしめき合っていた。

彼らは俺たちがやってくるという噂を聞いて、興奮と期待に満ちていた。

ついに、反乱軍のリーダーである俺とその弟であるエリックが、自分たちの前にひざまずき、謝罪と降伏をするのだ。

それを見届ければ、彼らは自分たちの権力と正義を確信できるだろう。


大広間の扉が開かれ、俺たちはが入っていった。

俺たちは王子の身分にふさわしい服装をしてい、大広間の中央まで歩いていき、ルシウスの前に立った。


「兄上、お久しぶりです。」


俺は冷静に言った。


「カイン、エリック。よく来てくれたな。」


ルシウスは嘲笑を浮かべながら言った。


「さあ、早く謝罪しろ。そして、北部連合軍とかいうふざけた名前の反乱軍を解散させろ。そうすれば、俺も許してやるかもしれないぞ。」


ルシウスはニヤニヤと俺たちを見下げながら言い放った。


「謝罪?反乱軍?何を言ってるんですか?」


エリックはムッとした顔で言った。


「私たちはただ、兄上に会いに来ただけですよ。」


「何だと?会いに来ただけだと?」


ルシウスは怒りを露わにした。


「お前たちは俺に反抗し、国を乱した罪人だぞ!」


「王である父を殺して反抗したのは兄上でしょう?」


俺は冷ややかに言った。


「兄上が父上を殺して王位を奪ったことを知りながら、帝国の傀儡となって国を売り渡したのですよね?」


「黙れ!黙れ!黙れ!」


ルシウスは叫んだ。


「お前たちは何も知らない!何も分かっていない!お前たちはただの雑種だ!第二妃から生まれた不純な血筋だ!お前たちは王子の資格などない!」


「そうですか。では、私たちは王子ではなく、ただの人間ですね。」


カインは静かに言った。


「それなら、私たちは王子としての義務もないということですね。」


「何を言ってるんだ?お前たちは雑種で資格もないが一応ながら王子だからこそ、俺に従わなければならないのだ!」


ルシウスは理解できないという顔をした。


「いいえ、私たちは王子ではありません。私たちはただの人間です。そして、私たちはただの人間として、自分たちの信じる道を歩むことにしました。」


俺は感情を押し殺し冷静になってそう言った。


「自分たちの信じる道?それが何だというのだ?」


ルシウスは怒鳴った。


「それは、悪党を倒し、帝国から国を救うことです。」


俺は高らかに宣言した。

エリックと視線が交錯した。


ルシウスの周囲の軍や貴族達が剣に手をかける。


「何だと!?お前たちは俺様を倒すつもりか!?僅か12歳と9歳のそんな小さなナリで虚勢を張るのもいい加減にしろっ!素直に服従すれば良い!」


ルシウスは驚愕した顔で叫んだ。


「はい。もういろいろと手遅れだったんだなと今ようやく分かりました」


俺は兄の言葉を肯定した。


「ばかな!お前たちは俺に敵うわけがない!この数を見ろ!俺たちには更に帝国もついている!お前たちはまだ幼いお坊ちゃんだろう!お前たちには俺達に一撃も与えられない!」


ルシウスは嘲笑した。


「数?幼い?帝国?そんなものは関係ありませんよ」


俺は笑った。


「やめろ!やめろ!やめろ!」


ルシウスは悲鳴をあげた。


「お前たちが何を言ってるか分からない!お前たちが何をしようとしてるか分からない!」


「分からなくても構いませんよ。」


そして、俺とエリックは同時に動き出した。


俺は水魔法で大広間にある水槽や花瓶やグラスから水を引き寄せ、それを高速で回転させて刃物のようにして放った。


「ぎぃああああ」

「やめろぉぉ」

「こんなぁぁ」


下卑た顔で俺たちを嘲笑していた貴族達が防御も虚しく血まみれになっていく。


「敵は何処だっ?」

「本物はっ?」

「いでぇぇぇ」

「ひぃぃにげぇぇ」

「たすげぇぇぇ」


エリックは幻影魔法で自分やカインや貴族たちの姿を変えて混乱させ、その隙に素早く近づいて切りつけた。

次々と首が舞い血と臓物の匂いで溢れ返る。


俺たちの攻撃は瞬く間に大広間にある貴族たちを薙ぎ倒した。


ルシウスもまた、水の刃物に切り裂かれ、幻影に惑わされ、俺の剣に突き刺された。


腹に突き刺さった剣を握りして抜こうとすしながら俺を涙を流して睨んでいる。


「俺の天下がぁぁっぁあやめぇぇぇ」

「売国奴が!」


俺は腹に刺さった剣を真上に引き上げた後にルシウスを蹴り飛ばした。

腹から臓物をぶち撒けたルシウスは遠くを見つめ動かなくなった。


1分とかからず大広間は血の海と化した。


「これからが大変かもな」


俺はこれから先の事を考えてエリックにそう言った。


「兄さんなら大丈夫ですよ」


返り血で真っ赤になった笑顔でこちらを振り返りエリックがそう言った。

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