第4話

目が覚めると、そこには彼女がいた。

レイラ姫だ。

彼女は優しく微笑んでいたが、額や腕や角に残った傷跡が彼女の苦しみを物語っていた。

俺は自分のせいだと思って、申し訳なくなった。


「レイラ姫…」


「カイン、やっと目が覚めたのね。どう?体の具合は?」


「ああ…まだ少し痛いけど…大丈夫だよ…」


「良かったわ。私も回復魔法で治したけど…完全には戻らなかったわ…」


彼女の話によると俺は回復魔法により命は助かったが、魔力と気力を使い果たし、王宮の病室で3日も眠り続けたらしい。

レイラ姫も竜神の力を使うための神力も使ったため、2日ほど王宮の客室で休養したらしい。

両腕と角は回復魔法で繋がったが、額の傷は消えたようだが、両腕と角には大きな傷跡が残っている。

フローラ共和国のルカの回復魔法とミラージュ王国の薬草の蒸留液、竜人の生命力と全ての要素が幸いしてなんとか繋がったらしい。彼女自身も運が良かったと笑顔で言っていた。


「ごめん…俺のせいで…」


「いいえ、謝らなくていいわ。私はあなたに感謝してるのよ」


「感謝?何に?」


「あなたは私に本当の戦闘を教えてくれたわ。死ぬ覚悟で戦い本物の勇気を見せてくれたわ。全力で挑んで私に本当の愛を伝えてくれたわ」


彼女の言葉に、俺は驚いた。

俺は彼女に本当の愛を伝えられたのだろうか?


「愛?俺は…俺はレイラ姫が好きだよ…」


「私もあなたが好きよ、カイン」


彼女はそう言って、俺にキスをした。


「カイン、私と結婚してくれる?」


「え?本当に?でも俺は…俺は負けたじゃないか…」


「負けても勝っても関係ないわ。私はあなたと一緒になりたいのよ」


「レイラ姫…ありがとう…俺もレイラ姫と一緒になりたい」


「じゃあ、決まりね。私達は結婚するわ」


「うん、結婚しよう」


俺とレイラ姫は抱き合って笑った。

その笑顔が俺の心を癒した。

その笑顔が俺の心を満たした。


彼女は美しかった。

その赤い髪は炎のように情熱的で、その碧い瞳は海のように深くて、その大きな身長は天空のように高くて。

彼女は強かった。

その鱗と角と尾は竜神の力を示し、その火と氷と雷の魔法は敵を圧倒した。


彼女は素晴らしかった。

その戦闘ぶりは勇敢で、その言葉づかいは誇り高く、その感情表現は素直で。

彼女は優しかった。

そのキスは甘くて、その抱擁は温かくて、その言葉は優しくて。


彼女は俺のものだった。

俺は彼女のものだった。

俺達は互いに愛し合っている。


そして、俺達は互いに結婚することを決めた。


二人の会話はこうなります。


「じゃあ、俺達はこれで婚約者だね」


「そうよ。でも、それは私達だけの秘密よ。まだ父には言えないの」


「え?どうして?」


「父は私の婚約者に厳しい条件をつけてるのよ。それはドラゴンを一人で倒すことなの」


「ドラゴン?それってすごく強いやつだろ?」


「そうよ。ドラゴンは竜神の末裔で、火や氷や雷の魔法を使えるの。父も若い頃にドラゴンを単身討伐したことがあるのよ。それが彼の誇りなの」


「すごいな…でも、俺はまだ9歳だよ。そんな強敵には流石に勝てそうにないよ」


「私もそう思うわ。だから、私達は7年間待つことにしましょう。その間にあなたは剣術や魔法を磨き、私は武術だけでなく、政治や経済を学びましょう。そして、7年後に再会した時には、あなたはドラゴンを倒せるようになっているでしょう」


「7年間か…長いな…でも、レイラ姫と結婚するためなら、何でもするよ」


「私もそう思うわ。私達は愛し合っているんだもの。それが一番大切なことよ」


「そうだね。じゃあ、7年後にまた会おう。その時には、俺はレイラ姫の夫として認められるように頑張ってみせるよ」


「私も待ってるわ。その時には、私はあなたの妻として迎え入れてあげるわ。でも、それまでは文通で連絡し合おうね」


「うん、そうしよう。レイラ姫、愛してるよ」


「私もあなたを愛してるわ、カイン」


そうして、レイラ姫は国へと帰っていった。



王都の貴族会議の場には、ミラージュ王国の有力な貴族たちが集まっていた。

彼らは父であるミラージュ三世の言葉に耳を傾けていた。

父はアルベルト帝国の姫だった皇后に惑わされて、アルベルト帝国の傀儡となっていた。

父は皇后の子である第一王子ルシウスを優遇し、ミラージュ王国のエレン公爵家の娘マリエッタの子である俺と弟のエリックを冷遇していた。


「本日は皆に重要なお知らせがある。私はこの度、次男であるカインに北部の統治を任せることにした」


父の言葉に、会場はざわめいた。

北部といえば、蛮族の跋扈する治安最悪な地域だった。

そこに俺を送り込むというのは、まさに左遷だった。


「陛下、それはどういうお考えでしょうか?カイン殿下はまだ9歳です。元服を迎えたばかりです。北部の統治など無理な話ではありませんか?」


「そうですね。カイン殿下は若くて優秀です。王都で教育を受けさせてあげるべきです。北部では彼の才能が埋もれてしまいます」


「それに、北部は危険です。蛮族は常に侵攻を狙っています。カイン殿下がそこで何かあったらどうしますか?」


母の父であるエレン公爵を筆頭に、公爵派閥の貴族たちは次々と反対の意見を述べた。

彼らは俺と弟を守ろうとしてくれた。


「陛下、私も反対です。カイン殿下とエリック殿下は私達エレン公爵家の血筋です。彼らを北部へ追いやるなんて、許せません」


「そうですね。カイン殿下とエリック殿下はミラージュ王国の希望です。彼らを北部へ送るなんて、無駄です」


「それに、北部は孤立です。カイン殿下とエリック殿下は王都の支援を受けられません。彼らが北部で生き残れるとは思えません」


エレン公爵家の派閥は真剣に俺たちの味方をしてくれたが、それは少数派だった。


ルシウス派の貴族たちは父の意見を後押しする。

彼らは俺が北部で蛮族に討ち取られ王位継承権を失うことを望んでいた。

俺の鍛錬に励む姿勢や正義感が強いことを恐れていたようだった。

俺が自分たちの利権や野望を邪魔することを嫌っていた。


「陛下、私は賛成です。カイン殿下に北部の統治を任せることは、彼の成長にとって良いことです。彼は水魔法と幻影術に精通しています。彼は北部で必要とされる人材です」


「そうですね。カイン殿下に北部の統治を任せることは、ミラージュ王国の発展にとって良いことです。彼は蛮族との交渉や戦闘に長けています。彼は北部で活躍できる人材です」


「それに、北部は挑戦です。カイン殿下に北部の統治を任せることは、彼の忍耐や勇気を試すことです。彼は王族としての責任や使命を果たす人材です」


ルシウス派の貴族たちは父の意向に従っていた。

彼らはルシウスが王位継承権を得ることを期待していた。

王やルシウスがアルベルト帝国に媚びていることを知っていた。


父は貴族たちの声を聞き、冷静に言った。


「私の決定は変わらん。カインに北部の統治を任せる。カインは私の息子だ。ミラージュ王国の第二王子だ。北部で必要とされる人材だろう」


「陛下…」


「それに、カインは一人ではない。弟であるエリックがいる。そして母であるマリエッタ妃がいるではないか。彼らも一緒に北部へ行くことになる」


父の言葉に、会場はさらにざわめいた。

エリックもマリエッタ妃も北部へ行くというのか?

それはまさに一家離散だった。


「陛下、それはあまりにも酷ではありませんか?エリック殿下もマリエッタ妃も王都で暮らすべきです。彼らを北部へ追いやるなんて、不憫です」


「そうですね。エリック殿下はまだ6歳です。マリエッタ妃は陛下の妃です。彼らを北部へ送るなんて、不公平です」


「それに、北部は寒いです。エリック殿下もマリエッタ妃も王都の暖かさに慣れています。彼らが北部で暮らせるとは思えません」


エレン公爵を筆頭に、公爵派閥の貴族たちはまたもや反対の意見を述べたが、父は貴族たちの声を無視して、冷酷に言った。


「私の決定は変わらん。カインとエリックとマリエッタ妃は北部へ行く。彼らは北部で必要とされる存在だ」


「陛下…」


「これ以上の異議は認めん。私の王命だ。これに従わない者は、私の敵だ」


父の言葉に、会場は沈黙した。

貴族たちは父の権威に屈した。

貴族たちは父の怒りに怯えた。


俺は父の顔を見て、悔しさに涙がこぼれた。

俺は弟も母も守れないのか。

何の力もない自分が情けなかった。

父は俺を見て、微笑んだ。


数カ月後、元服を迎えた俺は、ミラージュ王国の北部を統治するようにという王命で北部に行くことになった。

北部にはゴルディアの子のシムカ伯爵やモーフィアの孫のゼロス子爵など魔の森を切り開いてミラージュ王国を建国した初代ミラージュ1世の頃の戦友だった猛者たちの領地が多い。

ミラージュ王国では、首都は帝国との交易が可能な南部にあり。

人も多い。

北部は北は海に面しているが、海には魔物が多く、漁業なども発展していない。

また、東はグリム公国との国境になる山脈、西はフローラ共和国との国境になる魔の森になっている。

そして、見渡す限りは薬草と魔力草の草原。

産業も無ければ、人も少ない。

そんな僻地に俺はエリックと第二妃である母親のマリエッタ妃を伴って出発したのだった。

王族3人が王都を出るというのに僅かな従者達とゴルディアとモーフィアを連れての寂しい出発であった。

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