第2話
3年が経ち、俺は、自分の部屋で着替えていた。
今日は、自分の9歳の誕生日であり、元服の儀式の日だった。
元服とは、王族や貴族の男子が成人として認められる儀式である。
カインは、自分が王子であることを示す紫色のローブを身にまとい、金色の冠を頭にかぶった。
鏡に映った自分の姿を見て、苦笑した。
「これで王子らしくなったかな」
自分が王子であることにあまり興味がなかった。
王子としての特権や義務よりも、自分が学びや修行に打ち込めることが重要だと思っていた。
しかし、今日は仕方なく王子としての役割を果たさなければならなかった。
部屋を出て廊下を歩き始めた。
すると、途中で弟のエリックに出会った。
エリックも同じように紫色のローブを着ていたが、冠はまだかぶっていなかった。
エリックはカインに駆け寄ってきて、笑顔で言った。
「お兄ちゃん、おめでとう!今日は元服だね!」
「ありがとう、エリック。君もおめでとう」
エリックを抱きしめた。
エリックは俺にとって唯一の味方であり、家族だった。
修行にも良く耐え、キラリと光る才能を感じた。
エリックを守りたかった。
この笑顔が絶えぬよう自国の未来を見せたかった。
「お兄ちゃん、パーティーに行こうよ。みんな待ってるよ」
「うん、行こうか」
カインはエリックの手を取って、パーティー会場へと向かった。
パーティー会場は王城の大広間だった。
そこには、帝国の外交官や腐敗した貴族たちが集まっていた。
彼らは豪華な衣装や装飾品を身につけていて、高笑いや酒宴に興じていた。
カインやエリックを見ても、興味なさそうにしたり、嘲笑したりしている。
彼らは勉学や剣や魔法の鍛錬に励む俺達2人を変人として扱っていた。
戦闘や冒険を奴隷や傭兵に任せれば良いと思っているようだ。
自分の欲望や快楽に溺れていて、自国や民のことなど考えていないのだろう。
俺は彼らを見て不快に思ったが、渋々パーティーに出席した。
父である王から元服の祝辞を受けるという形式的な儀式を済ませる必要があったからだ。
俺は父からも冷遇されていたが、それでも父から王位を継ぐことになっている兄ルシウスよりもまだマシだと思っていた。
ルシウスは帝国の影響を受けすぎていて、将来は帝国に飲ませ食わせして一生酒池肉林のような生活を送る未来を夢想しているようだった。
ルシウス・ミラージュ
剣術 H/A
水魔術 H/B
幻影魔術 H/S
素晴らしい才能も持っているだけでは腐らせてしまうという事がよく分かる。
パーティーの最中、カインは自分の席に座っていた。
俺は周りの人々と話すこともなく、食事や飲み物もほとんど口にしなかった。
ただ、このパーティーが終わり元服の儀式が終われば、自分は城外への外出が出来るようになるということを考えていた。
城外にある自分の領地や、世界の様々な場所や人々に興味があった。
自分の知識や力を増やしたかった。
俺個人の力など高が知れている。
自国を変えるために、何かしなくてはならないと思っていた。
今回のパーティーには各国から要人が来ていたので
俺がこの9年間で勉強した各国の概要と共に出席している要人を思い出す。
アルベルト帝国。大陸の東部に位置し、強大な軍事力と経済力を誇る。皇帝はアルベルト三世で、彼は権威主義的で野心的な人物だ。帝国の特色は、高度な科学技術と魔法の融合である。帝国は魔法をエネルギー源として利用し、空中艇や自動人形などの発明品を作り出している。我が国の隣国であり、我が国との間には山脈があるが、その山道を通って交易もしている。我が国は実質的には従属国のような感じだ。
帝国からはイリス教の教皇の側近、ボリアス枢機卿が来ていた。
エリオン王国。大陸の西部にある海洋国家で、歴史と伝統を重んじる。王はエリオン八世で、彼は温厚で寛容な人物だ。王国の特色は、豊かな自然と美しい芸術である。王国は海の恵みを受け広大な穀倉地帯をもって繁栄し、絵画や音楽、詩などの文化を発展させている。個人的には芸術を謳歌できるほど平和な国という印象。我が国との間には広大な魔の森が存在する為に、実質は交易が難しい。
王国からは第5王子のカイザック王子が来ている。
大陸の南部では、この帝国と王国がゴーラ大平原を国境として繋がっていて
このゴーラ大平原には両国の砦が数多く有り、何度もゴーラでの大戦が行われている。
ラグナロク共和国。大陸の帝国の南部にある森に住む獣人たちの国で、民主主義を採用している。大統領はフレイヤ・ヴァルキリーで、彼女は勇敢で正義感の強い人物だ。獣人国の特色は、強靭な肉体と優れた戦闘能力である。獣人国は厳しい環境に適応し、剣や斧、弓などの武器を使って戦う。帝国の南部にあるため、帝国とは何度も戦争をしている。帝国には獣人の奴隷も数多くいる。帝国お得意の「従属の首輪」なる体罰装置で強制的に奴隷化されている。共和国側からは何度も奴隷解放の為の戦争が行われているが、戦争の度に帝国側に奴隷が増えている状態だ。
共和国からは財務大臣でもある鼠族のラッケル卿が来てるようだ。
ドラコニア王朝。大陸の王国の北部にある山岳地帯に住む竜人たちの国で、封建制度を採用している。王はドラコニス一世で、彼は高慢で残忍な人物だ。竜人国の特色は、大きく強靭な肉体と強力な魔法と古代の秘密である。竜人国は竜神を崇拝し、火や氷、雷などの魔法を操る。また、竜人国は古代文明の遺跡や遺物を保有しており、その中には未知の力が眠っているという。北の大地に住み強靭で屈強な戦士達の国だが、いかんせん食物が育たない。そして、彼らは大食漢だ。故に人口が増えない。小型の海竜を育てて王国に輸出している、海洋は大型の魔物が多く、海竜が無くては漁も交易も出来ない。代わりに食物を王国から輸入している。王朝の第三姫のレイラ姫が来てるらしい。
そして、我が国がある大陸の中央部には3つの国が隣接してある。
ミラージュ王国。西に魔の森、南に海、東から北までは山脈に囲まれている。国の北部では西側でフローラ共和国と隣接し東側ではグリム公国と接している。国の南部は魔の森と山脈に囲まれているが建国当初に魔の森を切り開いた大きな穀倉地帯があり、南部の山道で帝国と繋がっている。王はミラージュ3世で俺の父だ。魔の森を切り開いて作った穀倉地帯には魔力が多く含まれており、主な産業は魔力草と薬草ということだ。
フローラ共和国。魔の森の北にある花畑に囲まれたエルフの小国で、自然と調和するために努力している。大統領はフローラ・ローズで、彼女は優雅で芯の強い人物だ。共和国の特色は、植物魔法と薬草学である。共和国は植物魔法を使って花や木を育て、薬草学を使って病気や怪我を治す。
ルカという魔法使いが来ているようだ。
グリム公国。山脈の北にある岩山に囲まれたドワーフの小国で、鉱物と財宝を求めて探検している。公爵はグリム・ロックで、彼は豪快で冒険好きな人物だ。公国の特色は、地魔法と錬金術である。公国は地魔法を使って岩や土を動かし、錬金術を使って金属や宝石を作り出す。
隣国ということで、ザン・ロックという第一王子が来てくれてるらしい。
俺はパーティーに飽きていた。
周りには自分とは違う国や種族の人々がいて、話すこともなかった。
俺は自分の国、ミラージュ王国の代表として来ているだけで、本当は早く城外へ出て冒険に出たかった。
自分の能力を活かして、未知の土地や魔物に挑戦したかった。
そんなとき、一人の少女を捉える。
彼女は俺より2歳ほど年上のはずだが、それにしても自分より頭3つほど大きい身長で、腕には鱗と頭には角、更には強靭な尾がドレスから出ていた。
容姿から判断すると彼女はドラゴニア王朝の第三姫、レイラ姫だろう。
彼女は火や氷や雷の魔法を自在に操り、古代遺跡や遺物に詳しく剣術にも長けてるという。
彼女は自分の国の誇りと力を体現していた。
レイラ・ドラコニス
レベル 30
剣術 D/S
炎竜術 D/A
体力回復 大 魔力回復 極小
ステータスからも凄まじい鍛錬をしてきた事が伺える。
同世代でこれだけのステータスは見たことがない。
そんな彼女に俺は一目惚れしてしまう。
彼女は自分が求めていた人生の相棒だと思った。
勇気を振り絞って、彼女に近づいてみる。
「すみません、レイラ姫ですか?」
「あなたは誰?」
「私はミラージュ王国のカインと申します。水魔法と幻影術に精通しています」
「ふーん、それで?」
「実は、レイラ姫にお願いがあります」
「何?」
「一目惚れした。俺と結婚してくれ」
「は?」
レイラ姫は驚きと怒りと嘲笑で俺を見る。
彼女は貧弱な人間と結婚する気はなかったようだ。
「冗談じゃないわ。あなたみたいな弱虫と結婚するなんて考えられないわ。あなたに私の価値がわかるわけないじゃない。私はドラゴニア王朝の第三姫よ。あなたはミラージュ王国の何者よ?」
「私はミラージュ王国の第二王子です。全力であなたを幸せにする。水魔法や幻影魔法も使える」
「笑わせないでよ。水魔法と幻影術なんて子供の遊びよ。私は火や氷や雷の魔法であなたを灰にできるわ。私は古代遺跡や遺物であなたを圧倒できるわ。私はドラゴニア王朝の誇りと力であなたを屈服させるわ」
「でも、俺はレイラ姫が好きだ。好きになっちまった。あんたと一緒にこの世界を冒険したいんだよ」
「冒険?あなたに冒険ができるわけないじゃない。あなたに冒険する資格も能力もないわ。あなたに冒険する勇気も情熱もないわ。あなたに冒険する魅力も魔力もないわ」
「そんなことはない。俺はあんたと冒険するために、何でもする」
「何でもするって?じゃあ、私に見せてみなさいよ。あなたが私にふさわしい相手だという証拠を。あなたが私に勝てるという証拠を。あなたが私に惚れさせるという証拠を!そもそも、帝国のいいなりでイリス教だっけ?主教にしてるのよね?人間が神が原初の種族で、私達亜人が雑種だとか考えてるあなたに、そんな風に言われても侮辱してるようにしか感じないわ!」
「どうすればいいんだ?」
「そんなこともわからないの?あなたは本当につまらないわ。じゃあ、私が教えてあげるわ。あなたは私と戦って、私を倒して、私を抱いてみなさい。それができたら、私はあなたと結婚してやるわ」
「分かった。」
「だろうね。だから、あなたは私にふさわしくないのよ。え?何あなた私と戦えるっていうの?そんな貧弱で小さな身体で?勝てるつもり?」
レイラ姫は俺を見下すように言って、背を向ける。
俺は悲しみと憤りと恥辱で顔を赤くなるのが分かった。
立ち去ろうとするレイラ姫の尻尾を掴んで引き止めた。
ゆっくりと振り返るレイラ姫。
「あんた」
「なんだ?」
「竜人の尻尾に触れるって事がどういう事だか分かってるのよね?」
「あ?親愛の情を現したつもりなんだが?」
「それは親しき中での事よ。赤の他人のあんたが触るってのは私に対して最大限の侮辱って事よ!ぶっ殺してやるから表に出なさいっ!」
レイラ姫の大喝で会場中の注目が俺達に集まった。
人混みをかき分けて、ルシウスがやってきた。
「なんだなんだ?元服を迎えたと思ったら、もう盛ってるのか?まぁ、そこは俺や親父と同じ血が流れてるってことなんだろうな。それにしてもお前も良い趣味してるじゃないか。凄い趣味だな。尊敬するぞ」
ニヤニヤと俺とレイラ姫を交互に見る。
「なんだい、随分な接待だね。そうやって亜人を馬鹿にして見下げて暮らしてなさいよ。いつか思い知らせてやるわ」
「おー。怖いね。ボリアス枢機卿。父上。なにやら面白い催しものが始まるようですよ」
ルシウスの後ろからは、俺の父ミラージュ3世とボリアス枢機卿が、これまた陰険な笑顔を浮かべて登場したのだった。
※世界地図は近況ノートより
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