三日月の子

久石あまね

第1話 はじまり

 帝国領の北の外れにあるノースウッド村。つるぎのように鋭く高いノースウッド山脈のふもとにあるこの村は、帝都からはかなり離れている。白い雪に覆われた、冬が長い村である。住民は少ない。宿屋と質屋、武器屋、簡単な雑貨屋しかない。近くには透き通るようにキレイな小川も流れている。春になるとその小川にサケがのぼってくる。

 タッカー・バーガーズ・ジュニアは小川の仕掛けを見に来た。昼過ぎ、季節は秋で、肌寒い。もう少し季節が進んだら、この辺りは雪に覆われるだろう。しかし薄着のタッカーは鼻歌を歌いながら仕掛けを持ち上げると、おっと、驚いた。何匹かのエビと共に拳サイズの大きさのサファイアの原石があったからだ。

 タッカーは薄笑いを浮かべた。「なんでサファイアの原石が混じっているんだ?」

 タッカーは心の中で呟いた。

 そしてこう思った。宿屋を手伝ってくれているジェシカにプレゼントしようかな。

 タッカーは仕掛けの中のエビとサファイアを持って、宿屋に帰った。

 

 もともとタッカー家はこの村の宿屋を経営していた。タッカー・バーガーズ・ジュニアは父のタッカー・シニアを手伝っていた。

 ジュニアの仕事は雑用係で何でも屋だ。掃除もするし、川の仕掛けも取りに行く。料理だってする。そして宿屋の受付もする。


 宿屋の入口を開けると、暖炉の温かい空気がジュニアを包んだ。手に持っているエビがピチピチと動く。サファイアの石はポケットの中だ。


 ジェシカは驚くかな。ジュニアがサファイアの原石を持っていると言ったら。


 


 

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