20:いろいろあって、今現在

「ダイア様! これで憲兵団の治安は守られました! 本当にありがとうございます! この【神器】は……【防人の黒刀】は、このラーシアの命に懸けてお預かりします!」


「まあ、あまり無理はしないでくれよ。剣は命を守るためにあるなから、それじゃあ本末転倒だ」


「いいえ。私一人の命と【神器】とでは釣り合いが取れません」


 頑固だなあ。

 今、俺たちは街の北側ゲートにて、ラーシアに見送られながら旅立つところだ。

 俺が持っていた、親父に封印されて埃をかぶっていた【神器】をラーシアに渡してからは、話がまるっきりスムーズに進んだ。


 まず俺が不要になった。

 なのでアナとナージャと共に、王都へ旅立つことに何の支障もなくなった。

 それから王都へ向かうために馬車も用意してもらった。ナージャは単身で馬を走らせて来たものの、実はそうとう無理をさせてしまったようで、今でも憲兵団の厩舎で療養中とのことらしい。

 だから馬を借りることは前提としてあったわけだが、三人行動となれば、荷物も増える。馬車は不可欠とのことだ。

 ただ……。


「俺にはロバがいるんだけど……」


「王女様を待たせておいて、ロバと一緒に徒歩でのんびり旅行できるとでもお思いで?」


 ラーシアにひと睨みされ、ロバは置いていくこととなった。旅の良きお供だったが、やむを得まい……。

 でもこんな石畳の都会にいるよりも、田舎の草原でのんびり暮らさせてやりたい。


 ということで、故郷のリーベ村に手紙を書いた。


『城塞都市トランの憲兵団基地にてロバを預かってもらってます。報酬も出すので引き取りに来てください。


 ……ついでに、索敵や感知が得意な人いる? なんか憲兵団の隊長が次々に襲われる事件が現在発生中で、もし解決できそうなら協力してやって欲しいんだけど。たぶんそれにも報酬が出ると思うから、遠慮なくラーシア隊長にたかってくれて大丈夫だぞ』


 こんな感じだ。

 リーベ村の人たちは土地柄から剣術は必修科目。幼子から老婆まで誰しも一通りの基礎以上のことはできる。もしもの時は、力になってくれるだろう。

 まあ、ラーシアに【神器】持たせたから大丈夫だとは思うが、念には念を入れといて困ることはない。


 ラーシアにもその旨は伝えたところ。


「へ? い、いえ、嬉しいお話ですが、皆様の故郷の方々を危険にさらすわけには……」


「あ、それはたぶん大丈夫。村の誰が来たとしても……みんな【神器】持ってるから、下手なことにはならないだろ」


「……はいぃ?」


 ため息に近い、呆れたような、力が抜けたような疑問がラーシアの口から漏れ出た。

 まあなんせ、俺は転生者。赤ちゃんの頃から既に今くらい成熟していた。だから小さい頃から錬金術の自主練でいろいろ【アップデート】してきたわけで、その数は、村人全員に行き渡る。というかみんなの武器に勝手に【アップデート】して回っていたのだ。

 それどころか倉庫にしまってある備蓄にも施してる。


 だから、リーベ村、実はみんな【神器】使いなんだよね。

 父さんみたいに武器が変化していくのが気持ち悪くて使ってないのはともかくとして……。


 それで村を飛び出した連中はSランク冒険者に。

 村で余った備蓄の【神器】が売買されたものが所在不明に。

 でも流石におばちゃんとか村の子供たちがSランク冒険者になっている姿なんて想像できないよな。


 そんなわけで、ラーシアの心配は完全に消えうせた。ついでに、割といいなと思えていた俺の就職の内定も消えうせた。

 ……まあいい。いざさらば。城塞都市トラン!


「また寄ることがあれば顔を見せに行くよ」


「是非お立ち寄りください。この【防人の黒刀】だってお返ししなければならないのですから」


「いやまた変なのに襲われてもあれだし、なんなら持っとけ持っとけ」


「ええ……【神器】ですよ? なんでそんな、親戚が子供にお小遣い上げるような感覚でいられるんですか……」


 ドン引きされた。せちがらい……。

 なんだか釈然としないが、後はラーシア自身の問題だ。村の誰かも来ることだし、なんの気後れもなく、これにて街を後にすることができる。


 手を振るラーシアに見守られながら、二頭の馬は息を合わせて馬車を引き、俺たちをガタゴトと運んでいくのだった。


 スピードは原チャリくらいだな。

 乗り心地は意外と悪くもなく、現代っ子の俺でもこれくらいなら酔い止め飲まなくてもイケる。

 ……実は錬金術で酔い止めを調薬しといたんだが、無駄になったな。


 ――道中は、野盗に絡まれたのでついでにその一味を解散させたり、身体を洗うために水浴びしてたらハプニングがあったり、小さな村を経由していったらモンスターを倒す仕事を承ることとなったりと、割と忙しかった。のんびり旅行は、そんなことになる暇がなかったくらい、うまくいかないもんだなあ……。

 先を急ぐからと言って、村で行われる宴会にも参加できなかったし……。


 そんなこんながあって、クタクタになりながら、トランを出て四日目。

 ついに、ゲンツー王国、その王都へやってきた!


 寝たいっ!

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