9:真相
「あなたが、あの『ノックスハート』を仕上げた錬金術師様……なのですか?」
いやそれがわからないんですよ。実は。
みんながそう言うものだから、暫定的に俺の手柄としてはいるものの……真相の解明には至っていない。
だからあまり大っぴらに「はいそうです」とは言いたくないんだが、否定もしきれないから困ったところだ。まさかとは思いつつ、転生チートの可能性は捨てきれない。
「……どうなんだろうね?」
なので、えへへと笑ってお茶を濁した。
それがどうも、飄々としていると捉えてくれたようだ。
「なるほど。食えないお方だ。道理で肝が座っておられる。ということは、その黒色の異剣もやはり【神器】ですか」
称賛と疑問が入り混じったような感じの口調だな。
まあ、こんな冒険者崩れが王女直属の護衛騎士の剣を造ったなど、そうそう信じられるものじゃない
俺自身だってまだ半信半疑なんだからな。
「まあ、その話は今は置いといて。……ナージャからは、どのような手紙を?」
さて。コーヒーも堪能したし、ひとしきり賞賛の声をもらったので、そろそろ本題に入ろう。
ナージャについてだ。
わざわざ、この街で俺たちをもてなすようにと手紙を出したということは、もしかして、あいつ、わざわざ出迎えにきてくれるのか?
「申し訳ありません。手紙の内容は機密事項ですので、例えお二人だろうと、開示することはできません。ですが、要点をかいつまんで話すことは可能ですよ」
手紙を要約すると、俺たちにはこの城塞都市トランに一週間ほど滞在してほしい。その間、憲兵団の宿舎を利用させてほしい。代わりにルイジアナを練兵や雑務等につき合わせてくれても構わない。
とのこと。
「へえ、ナージャが来るのは一週間後ってことなのかな?」
「申し訳ありません。ナージャ様の動向については、お答えすることはできません」
「ああ、まあそうか」
来るとしても、護衛騎士が持ち場を離れることをわざわざ公言する意味がない。むしろリスキーだ。
その返答は理解できる。
……ただ一つ、これまでの話を聞いても、やっぱり理解できないことがあるんだよな。
「……じゃあなんで、一番最初に俺たちを、危険人物みたいに包囲したんだ?」
部下への指示に行き違いがあった。との弁明であったが、この内容で、どういうミスがあればあんな大人数に囲まれなきゃならなかったんだ。
あれ、実はちょっとムカついてるんだが?
「……今一度、謝罪いたします。そして、懸念の通り、あれは伝達ミスや行き違いなどではありません。私の独断で部隊を動かし、あなた方を徹底的にマークしておりました」
ほう……? やけに素直に白状したな。別に知らぬ存ぜぬと言われれば、判断材料が揃ってるわけじゃない俺は、釈然としないが、言い分を鵜吞みにするしかないわけだ。
なぜ今それを言う?
隠す必要がなくなった……?
「説明いただきたいね」
「憤慨するものと思っていましたが、さすがは冷静ですね」
「いや、すでに怒りがピークに達してる人がいるぞ? ほら、俺の隣に」
もはやその感情は声にすらならず、肩で息をしながら目いっぱい眉間にしわを寄せるアナ。
落ち着け落ち着けと背中をさすってやり、なんとかこの場に留めている。
気を抜けば、ぷりぷり怒ってどっか行っちゃうぞ。知らない土地で迷子になっちゃうぞ。
ラーシアは冷や汗を一つかいて、その迫力に生唾を飲んでから、自らの正当性を訴えた。
「これは、先ほどのナージャ様の手紙の内容からも推察できます。ルイジアナ様を『練兵や雑務等につき合わせてくれても構わない』とナージャ様は記してありました。つまり、われわれの訓練に付き合っていただいたわけです。ご協力、感謝いたします」
ああ、なるほどね。
あの緊張感は、おそらく、一般憲兵たちも、本当の話を聞かされていなかったのだろう。
俺たちはこの女に、まんまと一杯食わされたわけだ。
「本来、この話は憲兵団の中でも極秘でした。知っていたのは私の他には団長だけです。せっかく【神器】を持った無名の人物がこの街を訪れるとの報があったのですから……仮想敵として、対処する訓練を行ってみたのです」
街の防衛に余念がないんだな。【神器】使いの仮想敵か。
でも、言っちゃなんだが……。
「それで、手も足も出なかった……と」
「手厳しいご意見ですが、その通りですね。あのまま戦っていれば、部隊は全滅。死傷者も出たでしょう」
そうだな。乱戦になるだろうし、俺もアナも手加減してやれる余裕はないだろう。
あれを訓練というなら、出来栄えは最悪の部類だ。
「その通り。最悪なのです。この街の憲兵たちでは、【神器】使いが一人現れただけで、街を守ることができなくなります。……恥ずかしい話ですが、ナージャ様がこの街で冒険者をされていた時は、どれほど助けられたか……」
へえ、ナージャのやつ、そこまでここの憲兵団に信頼されていたのか。手紙一つで動いてくれるのも、ナージャが護衛騎士という偉い立場だからという話でもなさそうだ。
「まあ、滅多にないというか、そんな賊が【神器】を持っているだなんて、まずありえないだろう。訓練ってのは確かに最悪を想定するものだが、それはいささか、最悪が過ぎるだろ」
「……やはり、あなたは知らなかったんですね。【神器】の製作者でありながら、その所在には一切関与していない。そうなんですね?」
「お、お恥ずかしい限りです……」
あれ? いつの間にか、俺が詰められてる?
釈然としないが、ラーシアはまだ言いたげだ。
「これまで確認された神器は全部で72本。あなた方が所持しているものを合わせて74本なわけですが……その半数である36本は国が確保し、収容または所持してあります。ですが残りの半数は、存在が確認されるのみで、いずれも、国の管轄外にあるのです」
……へ?
「これは、【神器】の製作者であるダイア様だからこそお話する内容です。……再度確認します。本当に、【神器】の所在には一切関与していないのですよね?」
俺が【アップデート】の練習とした武器は全て村に置いてきた。
でも村を離れて六年間、村の人たちが使ったり、冒険者になって持ち歩いたり……たぶん、あの武器商人にも何度か売らさったことあるんだろうな。
全部どこにあるかなんて、確かに……わからないよ……。
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