第6話 入籍して不安定になる

 自分でも理解できないことに、私は籍を入れた途端メンタルの調子をひどく崩しました。旦那にいつか捨てられるのではないかという不安で三日に一回は泣いて旦那を驚かせることに……。主治医の先生の見立てでは「旦那さんが手に入ったから、逆に失うのが怖くなっているのではないか」ということでした。私でなくても、結婚など人生の大きな出来事で調子を崩すというのはたまにあることらしいです。

 私があまりに泣くので、旦那が私の心療内科へついて来まして。一緒に先生へ相談した結果、訪問看護の制度を利用することを勧められたので申し込むことにしました。訪問看護にもさまざまな形がありますが、私の場合は一週間に一度、担当の女性がやって来て一時間ほど話を聞いてくださることになり、何かある度に相談できるようになったので私にとってかなり助けになりました。


 そんな中で旦那の適応障害が発覚。

 初め私は仕事のストレスのせいだと思いましたし、本人もそう言っていたのですが、ある日、実はイチカのことがストレスで……と打ち明けられました。

 正直なところ、とてもじゃないですが信じられず。というのも、私から見たら、旦那は私が泣いても相変わらず何もしていなかったからです。大げさに言ってるんだ!と思っていました。

 しかし、そのあと小さなことで喧嘩して、仲直りはしたものの、その日から旦那の不眠症がひどくなったので認めざるを得なくなりました。それに、一緒のベッドで寝ていたのに「一緒だと眠れないから」という理由で、旦那はリビングで寝るようになってしまいました。

 旦那曰く「『今元気がないんだ』とかそういうことも言わないでほしい。俺も元気がなくなるし、なんとかしてほしいっていうプレッシャーをかけられてるみたいでしんどい」とのこと。私の存在がそんなに負担をかけているのか……というのは大きなショックで、どうしたらいいんだろう、と思いましたがなかなか結論が出ず。

 そんな折、また小さなことで喧嘩をしました。私は普段から晩ご飯を作りながらDiscord(通話アプリ)で通話をしていることが多かったのですが、『ご飯を食べる直前まで通話をしている。家庭を第一にしていない』と旦那に言われたのが発端で、言い返したらこじれにこじれ、私がまた泣いたので、旦那が疲れて「もう別れたほうがいいんじゃないか」と言い出しました。

 それが私にとってどれだけ恐ろしいことか、旦那には考える余裕もなかったと思います。この時、まだ入籍して1年もたっていませんでした。


 どうしたらいいのか、別れないで済む方法をめちゃくちゃ考えました。

 きっとこうちゃんはもう限界なんだ。これ以上負担をかけてはいけない。


 悩んだ結果、「私一週間くらい一人旅に行ってくる。こうちゃんは一人旅好きだから、こうちゃんが出かけても『一人楽しい!』ってなるだけでしょ? だから私が行くよ。普段通りの生活してて。その間にお互い頭冷やして落ち着いて考えよう」とお願いし、急いで計画を立て、次の日の夜には夜行バスで出発。静岡に住んでいる友だちがいるのでまずその友だちに会いに行き、週末を利用して観光に付き合ってもらったり、一人でその周辺を観光したりして一週間過ごすことにしました。もともと旦那は一人の時間を大事にする人でもあったので、たまには完全に一人の時間を満喫してもらおうという意図もありました。一方私は日頃から一人になりたいという願望が全くないタイプで、一週間はとても長く感じられました。


 旅行中一度だけ、旦那に電話をしました。確か四日目の夜だったと思います。私にしてはかなり耐えたほうです。

「これからのこと、どう考えてる?」と旦那。「これからはこうちゃんに極力迷惑かけないように、何か落ち込むことがあったらこうちゃんじゃなくて、訪問看護の方や友だちに頼ろうと思ってる」と私。

「そうしてくれると助かる。あと、ネットで気になる記事を見つけたから読んでみてくれない?」と言われたので見てみると、『小さな頃に親に過度な期待をされて育った人は、大人になって周りに過度な期待をしてしまう』という主旨の記事でした。「私がこれじゃないかって言いたいんだよね? うちの親は私に過度な期待を持ってはいなかったと思うから、これは当てはまらないと思う。記事のいいとこ取りをするなら、周りに過度な期待をするのは良くないってことかな」と返しました。

「そういえばさ、この前の喧嘩、すぐ解決策を考えたら良かったよね。私がギリギリまで通話してるのがこうちゃんは嫌だったんだから、解決策を話し合って、私が早めに切るようにするってすぐ決めたら良かった」と私が言ったので、旦那がそれに同意して。二人とも穏やかに話して、喧嘩腰な感じではなく。「次に連絡するのは、家の最寄駅の近くまで帰って来てからにするね」と言って通話を終えました。


 その数日後、旦那が駅まで迎えに来てくれて一緒に家に帰りました。それ以降は穏やかに暮らしていますし、また同じベッドで寝ています。


 つまり、私たち夫婦は紆余曲折を経て一つの決断を下したのです。それは、、ということでした。

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