第5話 コツを習得する

 それからまた少し経って、今までで一番ひどい喧嘩をしました。始まりはとても些細なことでした。私はメンタルのみならず体も弱いので、よく微熱を出したりお腹を壊したりするのですが、その日もそんな感じだったので、旦那に、今日はお腹を壊しているし、胃も痛くて困っている、と伝えたんです。

「胃に優しいものって雑炊くらいしか思い付かないけど、他に何かある?」言われたので、「煮物とかでもいいんだよ」と言うと、「じゃあ今夜のご飯は雑炊と煮物だな」という返事。「え? それ、誰が作るの?」と聞くと、「そりゃイチカだろ」と言われて戸惑いました。『こんなに具合が悪いのに私が作るの? どういうこと?』と思ったので、それを旦那に説明したのですが、説明してもしてもそのおかしさが伝わらず、次第にどんどん責めているみたいになって、とうとう旦那が逆ギレし、怒りにまかせて私の首に手をかけました。

 でも私は自分が正しいと思っている時は強いので、「そんなことしても何も怖くないよ!」ときっぱり言い、旦那は次第に元気がなくなって手を離しました。


 今起きたことは一体? 私はどうすれば良かったんだ?? と悩み、友だちの一人にLINEで相談したところ、「カサンドラについて調べてみたら?」と言われました。カサンドラってなんだろう?と思いながらさっそくネットで検索してみたところ、ASD(自閉症スペクトラム障害。発達障害のひとつ)の旦那さんを持つ奥さんが、感情面で満たされず次第にメンタルを病んでいくという、「カサンドラ症候群」のことで。つまり私の友だちは、「旦那さんは発達障害じゃないの?」と言いたかったんですね。

 知識がなかったのでASDとカサンドラ症候群について調べ、体験談を読み、確かに旦那はASDの特徴と似た性格をしているな、と思いました。実際、うちの旦那は発達障害の検査を受けていないので本当のところは分かりません。似ているだけ、というだけの可能性もあります。ただ、調べていく中で一番気になったのは、ASDの人は「なんで〜〜してくれないの?」とか「なんで〜〜するの?」という言葉を極端に嫌うという情報でした。旦那もこれを言うと黙り込んでしまうことが非常に多かったのです。

 今回の喧嘩の時も、私はこれを何回も言ってしまっていた、と思いました。今回の一番良い解決法は、気持ちを分かってもらうように長々説明することではなく、「今日は動けないから何かレトルトを買って来て」というだったんです。『解決策』――旦那の好きな言葉です。


 そんなこんなで、しばらくして旦那の気持ちが落ち着いたのを見計らってから、三カ月時間をくれないか、とお願いしました。これから三カ月間、一度も喧嘩をしないで過ごしてみせる、そしたら別れないで一緒に暮らし続けたい、と伝えたのです。その時ちょうど10月くらいだったので、じゃあ年末まで喧嘩をしなかったら別れない、ということで話が決まりました。


 一方旦那のほうは、自分はいつかカッとなってイチカを殺してしまうかもしれない、と本気で心配し、会社の人に相談して、私を実家に送り返す計画を立てていたらしいです。そうなっていたらと思うと恐ろしさしかありません。

 とはいえ、その約束をして、年末まで本当に一度も喧嘩をしませんでした。私が泣く回数も減り、そのまま一年ほど安定した日々が続いたので、そろそろ籍を入れようか、という話になりました。私たちが出会って6年ほど経っていたと思います。

 しかし、籍を入れてもまだ問題が残っていました。

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