第4話 助けてもらえない

 同棲が始まって楽しく暮らしていても、私のうつ病が簡単に消えるわけではなく。調子の悪い時には理由なく泣いたり、小さなことでうつモードに陥ったりしていました。

 そんな時に戸惑ったのは、旦那が泣いている私を放置するようになったことです。基本的に優しい人なのに助けてくれないのはなぜ?と、疑問でした。

「私が泣いている時には、『大丈夫だよ』って言ってくれない? そしたら少しは元気になるから」とお願いしたところ、旦那は少し考えて、「それは俺には無理だ」と言いました。「俺は解決策を求めたい。『大丈夫だよ』と言っても事態は変わらないし、解決にはなってないから、何がいいのか分からない。言わされて言うのも違うと思う」と言ったので、とてもとても困りました。典型的な男性思考かと思います。

「じゃあ何も考えずにハグしてみて。それで元気になることもきっとあるから」と言ってみましたが、それも何回か試したあと、同じ理由でやっぱり無理、と断られました。

 結果、私が泣いていても、『何をしたらいいか分からない。何かして嫌がられるよりは何もしないほうがいい』という結論になったらしく。そして私が泣くことにすっかり慣れてしまったようで、私が泣いても特に動揺することもなく、『何もしない』が定着してしまったのです。


 これは本当に困りましたしショックでした。「あなたは私を助けることができるのに! その力を持っているのに!」と何度思ったか分かりませんし、何度伝えたか分かりません。でも旦那は困った素振りを見せるだけで、基本的には何もしませんでした。

 私を助けたい気持ちがなかったとは思いません。でも自分が納得できる私を助ける方法が分からなかったのだと思います。

 このせいだけではありませんが、一緒に暮らし始めて三年目くらいの頃、旦那のほうからしょっちゅう別れ話が出るようになりました。合わないならそれぞれ別の道を行ったほうがお互いのためになる、というのが旦那の持論でした。


 困り果てた私は、「旦那と別れるくらいならもう生きている価値がない。家族とも縁を切っていて頼れる人もいないし……」と思い詰め、とうとうオーバードーズをしてしまいました。旦那が夜勤へ行っている間に、市販の薬を致死量以上、150錠ほど一気に飲んだのです。

 飲んでから30分ほどして嘔吐が止まらなくなり、「駄目だ、これは楽に死ねない」と思って自分で救急車を呼びました。救急車で運ばれ、病院に着いてから意識を失い……。あとで聞いた話ですが、私の心臓は二回止まったらしいです。気付いたときには私はICUのベッドに寝かされ、何本もの管に繋がれて横になっていました。心臓マッサージの影響で肋骨が痛くて痛くて、体を動かせませんでした。

 ベッド脇に旦那がいて、私を見下ろして、薄く笑っていました。「ドラマとかでよくあるけど、薬って飲んでも喉に指突っ込んで少し吐いたら治るものかと思ってた。実際はこんなふうになるんだな」と。「こんなになるまでイチカが俺のこと好きなの知らなかった」とも言われました。

 旦那はこの時笑っていましたが、その直前に医師から私の心電図を見せられ、「これ異常なく見えるでしょう? でも脈が200以上あって危険な状態です」と説明を受け、ぼろぼろ泣いたらしいです。


 一週間くらい入院しましたが、ICUはスマホ持ち込み厳禁なこともあって何もすることがなく、私はずっと考え事をしていました。

 一番強く思ったのは、「私間違ってた」です。「こんなやり方私間違ってた。生きる方向に努力すれば良かった。もっと旦那以外にも夢を持てば良かった。そしたら捨てられるくらいで死を考えることなかったのに」と思って激しく後悔しましたし、今でも後悔しています。こんなことはもう二度としません。


 ともあれ、旦那との間にあった別れ話は立ち消えになりました。それでも、言わずもがな根本的な問題が解決したわけではありません。退院してからも私のうつ病は続き、よく泣き、旦那はそれを放置していました。

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