2.悪魔やってます
――王都城壁外、森林。
「本当に魔族が大量発生してるアルー!!!」
「ギルドマスターの言う通りでしたねぇ……」
カロルとリーリャはゴブリンやスケルトンを次々と討伐していく。
「ギルドマスターね……。」
「ギルドマスターに何か思うところがお有りで?」
「ああ、俺達が旅立った時と違う人が着任してたからかな、なんか気になって」
「私達が出発してから10年も立ってますからね〜。そんなもんじゃないですか?」
「そうだと良いんだけどな」
ボルタとアキトも話し合いながら魔族を掃討していく。
気づけば日は暮れ、星が夜空を彩っていた。
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日が暮れ、勇者パーティが宿へと帰宅したのと同時刻。
――王都ギルド本部。
王城よりは大きくないが、要塞とも呼べる冒険者達の要であるギルド本部にて、
そこでは話し合いを終えたギルドマスター・グリムと第一王子ダースが酒を飲み交わしていた。
「わたしがぁぁぁ! 王になる筈だったんですよォォォォォォ!」
「飲み過ぎですよ。ダース様。」
「私だって、私だって認められたいのにぃ!!」
「貴方は王になって何をしたいのです?」
「王になるという事は、この国の全てを手に入れる事と同義だ! 国を導き、私こそが! 英雄となる!」
「素晴らしいお考えですね。」
「だろう! だから異世界から父上が召喚した勇者は嫌いだ。奴には力がある。だが私には力がない! 10年前に、力では勝てないからと学問や政治を学んだのに結局これだ!」
「勇者が邪魔、という事ですね」
「ああそうだ! 邪魔だ! 奴さえいなければ、私が玉座に座っていた筈なのにぃ!」
「ふふふっ……。面白い。」
「なんだ貴様! 貴様も私を笑いものにするのか! 無駄な努力だと!」
「いえいえ! 努力が報われないのは残念ですよね」
「ああ! 本当にな!」
「今日はこの辺にしましょう。王城までの馬車を用意していますので、そこまでお送りします。」
「本当か! 感謝するよマスターグリム。」
「いえいえこちらこそですよ、王子様。」
グリムがギルド本部の入り口へとダースを送り、馬車へと乗せる。
「では、またな! 我が友よ」
「はい、また。」
馬車の中にいるダースに聞こえぬようグリム・ネルガルは呟く。
「僕を心の底から笑わせてくださいね王子様」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でもないです。これから楽しくなりそうだなと」
「そうだな! では今度こそさらばだ!」
「ええ! さようなら。」
馬車が動き出し、直ぐに城の方へと消えていく。
「ルシフェル。奴に、哀れな王子に力の一部を」
いつから居るのか、ギルド入り口の柱に美しい銀髪を背中まで流したゴスロリメイド、否。
悪魔が居る。
月の光で輝く銀色の眉毛と共に瞼が開かれ、グリム・ネルガルへと疑問を投げかける。
「何故です?」
「彼の嫉妬は素晴らしい。嫉妬の禁書を呼び寄せても良いぐらいの嫉妬だ。彼に力を与え、満たしてやろう。そして、彼が王座についたところを僕が彼ごと、この国を喰らいつくす。」
「強欲ですね。滅ぼすのなら私と貴方様二人で直接手を下せば良いものを。」
「それだと、面白くないだろう。僕は心の底から笑いたいんだ。」
「そうですね。私は貴方のそういう所が好きです。」
ルシフェルが頬を少し赤くし、ニコリと微笑む。
「確かこういうのをゲームと言うんだったな。地球のゲームという文化は面白かった。また行きたいものだ。」
「そうですね」
「君は表情が豊かになってきたね。」
「貴方様のご指導のお陰です。100年以上も共に夜を過ごして来ましたから。」
今度は少し恥じらいを見せるかのようにルシフェルは微笑んだ。
「なんか照れるね。ルシフェル、じゃあ頼んだよ。」
「はい。了解しました。」
「僕を楽しませてくれよ、人間諸君。ゲーム開始だ。」
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――王城、第一王子の寝室。
「あー飲んだ飲んだ! 着替えるのめんどくさいなあ! 寝るかぁぁ!」
第一王子ダース・キリエルはキングサイズのベットに飛び込み、言葉を呟く。
「あの勇者さえいなければなぁ……。」
「嫉妬ですか。」
「誰だ!」
ダースがベットから身体を起こすとベットの淵に銀髪の女が座っている。
「美しい」
ダースの口から言葉が無意識に出ててしまった。
「はっ!! 君、何処から入って来た。ここが王城で第一王子ダース・キリエルの寝室だと知っての侵入か!」
「私は強欲のが好き。」
女は動き、ベッドが軋む。
「んな!?」
その女は王子をベッドに押し倒していた。
「君、かっこいいね。ご主人様よりかは魅力的では無いけれど」
ダースは『魅了』されていた。
悪魔の力のによるものとは露知らず。
ダースの手が女の大きすぎない胸へとゆっくりと伸びていく。
「ダメだよ。この身体は契約したご主人様の物だから。」
ダースの伸ばしてくる腕を掴み、自身の胸へと腕を到達させない。
「私、魅了の能力は苦手なんだけどな。人間だからかな? まあ良いや、私はルシフェル。」
ダースの顔は真っ赤で言葉は発せず、呼吸すらも浅くなって来ている。
「あ、聞いてないな。このままだと死んじゃうかも。魅了の能力切るから話聞いてほしいな。」
「は!?」
ダースの意識は魅了から解放され、今の状況を思い出した。
「一体何者だ!」
「あ、戻った。改めて私はルシフェル。」
ルシフェルは自身の顔をダースの右耳へと移動させ、囁く。
「悪魔やってます。」
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