一章.二人の日常

1.魔王城で魔王死んでた。

「魔王が死んでいる……。」


 遂に魔王城に辿り着いた勇者パーティ。


 メンバーは


 黄金の鎧と大剣を持つ黒髪の男、勇者アキト

 黒のローブを翻し氷魔法を操る女魔法使い、リーリャ

 聖堂服を纏い神聖術を扱う男、僧侶ボルタ

 チャイナ服で超高速の拳を放つ女戦士、格闘家カロル


 四人で勇者パーティだ。


 ここまで来るのに様々な国で魔族を倒し、魔王城に辿り着いた勇者パーティが見たのは、玉座の前の血溜まりに倒れている魔王だった。


「四天王も全員死んでるアルー!」

「カラル。それは本当かい?」

「裏の宝物庫に死体があったアルヨ!」

「宝物庫のお宝も全部なくなってますぅ。」


 カラルとリーリャが魔王城の宝物庫から帰てきて勇者アキトに報告した。

 それと同時に僧侶も外を見て言葉を発する。


「邪悪な力の残滓を感じます。一体誰が……。」

「これは俺たちだけの秘密にしよう。王都に帰ってこの事実を王や貴族に告げればどんな事が起こるかわからない」

「それがよろしいでしょう。」

「アレはあったか?」

「宝物庫には何も無かったので卵はありませんでしたぁ」

「そうか、黒龍と赤龍の封印された卵もないとなると王都に戻ってからもまた旅に出なくてはならないかもな。いつになったら日本に帰れるんだ……。」

「ここに来れば召喚魔法についてもわかると思ってたんですけどぉ。こんなことになっちゃうなんて……。すみません。」

「いや、謝らないでくれ。君達と5年旅をしてこの世界を僕は好きになれた。まだ僕はこの世界に居てもいい。」

「さ、帰りましょう。王都に。」

「そうだな、ボルタ。凱旋と行こうか。」


 こうして、勇者パーティの魔王討伐の旅は終わる。

 

 そして、王都キリエルにある王城に帰還したのはそれからまた5年後の事だった。


**************************


 ――王城、謁見の間。


 勇者パーティは王に跪き、玉座へと向く。

 3つの玉座があり


 中央に王。 左席に第一王女アイーシャ、右席に第一王子ダースが座る。


王族は金色の髪を持ち、この都一の美貌を兼ね備えていると言われている。


「勇者アキトよ。」

「はっ!」

「お主に第一王女である我が娘、アイーシャ・キリエルを伴侶に迎え次代の王とする。」


「「「えーー!!!」」」


 勇者パーティ全員が驚きの声をあげた。


「父上、何をおっしゃっているのです! 次代は第一王子の私ダース・キリエルにお任せすると言っていたじゃありませんか!」

「ダース。お前はこの10年何をしていた。」

「学問、政治、剣を学び。この国を治めるための力を得ようと!」

「そうか、そうだったな。しかし、勇者アキトは我々が勝手に異世界から呼び出したにも関わらず恐るべき魔王を討伐した。これに見合う褒美を与えるには、これしか無かろう。」

「ですが私は!!」

「うるさいぞ、ダース。アイーシャ、お主はどうおもっているのじゃ?」

「わたくしはアキト様をお慕いしております。この縁談進めて頂きたいです。」

「うむ、よかろう。この話は宰相らとの話し合いで決定している者だ。良いな、勇者よ」


「は、ありがたき幸せ。召喚されてすぐ、俺にこの世界の事を教えてくださったアイーシャ様と結婚させていただけるのなら、是非!」

「アキト……!」

「この10年でより美しくなりましたね。アイーシャ様。」

「ありがとうアキト。これからはずっと一緒ね!」


「他の勇者パーティのメンバーにはギルドから報酬金と土地を与えよう。それで良いなギルドマスター。」


 この国全てのギルドを総括しているギルドマスター。

 

 その紫髪で、質素な西洋系の貴族服を纏う青年が王の一言で前に出る。


「僕に異論はありません、陛下。その方向で話を進めましょう。」

「うむ、これで我ら王族と勇者パーティの謁見を終了する。」

「あー。陛下、一つ無礼を承知で申したいことが。」

「ん? なんじゃギルドマスターよ。何なりと言ってみるが良い。」

「近頃、王都周辺の森林にて魔王討伐の影響からか、ゴブリンやスケルトンなどの魔族が大量発生しています。その処理を行う為に勇者パーティ御一行と第一王子をお借りしたい。」

「私を!? な、何故だギルドマスター!」


 第一王子のダースが驚き、玉座を立った。


「ええ、王族の方が一人いるだけで王城の貴族達と意思疎通がしやすくなりますからね。」

「な、なるほど! よろしいですか父上!」

「ああ、いいだろう。王位継承の義はこの件が解決してからとしよう。頼んだぞギルドマスターグリムよ。」

「はっ! 取り急ぎ明日、ダース様は僕とギルド本部で対策会議を勇者パーティの皆様には森林へ偵察に行って頂きたい。」

「俺たち勇者パーティはそれで大丈夫だ。」

「では、僕はこれにて。」

 

 ギルドマスターは、にやりと口を綻ばせ謁見の間から立ち去る。


 「……?」


 その微笑みを勇者は見逃さなかった。

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