第14話 リフルとフランジーヌを見る者

 生徒会室の窓から、リフルとフランジーヌの微笑ましいやり取りを眺めている者がいた。


「ほうほうほう。あれが噂のガーゴイルウィザードを単騎討伐した子ですか」


 長い紫髪、赤い瞳を持つ少女は、ニヤニヤしながらリフルを品定めする。


「綺麗な所作です。私以外の生徒はまず相手にならないでしょう」


 きっぱりと言い切る少女。その発言には確かな自信があるようだ。

 彼女は、リフルをこう評価する。


「力はある。考える頭もある。つまり、私の良いおもちゃ――ごほん、退屈を消し飛ばしてくれる貴重な存在です」


 はっきり言って、うずうずしていた。

 新しいおもちゃを前にする、子供のようだった。


「生徒会長! ソフィー生徒会長!」


 施錠・・していた扉が何度も叩かれる。


「あ、すいません。無意識に鍵をかけてしまっていたようです。今、開けますね」


 真っ赤な大嘘だ。サボるため、わざと鍵をかけていたのだ。

 ソフィーと呼ばれた少女は、渋々解錠しに行く。


「リフル・パーネンスさん。恨まないでくださいね。このソフィー・ハルヴェンに見つかったのが、運の尽きです」


 ソフィーの口元が三日月状に歪んだ。



 ◆ ◆ ◆



「はぁ、フランちゃんと一緒に遊びに行きたかったのに……」


 その言葉にフランジーヌは抗議する。


わたくしはそんなに気安い存在じゃないわよ」


 今日のリフルは先生から頼まれた雑用をこなしている最中だった。唐突に職員室に呼ばれ、大量の資料を生徒会室に運ぶよう仰せつかったのだ。

 一人で行くのも寂しいので、フランジーヌに頼み込み、手伝ってもらっていた。無論、フランジーヌに負担をかけられないので、ほぼ全てリフルが運んでいる。

 要は話し相手になってもらいたいだけだ。


「とか言って、手伝ってくれるからフランちゃんは優しいよね」


「! ば、馬鹿なことを言っているんじゃないわよ。わたくしは貴方に、どれだけの負荷をかけても良いのか、試しているだけなんだから」


「はいはい。そういうことにしておくよ。ところで今日もまた木剣ぶつけ合うの?」


「当たり前よ。貴方に勝つまでやるんだから」


「たまには私に魔術を教えてよー。与えられてばかりが貴族なの?」


「う……」


 フランジーヌはある意味、とても素直な性格だった。

 リフルの意見など一蹴すれば良いだろうに、それでもフランジーヌはしっかりとその発言を受け止めるのだ。


「私は戦い方について、結構教えてると思うんだけどなー。そろそろフランちゃんからも何かしらのレクチャーがあっても良いんじゃないかなー? ちらっ」


 わざとらしい演技をはさみつつ、フランジーヌの様子を窺ってみる。

 彼女は悩んでいた。腕を組み、ウンウンと唸っていた。やがて、フランジーヌは覚悟を決めた。


「良いわよ。今日はこのわたくし、フランジーヌが手ずから魔術の授業をしてあげるわ」


「やったー! ぱふぱふ!」


「それではまず、わたくしが得意とする《ライトニング・ストライク》から」


 そこからフランジーヌの授業が始まった。

 時に、諸君は風が強い日をすぐに思い出せるだろうか。

 風が吹き、物が飛ぶ、あのような日だ。


「――ということよ。要は思い切り魔力を込めれば、すぐに出せるようになるってことよ」


「わーい。全然分からない」


 フランジーヌの授業は、まさしくソレだった。

 情報の暴風雨。受け止める側に相応の準備がなければ、その情報の圧によって、一瞬で吹き飛ばされてしまう。

 リフルが使える魔術は数少ないので、しっかりと傾聴の姿勢をとっていたにも関わらず、彼女は吹き飛ばされた。


「何で分からないのよ」


「も、もう一回お願い! 今度はちゃんと聞けると思うから!」


「全く、仕方ないわね。あと一回だけよ」


 そして、また暴風が吹き荒れた。

 リフルはまたしても濃密な情報量により、吹き飛ばされた。


「えぇ……全然頭に入らない。私、聞く姿勢には定評があったのに」


「情けないわよ。アマリアに聞いてご覧なさい。あの子、私の授業を聞くと、すぐに習得していたわよ」


「ほんと?」


「そうよ。あの子、終始ニコニコしていたわ」


 そこでリフルにゲスなもしも・・・が浮かんだ。


(もしかしてアマリア、実はもとからある程度出来る上で、このある意味すんごい授業を聞いていたんじゃ)


 正解である。

 確かにアマリアは《ライトニング・ストライク》を行使できずにいた。しかし、それはあと一歩の話だ。

 

 そもそも、フランジーヌが天才肌なのだ。


 彼女は感覚で物を話す。故に、聞く者との相性でその結果は大きく変わる。

 アマリアはどちらかというと、フランジーヌの側にいる。

 だからこそ、アマリアはその最後の一歩を踏み出すことに成功した。


 白兵戦はともかく、魔術の行使に関しては、まだまだリフルは凡人と言えるのかもしれない。


「何よ、その何か言いたそうな顔は」


「何にもないよ! 全くフランちゃんは疑り深いなぁ」


「貴方が考えてそうなことを考えれば、簡単な話よ」


 リフルとフランジーヌの前に、一人の女生徒が近づいていた。

 紫の髪、赤の瞳。そう、彼女こそはこの学園の――。



「お話中すいません。ちょっとよろしいでしょうか?」



 そう言って、ソフィー・ハルヴェンは人懐っこい笑顔を浮かべた。

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