第11話 初訪問!アマリアの屋敷

 リフルは今、アマリアの屋敷にいた。


「ごめんね、リフル。家までついてきてくれてありがとう……」


「ううん、それよりも具合はどう?」



 話は一時間前に遡る。



 フランジーヌに誓いを立てて以降、何事もなく過ごしていたある日、アマリアが授業中に具合が悪くなってしまったのだ。

 すぐに馬車を呼び、リフルは正門までアマリアを背負って運んでやった。

 ラバンカーナ家の人間にアマリアを引き継ぎ、帰ろうとしたその時である。うなされていたアマリアは、無意識にリフルの制服の裾を掴んでいた。

 リフルとラバンカーナ家の人間が顔を見合わせる。少しの沈黙が流れた。


 ――あの、大変申し訳ありませんが、ついてきていただけないでしょうか?


 もちろんリフルは頷いていた。

 ここまでされて、その手を振り払うなどと、彼女には出来ない。

 幸い馬車にも空きがあったので、アマリアの隣に座らせてもらったリフル。


 馬車に揺られること十数分。リフルはアマリアの屋敷にたどり着いた。


「うおお……」


 ラバンカーナ家は王城の財政を司る家。

 重要な立場にある者が住む家にふさわしい、立派な屋敷であった。

 巨大な屋敷、重厚感溢れる正門、美しい庭園。いくらお金をかければこのような家になるのか、リフルには想像がつかなかった。


 使用人に連れられ、屋敷に入る寸前、リフルはとある方向を向いた。


(あれ、今……見られてなかった?)


 視線を感じた方向には、既に誰もいない。

 リフルの様子に気づいた使用人が尋ねた。


「どうされましたか?」


「あ、いえ。何でもありません。あそこの部屋って誰かいるんですか?」


「あちらはお嬢様の兄君であるイーサン・ラバンカーナ様の工房となっております」


 そこで話は途切れた。

 アマリアが辛そうだったので、早急に私室へ運ぶこととなったのだ。

 薬を飲ませ、暖かくし、眠りに入るアマリア。使用人から、念のためしばらくいてほしいとお願いをされ、リフルはそれを了承した。


「こうしてみると、ほんっときれーな子だなぁ」


 透き通るような青髪、美しいオレンジ色の瞳。儚げな印象を持つ佇まい。

 異性は放っておかないだろうな、とリフルは思った。

 実際、アマリアに好意を寄せる異性は多いらしい。

 しばらくアマリアを眺めた後、リフルは筋トレに入った。


「ううん……」


 少し時間が経った後、とうとうアマリアが目を覚ました。

 ゆっくりと起き上がる彼女の目の前に、逆立ち腕立て伏せをしているリフルの姿が飛び込んだ。


「り、リフル?」


「おはよーアマリア。起きたんだ」


「どうしてここに? それよりもここ、私の部屋? え、ええ?」


 混乱しているアマリアに一通り事情を説明したリフル。

 ようやく頭の整理が出来たのか、アマリアはまず頭を下げた。


「ごめんね、リフル。家までついてきてくれてありがとう……」


 アマリアは恥ずかしさで死にそうだった。背負って運んでもらったばかりか、リフルを引き止めて家まで連れてきてしまったことに。


「ううん、それよりも具合はどう?」


「おかげさまで、少し寝たらかなり良くなったよ」


「それなら良かった!」


「一人でずっとここにいて、つまらなかったでしょ」


「いや別に。筋トレしてたし」


 そう返されたアマリアは思わず笑ってしまった。あまりにもリフルらしい言葉だった。


「リフルって、変わってるよね」


「うぇぇ!? ほんと!? 私はただフランちゃんを守りたいだけの人間なのに……」


「フランジーヌにあんなこと言える子、一人もいないよ? だからリフルは変わってるんだよ」


 変わっている。

 アマリアはリフルに対し、かなり心を許していた。

 元来のアマリアはもっと、用心深く、慎重だ。人付き合いに関しては、特に。

 しかしリフルは違った。裏表なく、思っていることをそのまま口にして、根が善人だからこそ、アマリアは好感度が上がっていた。

 彼女にとって、リフルは少しだけ特別な存在なのだ。


「いつかお兄様にも会ってもらいたいな」


「お兄様?」


「そう、イーサンお兄様。私の自慢のお兄様なの」


 直後、微かに物音がした。

 耳が良いリフルはすぐに気づき、アマリアに報告をした。

 貴族の家はトラブルと共にある。常に頭の中が物騒なリフルは、こう考えていた。


(昼間から侵入者?)


 リフルはすぐに戦闘に入れるよう、一応準備する。

 だが、アマリアはいたずらっぽい笑顔を浮かべ、忍び足で扉の前まで向かう。


「え、待ってアマリア。危ない!」


「入ってきてもいいわよ、お兄様」


 開かれた扉の前には、同じく青い髪の青年イーサン・ラバンカーナが立っていた。


「……起きていたのか、アマリア。具合が悪いと聞いていたが」


「ええ、すっかり回復したわ。リフルが運んでくれたの」


「リフル……リフル・パーネンスか」


「知っているのお兄様!?」


「あぁ。単独でガーゴイルウィザードを討伐した人間だろう?」


 学園内での噂は広まるのが一瞬だな、とリフルは思った。

 そこで初めてリフルはイーサンと目が合う。


(綺麗なオレンジ色の瞳。アマリアと同じだ)


 思わず、リフルは感想を口に出していた。


「アマリアと同じ、綺麗な瞳の色ですね」


 瞬間、イーサンの表情が少し険しくなった。

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