第6話 魔術の授業

「さぁフランちゃん! さぁ! さぁ! 攻撃魔術を!」


 リフルのテンションは最高潮だった。

 授業とはいえ、フランジーヌと交流が出来るこの瞬間を、リフルは喜んだ。


「これほどまでに攻撃魔術を使いたくないと思ったのは、これが初めてよ」


 そう言いながら、フランジーヌは攻撃魔術の準備を始める。

 それに対応するため、リフルも準備を始める。


(緊張するな……。でも基本、《エーテル・ブレード》で斬ってるから、ちゃんと防げるか心配だな)


 リフルにとって、防御とは《エーテル・ブレード》の使用が前提だ。それが出来ないのなら、受けるか避ける。

 彼女はいつもそうやってきた。


「フランちゃん、遠慮しないでね」


「言われなくても。骨の髄まで恐怖を叩き込んであげますわ」


「フランジーヌ、リフル。二人とも、あんまり熱くならないでね」


 アマリアはこの状況を楽しんでいた。

 リフルとフランジーヌの関係は分からないが、それでも微笑ましく感じていた。


「燃え死になさい! 《ファイア・ボール》!」


「死!? フランちゃん、気合入りすぎでしょ」


 フランジーヌから放たれた火球は、人一人を飲み込むには十分すぎるほどの大きさだった。

 一般人ならば、対処困難。だが、リフルにとって、この程度の脅威は想定済みだ。


「よし、弾こう。《シールド》」


 リフルの手のひらに魔力の盾が生み出される。

 盾は火球を逸らし、はるか彼方へ飛ばしていく。

 その結果を見て、フランジーヌは僅かに眉をひそめる。


「受け止めるのではなく、逸らすのですね」


「本当は受け止めたかったのですが、フランちゃんの想いが強すぎてね」


「馬鹿も休み休み言いなさい」


 フランジーヌは今の結果を振り返る。

 リフルの力は事前に知っていた。だからこそ、強めに攻撃魔術を行使したのだ。

 それがあっけなく弾かれた現実に、フランジーヌは驚きを隠すので精一杯だった。


「今度は貴方が撃ってみなさい」


「本当は“貴方”じゃなくて、名前を呼んで欲しいところだけどね」


「ならばわたくしの防御魔術を貫いてごらんなさい。そうでもなければ、聞く耳持ちませんわ」


「えぇ……」


 念のため、リフルはアマリアへアイコンタクトを送った。


 ――やらなきゃいけないの?


 それを受けたアマリアは苦笑と共にこう返した。


 ――フランジーヌ、意地っ張りだから。


 リフルは悩んでしまった。


(困ったな……)


「早くなさい」


(やるしかないかぁ)


 リフルは覚悟を決めた。この後何が起きても謝るしか出来ないだろう。

 彼女は攻撃魔術の準備を始める。


「《ファイア・ボール》」


 呪文を唱えたリフル。

 彼女の手のひらから火球が飛び出す――。



「あらら」



 リフルの手のひらから、火の粉が飛び出ただけであった。

 その結果に怒りの表情を浮かべるフランジーヌ。


「手加減してますの?」


「ちょ、フランちゃん怒らないで。私、攻撃魔術下手くそなんだよね」


 これは事実だった。

 リフル・パーネンスの攻撃魔術の腕前は、下の下。ただ知識だけがあるという状況だ。


「リフル、上手く出来ないのは攻撃魔術だけ?」


 《エーテル・ブレード》を用いた見事な防御を見ているアマリアはすかさずフォローを入れた。


「そうだね。他はそこそこ出来るよ。なーんか攻撃魔術の感覚が掴めないんだよね」


「それなら試験のとき、どう切り抜けたのかしら? 攻撃魔術を使わなければならない試験もあったはずよ」


 フランジーヌが言っているのは、攻撃魔術を用いた的当てのことである。

 一定の距離から得意な攻撃魔術を放ち、的を射抜く。真ん中であればあるほど成績が良くなるという仕組みだ。


 リフルは当時を思い返す。

 確かに攻撃魔術の試験は最大の壁だった。まともに攻撃魔術を放つことが出来ないので、試験も何もあったものではない。

 しかし、彼女にはとっておきの秘策があったのだ。


「《エーテル・ブレード》を思い切り伸ばして突きました・・・・・


 そう言いながら、リフルは光の剣を生み出した。一般的な長さだ。

 しかし、彼女が魔力を操作すると、光の剣は見る見るうちに縮み、短剣相当の長さに姿を変えた。


「これと逆のことをして、試験をクリアしました」


「良くそれで不合格にならなかったわね」


「一応確認したんで大丈夫です!」


「そうですか。まぁわたくしには関係のないことですが」


「フランちゃんの意地悪ー」


 リフルは文句を言いつつも、笑顔だった。

 フランジーヌと会話が出来ていることが嬉しいからだ。


「……とは言え、その工夫だけは認めましょう」


「やったぁ! フランちゃんに褒められた!」


 リフルが身体全体で喜びを表現する。それを笑顔で見守るアマリア。

 柔らかくなりつつある空気。

 だが、それも一人の生徒の一声で打ち壊される。


「サロン先生、やはり納得できません!」


 男子生徒の一人が大きな足音を立て、リフルへ近づいていく。


「何故平民がこの王立ハイボルス学園にいるのか不思議でたまらない! 授業だって、本来は受けられる立場でないはずです!」


「シーズ・ソゥトラインくん、授業は皆平等に受けられるのですよ。それに、リフル・パーネンスさんは実力を示して、この学園に入学しています」


「だったら僕はその力を確かめる必要がある」


 シーズはリフルを指差す。



「サロン先生、決闘の許可を頂きたい。この平民を学園から叩き出すために!」

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