第9話




意識を取り戻した後、マーリンの案内に従い薄暗い廊下を進んでいた。確か、彼の話では私が見たがっているものをお見せしてくれるとのことだったが、いざ彼が連れてきた先にあったのは、薄暗い地下の中でも更に暗い、独房のような部屋の扉だった。

「……入る前に教えてもらえる?あんたがここに収容するっていう“しかるべき方”って結局どういう人なのかしら?まさか、見ればわかりますだなんて言わないでしょうね?」

警戒心を隠さずに厳しい目つきでマーリンを睨みながら言葉をぶつける。

「……まさに“見ればわかります”よ」

しかしそんな剣呑な私の態度を意にも介さぬように微笑をたたえたまま言葉を返してくるマーリン。

「はぁー……ま、そう言うと思ったわ。なに?そんなに口では説明しづらいのかしら?」

「勿論、ご覧になった後に満足がいくご説明はさせていただきますが、まずは百聞は一見に如かず……さぁ、どうぞ」

そう言って部屋の中へ向かうように腕を広げるマーリン。

「……いいわ、ただしあなたから入ってもらえる?急にあたしみたいな他人が入ってきたら驚かれるだろうし」

この部屋に入る覚悟はもう決めたものの、さっきまで思い通りにされていた自分が、もう彼の思惑通りには動きたくない故のせめてもの反発だった。

「ふむ、分かりました。では、お先に」

特に抵抗もなくこちらに背を見せ、部屋の扉をゆるりと開き中へ進むマーリン。そのタイミングで私が逃げるかもしれないなどとは毛ほども考えていないのだろう。

実際、自分がいる今の状況がどれだけ危険な可能性に満ちているかわかっていても、ここでこんな重要な情報を見逃して去るわけにはいかない。視界に映る全てを警戒しながら、されども恐れている様子はひた隠しつつ、まだ部屋へ足を踏み入れるよりも先に、彼の背の向こう側へ視線を飛び込ませる。

そこに居たものを、なんと表現したものだろうか。

それは前哺乳類的な足で立ってはいるものの、おそらくは“元のからだ”の名残りなのだろう。まだら色で毛もなく、爬虫類特有の鱗を纏ったその体を、しなやかにくねらせながら曲がるように歩行している。また、そうして歩いているそのものの口元からはどこかから空気が抜けていくような「シュー、シュー」という音が、大きく、そして規則的に聞こえてくる。瞼のない独特な眼は人間のそれと大きく乖離しており、暗闇の中でなお黒く浮かぶその黒瞳が扉の外からの光を受けて“縦向き”に収縮されているのが見て取れる。

その姿を、知りうる日本語の中で表現するとすれば―――それはまさに、人の形をした蛇。

「これ……は……」

部屋の中に見えたものは私の想定を越えていた。多少のオカルトやファンタジーには耐性のあるつもりでいたが、いざこの近さでこの異常を目にするのは今までの経験で鍛えられてきた精神でも、ゆらぎそうになる。それでも心の暴動をグッと抑えられたのは我ながらよく我慢できたものだと感心した。

「何よこれ……“然るべき方”って……これのこと……!?」

さすがに動揺を隠せないままマーリンのほうを見る。その反応を予測していたのか、こちらの動揺を受け入れるように、ゆっくりとまばたきをするマーリン。

「さて、きちんと説明いたします」

そうして、彼は口にする。

「―――我々はヘビ人間。太古より続く種族の生き残りです」

『ヘビ人間』。その単語をマーリンの口からハッキリと耳にすることで、先程の生物を見た時に、自分の記憶の中で引っかかっていたある資料の文面を思い出す。

ヘビ人間。それは人類という種族が存在するよりもはるか昔、およそ2億7500年前にこの地上に繁栄していたとされる種族だ。彼らはそんな現代よりも遥か昔の地球上で、現代と同等とされる科学力を、そして現代以上の『魔術に関わる文明』を以て国を築き上げたとされている。

「……おわかり、いただけましたかな?」

数瞬、ヘビ人間について考えを巡らせていた自分の様子を見て取ったのか、その短い言葉にはヘビ人間への理解と同意を求める含意が受け取れた。しかし

「わかるわけがないでしょ!説明を、説明をしなさいよ!これは一体……それに、あんた今、“我々”って……!!」

ヘビ人間がどういうものかを理解することは出来ても、いや、出来たからこそ、なおのこと目の前の状況を受け入れられない。『ヘビ人間』というのは2億7500万年前に存在していただろうとされる種族の話であって、今自分の目の前に居る彼やあれがそのヘビ人間なんです、などと言われてすんなり納得できるわけがない。

「動揺されるのも無理はない。しかし、どうか受け入れて欲しいのです。より正確に言えばヘビ人間の中にもいくつか種類があるのですが、とにかくヘビ人間という種族は今も存在します。そしてそのヘビ人間である私の願いは、現代にまで細々と生き残っている同士たちと再び集いあい、平和に暮らしたいだけなのです」

今まで彼と様々に言葉をかわしてきたが、その中のどこでも聞いたことがないほど真に迫ったその語り口調に虚を突かれる。私と森野の話をしている時や、一輪とかいう子のことを語っていた時にはなかったいわゆる切実さというものが、今語られた言葉の一言一句から滲み溢れるほどに伝わってきた。彼の様子を改めて伺うまでもなく、これが彼の真実なのだろうという確信があった。

「平和に……ねぇ……・なら、上の教団施設に通う信徒たちは?一輪とかいう子は?あの子らはどうなのよ?あいつらもヘビ人間なの!?」

彼の言葉に込められた熱は理解していた。しかし、確認しなくてはならない。彼は“我々”と言ったのだ。その中にもしこの施設の人々すべてが含まれるのだとしたら、私と森野が今置かれている状況がどういうものかがよくわかる、わかってしまう。そうなれば、穏やかに話し合いとはいかなくなるだろう。

「……一般の信徒たちは普通の人間です。しかし、一輪……あの子もまた、私達と同様にヘビ人間です。姿変わりの糸という我々の魔術を用いて人の姿を真似ているのです。かくいう私も今それを使っているからこそ、こうして人の姿でいられます。ですが私達が望むのは、平和。そのためのこの変装なのです……」

そう話した彼の姿が変化していく。おそらく今しがた話していた魔術とやらを解いて証明しようというのだろう。全身が淡く光った直後、その人皮にはきめ細かくつやめいた鱗がビッシリと生え、穏やかな瞳にかぶさっていた瞼も全身の毛とともに消えていく。すっかり人間たるものの姿から変わり果て、部屋の中のものと同様の容貌に変わり終えた。そして、静かに、されどそこには今まで以上の強い意志をこめて彼は告げる。

「……つまり、私は人間と共存したいのです」

一度見たとは言え、現実離れした目の前の真実に思わず頭を抱えそうになるが、こんなところでぶっ倒れでもしたらどうなるかわかりゃしない。折れそうになった心を気合で支えてなんとか意識を保たせる。

「糸の魔術のことは、これで信じてくださいましたか?」

「……そう、ね。まだ、なにもかもを飲み込めたわけじゃないけど」

飲み込めと言われても難しい話だ。なんせ、聞いたことがあるなんて言っても、それは結局何億何千年も前に居たかもしれないというだけの御伽話めいたものだったわけで、それが今目の前に実際にいるというのは、現実に川からでっかい桃がどんぶらと流れてくるのを目の当たりにするようなものだ。

「……ちなみに、その糸の魔術が使えるのは、あなたと一輪って子だけ?ここにいる彼らはその糸の魔術が使えないから隔離されているってことでいいの?」

ここは正しく把握しておきたかったので聞いてみた。もし彼や一輪のように姿を変えて人の世に紛れ込めるヘビ人間がもう既に何十人も何百人もいるようだったら、こちらとしても色んな事態を想定しておかねばならない。ただ、こういう部屋にこうして隔離している現状を鑑みると、おそらくはそうでもないのだろう。

「……えぇ、そうですね。彼らは魔術がまだ使えないためにこうして人の目に晒されないところに保護しておきたいのです。そして魔術が使えるのはまだ私と一輪さん、そしてもう一人の司祭だけです」

その話を聞いてホッとしたのが体に伝わったのか、お腹から小さく響く音があった。私のお腹から。

「……ここから積もる話にもなるかもしれません。まず、談話室に移動しますか。簡素な食事でよければ、そちらで用意もできますので」

私の腹の虫が聞こえたのだろう、そう言って食堂へ誘導してくれようとするマーリン。

「待って」

だがそんな素晴らしい提案に一度待ったをかけさせてもらい、こちらからも提案をする。

「……森野を連れてきても良いかしら?」

「森野さん、ですか……なぜでしょうか?」

私の提案に対して、疑問の声を漏らすマーリン。

「なぜって……こんな話、私一人じゃ抱えきれないっての……」

そう不安げに漏らしてみせる。どちらかといえば、それよりも森野に対してこれほど重大な事実を隠し続けたままでいられる気がしない、というか、隠していたくないのが正しい気持ちだ。それに思った以上にヤバいものを相手にしているとわかった以上、お互い単独でいることは避けておきたい。

「確かに、我々は人間との共存を望んでいます。だからと言って、現段階ではまだ、人間と積極的に関わろうとは思ってはいません。あなたにこうして全てを話したのは、あなた相手には我々のことを隠しきれない、と感じたからです。いえ、もう少しハッキリと言いましょう」

自らの発言を否定するように頭を振るマーリン。そして、改めてこちらに向けて襟を正し、言葉を続ける。

「私は、貴方に見逃して欲しいのです」

そう、ハッキリと告げる彼の瞳は、既に人間のものではなかったけれど、そこに宿る真摯さは生物の種類を超えて伝わってきた。

「先程の質問への答えにもなりますが、私はたまたま先祖返りをしたヘビ人間でした。だからこそ様々な魔術が使えますが、ごく普通のヘビ人間たちはもう、まともに魔術が使えないほどに退化しているのです。魔術が使えるのは私のような突発的な先祖返りが起きたものか、太古の昔から今まで眠り続けているヘビ人間だけなのです。一輪とて、多少の先祖返りによる才覚と、私の協力があってようやく糸の魔術を安定させられるのが精一杯の現状です」

物憂げに自らの手を眺めながらヘビ人間の現状を説明してくれる。これはかなり重要な情報だ。この話が正しければ、今ここで私と森野が、マーリンのような魔術使いを大勢相手にする心配はないのだから。だが、ここで少し究明しておきたいことが脳裏に浮かんだので、マーリンに尋ねる。

「……変に弱気ね。あなた達の強みは魔術だけだっていうの?」

話によればかつての彼らは現代の私達と比べても遜色ないほどの文明技術も発展していたと聞く。ならば魔術以外にも彼らの武力にあたるものは幾つも用意できるのではなかろうか。勿論、それが現代技術を大きく凌駕しえないのであれば、それで人類と積極的にぶつかろうなどとはならないのだろうが。

「確かに魔術というアドバンテージなしでは銃火器や兵器を扱う人間にはかなわないかもしれないけれど、これだけの施設や人員がすでに用意できているんでしょ。だったら、見逃して欲しいなんて頼まずに、あたし一人を口封じに始末するくらいのことは出来ても不思議じゃないわ」

怪しげな施設の地下へ、それも途中で謎の魔術を用いられ意識を奪われながら連行されてここにいる自分だ。その気になればいくらでもなんとでも出来ていたハズだと理解はしているが、こうして口にして思い返してみると本当にここに至るまで色々と冷や汗ものだったなと実感する。

「でも、それをしないということが、貴方が人間と共生するという強い意志がある証明よね。事を荒立てるつもりがない、というのもあるんでしょうけど」

そう続けると、先程まで緊張しているように見開いていた瞳をゆっくりと閉じながら深く首肯をするマーリン。

「仰るとおりです。そうです、貴方に見逃して欲しいというのも勿論本心ですが、それはあくまで最低限の要求です。私は、そう……もし、よければ、貴方と、貴方のような強い心の人間と、友人になりたいと思っています」

「友人、ねぇ……買い被りが過ぎるんじゃない?私なんて、あんなにあっさり意識を奪えた相手なのに、それを心の強い人間で友人に選んだ、なんていうのはさ」

捻くれた態度で言葉を返すが、伝えたい意図は真っすぐだ。そう、なんで私を選ぼうというのか、それが知りたい。

「……今までも、何度かここへ人間の方を連れてきたことはありました。しかし、その誰もが、あの部屋の中を見た途端に正気を失い、喚き散らす者もいれば、腰を抜かして泣き出す者もいました。貴方のように、そのまま我々の傍に立ち続け、こうして会話を続けられている者はいなかったのですよ。それが、貴方を選ぶなによりの理由です」

「……なるほど、ね」

そう言われてしまえば、納得してしまう。確かにあんなものを目にすれば普通の人は気が気じゃないだろう。オカルトに通ずる経験を積んできた私だって、かなり危うかった。

「私のように、魔術を、力を持つ者がようやく一人出会えた『友人になりたい人間』があなたなのです」

差し出すようにして右掌をこちらに向けるマーリン。

「なにもこれは友人という名での選別などではありません。これからも慎重にではありますが、徐々に人間たちと交流を深めていきたいとは思っているのです」

「……友好的なのね。あの“お悩み相談所”的な活動も、信徒獲得のためというよりも、本当にただの善意でやってるものと思っていいのかしら?」

「そう思っていただきたいところではありますが、あれは人間がどのようなことで悩むものかを知ることで、彼らとの交流への理解を深められないかという用途も兼ねておりますので、善意のみかと言われると難しいかもしれませんな」

「馬鹿ね。それも十分善意よ」

当たり前のことなのに指を顎に当てて悩みだしたマーリンに思わず吹き出しながらそう返す。マーリン自身はそう思われることが意外だったようで珍しく目を見開いてこちらを見ている。

「さて、と……色々聞かせてもらったところで、改めて私の意見を伝えさせてもらうわ」

そう言ってマーリンのほうへ背筋を立てて向き直る。こんなにキチンとした姿勢を取るのは今を除けば、巫女としての神事を司る時くらいのものだろう。そんな私の様子を見て、マーリンも目に力を入れてこちらを視る。

「ハッキリ言わせてもらうと、あたしじゃあなた達の気持ちはわからない」

堂々と告げる。どうせ隠せないのだから。あたしの気持ちを。あたしの真実を

「これはわかろうとしないからじゃなくて、あなた達の立場にあたしを重ねることが極めて難しいから。だから、“わかったようなフリ”はできるかもしれないけど、完全にわかることはないわ」

「それは、そうでしょうな」

少し寂しそうに肯定の意を示すマーリン。

「ですが、それでもあなたなら、完全とはいかなくても我々の存在を理解してくれると、そう思いましたので私はあれだけ多くのことをあなたにお話し、そして今もこうしてあなたと話を続けているのです」

マーリンの言葉に強い熱がこもる。相手の意見を否定するような言葉をそう使うことのなかったマーリンがこれだけの勢いで言葉を並べることに驚きを感じるとともに、彼が人間との関わりをどれほど切望しているのかもひしひしと伝わるような強い語気を感じた。

「そうね。そう思ってくれるのは嬉しいし、あたしだって何も理解したくないわけじゃないわ。あなたたちのことを理解したいとは思ってる。でもね、あなたたちの話を聞いているとあたしよりももっとあなたたちのことを理解してくれるだろうなってヤツに思い当たるのよ」

「……それが、森野さんですか」

「そういうことよ。森野はあたしとは違う。あたしがあなたたちへの理解につまずく理由っていうのを考えてみると、あたしは今まで生きてきた中でも何かから隠れ続けたり逃げ続けたりするような経験というのがトンと少なくてね。今のあなた達のような生き方を、そういう生活をしている相手の気持ちってのが想像できない。でも森野はそういう相手の気持ちが、あたしなんかよりはずっとずっとわかるのよ」

「……そう断言できる理由が、なにかおありなのですか?」

マーリンから訝しむように言葉を挟まれる。ここでたいした理由でなければ、森野の招待がふいになるどころか、あたし自身のことも見限られる可能性を思わせる、そんな瞳でこちらを見ている。

「森野は……あいつはね、昔はアイドルなんてキラッキラした仕事をしてたのよ。ほら、あいつ見てくれはやたら良いじゃない?それでスカウトされて、本人もなんか乗り気になっちゃってさ。最初にその話聞いたときは何思いあがってんだぶち殺してやろうかこいつと思ったもんだけど、いざ始めてみたらなかなかサマになっちゃっててさ。それでそこそこ売れたのは良かったんだけど、変なストーカーに目ぇつけられちゃってね……そんじょそこらのストーカーとはわけが違ったのもあって、結局あいつはしばらくの間、そいつから逃げ続けて隠れ続けて……見てらんなかったわね、あれは……」

語る言葉につられて出てきた当時の感傷に浸りかけた頭をぶるぶると振って話を続ける。

「ってわけでまぁ、あんたたちの話に比べれば規模は全然違うだろうけど、少なくともあたしなんかよりは森野のほうがずっとあんたたちの気持ちに寄り添えるはずよ。そういう立場の相手にならあいつはきっと、いや絶対に力を貸してくれるわ」

そう言い切ってみせた。これが紛うことなきあたしの意見だ。

「……まあ、人づてに聞いた人の生い立ちや信頼度なんて当てにならないっていうんなら、別に信じてくれなくてもいいわ、それならそれであたしだけでもあなたたちの話は聞くしこれからの交流も考えておくから」

言い切った後、自分の発言を振り返ってみると少し気恥ずかしくなったので、自分でフォローを入れておく。話している間、ちょっと目が泳いだと思うが気にしないでほしい、ちょっと照れ臭かったんだよちくしょう。

「なるほど……あなたは、森野さんのことをそこまで信頼しているのですな。今回の一件でも行動を共にしていることも含め、よほど信頼をおいているようです。それはいったい、なぜなのか。ぜひとも教えていただきたい」

先ほどまでの相手を探るような見定めるような視線とはまた違う、目の前の現象への好奇に満ちた視線だろうか、まるで問題の解説を急く子供のような目でこちらを見ているマーリン。

「さあ?なんでかしらね」

そんな彼には申し訳ないが、あたし自身、彼への信頼の理由は明確ではあるが具体的ではない。

「単純にあいつとの付き合いが長いからってのもあるかもしれないけどさ」

その理由を語るのは、さっき以上に照れ臭くてたまらず髪をくしゃりといじる。それでもこの理由は決して間違いではない。だから、そのまま、あたしの心のままを言葉にする。

「辛いことを乗り越えて前向きに馬鹿っぽく生きてる奴なんてさ……良い奴に決まってんじゃん」

口にするだけで思わず笑顔になってしまう、そんな言葉を。


自分でもわかっている青臭さが立ち込めるようなそんな説得を聞き届けたマーリンは

「……私も、覚悟を決める時ですね」

ぼそりと、そんな言葉をこぼした後、顔を上げる。そこにあった温和な表情は、はじめにあった時からよく見せつけられたものに似ていたが、あの時のようにこちらを見透かそうとするような薄ら寒さは感じられず、きっとこれが彼が真に温和な時の表情なのだろうと思える、そんな温かい微笑みだった。

「たしかに、あなたの言う通りですな。では、一緒に迎えに行きましょう」


種族を超えた友好が、心を渡る橋を架ける。

すぐに崩れる、儚い希望の架け橋を。

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