第16話 サプライズ

 かれこれ俺も6歳になり、この世界に順応し始めていた。そして明日は……


「リューネの誕生日パーティーをしたいです!」


 そう。リューネの5歳の誕生日だ。もうすぐでリューネが我が家に来てから1年が経とうとしていた。


 そして今、リューネはエイミーと一緒にフレムイ村まで買い物に出かけていた。


「そうね。リューネちゃんもしっかりお祝いしてあげなきゃね」


 お母さんと俺は一緒に考えた。何をしてあげればリューネは喜ぶのだろうか。

 うーん……分からないな……


「やっぱり……プレゼントとかあげた方が良いですかね?」


「そうね……でも、時間が無いのよね……」


 ミスだ。完全にミスっていた。準備期間が短すぎる。

 何してんだよ俺! 何事にも時間は必要だろ! アホっ!!!


「でも……もう言い訳できないですしね……そうだ!」


 俺はお母さんに今思いついたことを大雑把に説明した。


「それも……今から準備してできるかしら」


「……僕が頑張ります」


 こうして俺は1度部屋に戻り、構想を練った。俺がしようとしていること。それは……サプライズだ!


 まぁ、どんなサプライズかは全く考えていない。とりあえず……考えようか。


 今日の魔法のレッスンはお休みだ。充分時間はある。エイミーにも伝えているから時間を稼いでくれるだろう。


 よし……サプライズ大作戦スタートだ!


 ──────


「グラリス……あれ?」


 普段私よりも長く寝ているグラリスが隣にいなかった。ちょっと不思議にも思ったが、リビングから大きな音がしたのでもう起きることにした。


 部屋の出て、階段を下りた。リビングに出ると、


「誰も……いない?」


 いつもならラミリスさんとエイミーさんがいるはずなのだが、気配すら無く、グラリスもいなかった。

 私……捨てられた!?!? 嫌だ……悲しい……ってあれ?


 リビングの真ん中にある机になにか置いてある。


「……僕と隠れて本を読んだ……場所?」


 そう書かれた紙を見て、グラリスの置き書きだと気がついた。隠れて本を……あ、あの時だ。

 2人で書斎に出入りしていた時、本棚を全て倒してしまったんだ。あの時、グラディウスさんに1週間本禁止令が出た時……


 私はその場所へと向かった。それはエイミーさんの部屋から繋がるもうひとつの小さな部屋だ。エイミーさんが気を使って使ってくださいと言ってくれたんだっけな。


「えっと……また何かある」


 その小さな部屋の床には、もう1枚置き書きがあった。


「……僕と初めて戦った場所……?」


 初めて戦った場所。それは恐らく、家の外にある庭だろう。私は2枚の置き書きを持って外へと向かった。


 ……何なのかしら。私あんまり良くない罠にハマってるんじゃない? でも……ちょっと楽しいかも……


 靴を履き替え、外に出る。そして庭に向かった。庭を囲う低い石垣の上に、また置き書きがあった。


「あった! 次は……」


 こうして、私は色々なところに向かわされた。家から出たり入ったりするのは少しめんどくさかったけど、楽しかった。


 そして、置き書きが5枚溜まった時。6枚目を見つけた時だ。


「……最後。僕と一番一緒にいる場所」


 ……どこかしら。やっぱり……部屋?


 私はエイミーさんの部屋を出て、グラリスと寝ている自室へと向かった。


 恐る恐るドアを開ける。


「誰もいない……」


 その時、ベッドの上にある置き書きに気がついた。その紙はいつもとちがい、2つ折りになっている。


 ゆっくりと開く。そこに書かれていた言葉は……


 ───お誕生日おめでとう───


 その瞬間。考える間もなく、涙が溢れ出した。


「リューネ誕生日おめでとう!!!」


「きゃっ!!!」


 2つ目のベッドから飛び出してきたグラリスは両手からぱちぱちと弾ける魔法を放ち、私の誕生日を祝ってくれた。


 私……私……!


 ──────


「リューネ誕生日おめでとう!!!」


「きゃっ!!!」


 良かった……ちゃんと全部見てくれたんだ。とりあえずは……成功かな。


 驚いた表情のリューネに近付き、もう一度ちゃんとお祝いの言葉を伝えた。


「リューネ。5歳の誕生日おめでとう。今日は誕生日パーティーだよ」


「……え?」


 そう言って俺は彼女の手を引いてリビングへと駆け下りた。


「ちょ、グラリス……え?」


 リビングはキラキラに飾られ、机の上にはご馳走が広がっていた。そして、お母さんにお父さん。エイミーが笑顔でリューネを迎え入れた。


 困惑するリューネに向かって何度も何度も伝える。


「「「「お誕生日おめでとう!!!」」」」


 その時、リューネの瞳からは大量の涙が溢れ出した。晴れてサプライズ誕生日パーティーのスタートだ!

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