第15話 告白
「グラリス。私の事……好き?」
俺は困惑した。
だって……これって告白じゃん!! こんな可愛くてかつ、俺になんか見向きをしてなかったリューネが!?
こ! く! は! く!
いや、これは困惑じゃない。興奮だ。
俺は振り返ることなく、
「え、あ、い、いや、す、すきかって? え、えっと……」
「私の事嫌いになってない?」
気持ち悪い陰キャみたいな返事を新しい質問で切ってきた。
その質問は告白でもなく、好意でもなく、信頼でもなく。
──心配であった。
この言葉を聞いた瞬間我に返る。
はぁ……何考えてんだか。ちょっと変なこと考えすぎたかな。
俺はここでやっと振り返る。
リューネを見ると彼女は俺と反対方向を向いて話していた。
それを見るやいなや、歩むことをやめその場で質問に応答する。
「……そんなわけないだろ? リューネを嫌いになれるほど俺は完璧な人間じゃない。俺たちはもう友達だし……大切な家族だろ?」
あんまりこんなこと言うことないから……ちょっと恥ずかしいな。
俺の返事を聞いてから数秒。リューネの口から返事は来ない。
恥ずかしいから!! 早く返事して!! 出ていっちゃうぞ!!
ソワソワしながらリューネの様子をうかがっていると、彼女の潜っている布団がピクピク動いていた。
また泣いているのか……いや、違う。
「ぷっ! はははははは! 何よグラリス! 恥ずかしいわね!」
「な、なんだよ! 大切な家族で何が悪いんだよ!!」
俺は恥ずかしくて無我夢中に反論した。
するとリューネはスっ、と静かになる。
「……何も悪くないわ。ありがとね、グラリス」
その一言で俺の羞恥心は全て消し去った。いや、吸収されたのか。そんな感じがした。
カチッカチッと、時計の針の音が静かな部屋に響く。
このありがとうにはどんな意味が含まれているのか。
そんなのいつも通りだ。分かるわけない。
でも、大切にしたいのには変わりはない。沈黙に耐えることが出来ず口を開いてしまう。
「……リューネの方こそ……俺の事嫌いになってないか?」
俺が聞く。すぐに、リューネは答えてくれた。
「どちらかと言えば好きよ」
「ふっ。俺もそうだ」
俺はにやにやしながら部屋を後にした。
──────
俺はベッド作りで疲れた身体にムチを打ち、エイミーに頼み込んで魔法の練習を始めた。
最近俺はあるものにすっぽりはまってしまった。それは……
「ああああ!! もーー!! 何も成長してる気がしないよ!!」
スランプである。
新しい魔法も出すことも、既存の魔法の強化も何もなし得ていない。
努力は必ず報われる? いーやそんなことないね! 俺がどれだけ毎日魔法の練習に取り組んだと思ってるんだ!!
「大丈夫ですよグラリス様。たまには息抜きに違う事でもやって見ればいいんじゃないでしょうか」
そう提案をしてくれたエイミーに俺は質問する。
「違うことって……どんなことだ?」
「まぁ、私が言えたことではないんですが、【無属性】の魔法の練習とかはどうでしょうか。実戦の方が良いとは思いますが、結構土壇場で成功させるのは難しいので」
「そっかぁ……てか、無属性魔法ってのはどれくらい種類があるんだ?」
「一概にはいくつとは言えませんが……ざっと100位はあるって考えるのがいいと思います」
「ひゃ、ひゃく!?」
初めて知った……そんなに種類があるなんて……
なんだよ……治癒魔法だけじゃないのかよ……
「ですが、全部必要とかそういう訳ではないのでご安心を! グラリス様なら全習得and全覚醒も出来ちゃうと思いますけどね!」
「覚醒? そんな要素あるのか?」
「はい。属性魔法が中級から上級に進化するように、無属性無属性魔法にも覚醒って言うのがあるんです。それは、使った本人の魔力やその他の力と比例して覚醒していくって言われています」
そんなのがあるのか……またこれ大変になりそうだ……
この世界の最強はきっとまだまだ程遠いんだなぁ……
「えーっと……じゃぁ……とりあえずこれが出来ればってやつあるか?」
「んー、冒険者になるんだったら……治癒魔法、転移魔法、打撃軽減魔法、辺りですかね」
「それって……今の俺にもできるか?」
「はい! 恐らくグラリス様の魔力量なら可能だと思われます!」
こうして俺は無属性魔法の練習を始めた。
治癒魔法はいわずもがな、打撃軽減魔法に加えて、魔力攻撃軽減魔法も使えるようになった。が、しかし……
「次は転移魔法やってみましょう。そこから私のところに転移してきてください。コツは魔力をそこに置きに行くイメージらしいですよ! 私使えないから分かりませんけど!」
魔力をそこに……置きに行く……!
俺は目を瞑り、魔力を操作した。
すると、意識はさっきとは別の場所に向かっており、パサっ、とさっき居た場所では聞くことの出来ない草の上に着地した音が聞こえた。
よし! 成功だ……と思ったのだが……ん? あれ? エイミーの立ってる前に草なんてあったっけ?
恐る恐る目を開ける。
そこに拡がっていたのは見たことも無い草原だった。
「……どこだよここ!!」
俺は転移魔法を失敗……いや、制御出来ないらしい。
やばいやばいどうしよう! エイミーちゃん! 助けて!
やばい……泣きそう……
俺は途方に暮れ、とぼとぼ歩いていると、
ドゴォォォオン!
っと遠く離れた大地に雷が落ちた。
俺はそれを見た瞬間安心した。
「エイミーの……魔法だ!!」
俺は遠く離れた雷の落ちた場所に向かって全力で走った。
──────
「エイミーーー怖かったよぉーー」
俺はエイミーの胸に飛び込んでいた。
あれから数十分走り続け、やっとの思いで家まで戻ってくることが出来た。
「大丈夫ですよグラリス様。私がどこでも見つけてあげますから」
頭を撫でながらなだめてくれるエイミー。
とても心強い。しかも可愛い。しかも柔らかい……
「でも、当分転移魔法は控えたほうが良さそうですね。それを専門に教えてくれる人じゃないとやっぱり無理そうでした」
俺にはエイミーちゃんしかいないからそんなの無理じゃないか!! とも思ったが、今はそんなことどうでもよかった。
ただただ今は、エイミーに抱きついていたかったから。
──────
俺が転移魔法で事故を起こしたその日の夕飯でのこと。
「お父さん。魔法をもっと使えるようになりたいだけど……どうすればいいの?」
俺はお父さんに聞くことにした。
エイミーでも十分魔法を使えるようになった。
でもそれには限界があるとエイミー自身が教えてくれた。
「私からもお願いしますグラディウス様。特に無属性魔法を広く強く教えて頂ける方はいらっしゃいますか? グラリス様の魔力量なら……化け物みたいな力を発揮できると思うんです」
エイミーは本気だった。
こんな真剣に話してるエイミーを初めて見た。
いつも真剣じゃないって言ってるわけじゃない。
でも、こんな親身になってくれるエイミーは、いつもよりおっきく見えた。
ご飯を食べ終わったお父さんが話し出す。
「そうだなぁ……じゃぁそういうことならこれはどうだ? 学校に通うんだ。例えば.....俺の育った母校とかな」
「お父さんの母校?」
「そうだ。その名も……『魔剣士育成学校』略して『魔剣学校』だ!」
魔剣士育成学校。
それは、中央都市ケントルムを超えたところにある、学校のひとつで、主に魔剣士の育成に特化した学校だ。
この世界に大きな魔剣学校は2つしかなく、そのうちの一つがお父さんが卒業した『コセオ魔剣学校』がいちばん大きな規模を持つらしい。
10歳になると入学することができ、入学試験を突破すると無事、この学校の生徒になれる。
ここには、魔術のプロ、剣術のプロが沢山いるらしく、お父さんはここを首席で卒業したそうだ。
「でもな……ここの学校の入学試験はな……毎年倍率は30倍と言われていて〜さらに超過酷! そして3日間泊まり込み!」
お父さんの話は止まらない。
「……しかもだ! 入学しても超大変な授業ばっかりだ!! それを五年間! 今のグラリスには耐えられないかもな! はははは!」
お父さんは大笑いしながら水をグビっと、飲み干した。
「……そんなこと言われたら……考えてみます」
俺は正直、今のを聞いて少しひよってしまった。今の俺に本当に行けるのだろうか。
いや……そんなこと考えてる場合か。決めたじゃないか。こっちの世界で最強になるって。こっちで頑張れなくてどうする。
お父さんに追いつけるように。そして、追い越して最強になるために。
でも、そんな気持ちも簡単に打ち砕かれる。
───ある最悪の出来事が起きた時に───
その出来事が起きるのは、まだ先のお話。
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