第14話 友達

 フレムイ村での依頼から数週間が経ち、リューネが我が家に来てから、約半年が経った。

 これはある日のリビングでのこと。


「そーいえばやっと新しいベッドが届いたわよ」


 お母さんが玄関近くにある、大きなダンボールのようなものを指さす。


「これをどこの部屋に置くかなんだけど……どうしようかしら」


「今まで通りで行くと……僕の部屋に置いてエイミーがそこで寝るとかですかね?」


 俺がそう言うと反対意見が二票出てきた。


「グラリス様! もうエイミーを卒業してみたらどーですか!?」


「……そ、そうよ! そろそろエイミーさんじゃなくて……私にしたらどうなの……よ……」


 楽しそうな人一人に恥ずかしそうな人一人。

 なんだか俺は薄々気が付いていた。


 そう……リューネは俺に惚れてしまったのだ!!

 根拠? そんなの無いよ。行動が全部そう言ってるんだ。


「……えーっと……リューネがいいなら僕もそれでいいですけど……」


 俺が苦笑いしながら頬をポリポリ掻いて答えると、「ほんとっ!?」と言って、リューネが俺の方に飛んできた。


 近くで見るとやっぱり可愛い彼女は、目をキラキラさせて「じゃ、ベッド早く組み立てちゃいましょ!」と言って、スキップしながら玄関の方へと向かった。


 あの一件体調不良があってから、俺とリューネの関係はずっと良好だ。

 毎日話してくれるようになったし、話しかけてくれるようにもなった。


 ふぅ……初めはどうなるかヒヤヒヤしちゃったよ。

 でもとりあえずは一件落着。今はただの恋する乙女になっている模様。


 エイミーちゃんもいいが、リューネも今後の成長に期待大だ。


 モテる男は……辛いぜ……キラッ。


「……グラリス、何やってるの。早く運ぶの手伝って」


「ご、ごめん。今行くよ」


 俺は駆け足でリューネの元へと向かった。


 ──────


 ただいまベッドを製作中。しかし、問題が一つ……


「あぁーー! もう! こんなの見ても分からないわよ!」


 そう言って説明書を投げ飛ばすリューネ。


 これは遡ること30分前───


「御二方。今は自由時間ですので、ベッドの制作のお手伝い致しましょうか?」


「あー、えーっとそうだな、エイミー頼むよ……」


 俺がエイミーに頼もうとしたその時だった。

 俺の言葉を遮るようにリューネが話し出した。


「だ、大丈夫よ! エイミーさんは休んでて! こ、こんなの2人で十分よ! ね、グラリス!」


 そう言って俺に顔を向け眼力で発言を誘導される。


「や、やっぱり大丈夫だよ。エイミーは休んでて」


 ……てな感じで今に至る。はぁ……俺もこういうの苦手なんだよなぁ……


「なぁ、リューネ。やっぱりエイミーにも手伝ってもらった方が良かったんじゃないのか?」


 リューネが投げ飛ばした説明書を拾い上げながら言った。


 今まで俺の中でのリューネのイメージは、冷酷、繊細、天才と言った感じだった。

 でもそれは一瞬にして崩れ落ちた。


「そ、そんなの分かってるわよ……グラリスと一緒に作りたかっただけなのよ……」


 リューネが俯きながらか細い声で本心を言った。

 いつもなら心の中で、なんだなんだ可愛いなぁおい! とか言いそうなんだが、リューネの顔を見てそんな気にはなれなかった。


 まぁ、可愛いのは変わらんけどな。


「……そっか! そういうことなら二人で協力して作ろう! 俺もあんまり得意じゃないけど……」


 俺は、ははっと笑いながらリューネの元に説明書を届けに行った。


 それでもリューネの顔は上がらない。

 ……え? もしかしてやっちまった? なんかまた気に触ることしちゃった!?


 俺が焦っていると追い打ちをかけるように、ある音が聞こえてきた。


 ……ぐすん……ぐすん……


 鼻をすするこの音……泣いてる!?

 え!? ちょ、待って待って!!


 俺は急いでリューネの背中を摩った。


「ご、ごめん。なんか嫌なこと言っちゃったか?」


「……ちがう……い、いま、まで……こ、こんなに……やさしくして……もらったこと、なかったから……ともだち……なんて、いなかった……から……」


 泣きながら話すリューネの涙は加速した。

 友達。リューネが発したこの言葉の重みは俺には分からない。

 でも、俺も友達はいなかった。リューネを入れても、今までの生涯で2人だけだ。


 若くして両親を失った彼女の気持ちも正直、上手く理解してあげることは出来てなかった。

 俺も生前、両親を亡くしている。でも、あれは中学生の時だった。辛くなかったわけではない。でも、物心付いてもう数年経っていた。


 俺はそれなりに生活出来ていた。すごく楽しかったわけじゃないし、高校に入学する前も色々あった。だからそれなりにだ。あの出来事NTRが起きるまでは。


 俺の当たり前が、リューネの当たり前なわけじゃない。

 でも、だからこそ。俺にはリューネの気持ちがわからなかった。


 俺はまだ小さい手でリューネの頭を撫でた。

 もう片方の手で涙を拭ってあげた。


「リューネ。これからは僕がずっと友達だよ。だからもう心配しないで……泣かないで?」


 こんな当たり前のことを言ってどうするんだ。

 まず第一に俺なんかが……


 俺がべちゃくちゃ心の中で話していると、リューネが俺に飛びついてきた。


「……ありがとう……グラリス……友達……」


 俺の胸に頭を埋めるリューネ。それを静かに撫でる俺。

 何秒経っただろうか、いや何分だろうか。


 リューネが鼻をすする音しか聞こえないこの部屋は、無駄に広く感じた。


 しばらくしてリューネが顔を上げた。

 その顔は、笑顔だった。


「グラリス! 続き頑張りましょ!」


 そう言ってリューネは俺を突き飛ばし、説明書を手に取った。


「いててて……もっと友達は優しく扱えよな!」


「なによ、友達だからって優しくするつもりなんてないわ!」


 いつものリューネだ。


 冷酷で、負けず嫌いで、かなり不器用で、少しやんちゃで、ちょっぴり寂しがり屋なリューネ・ストラスだ。


 てか……友達ってことは……全然俺に恋なんてしてないんじゃね!?!?


 それから二人でベッド制作に三時間かかりました。


 ──────


「やっと……できた……」


 俺たちは完成したベッドの上に見事なほどの大の字で、寝っ転がっていた。


「……ありがとう……グラリス……あなたがいなかったらもう少しかかってたわね……」


 ……多分俺がいなかったら完成してませんよ。

 なんてこと言ったらまた怒られちゃうから我慢我慢。


 俺たちは完成したベッドを既存のベッドの隣に置いた。

 簡易ダブルベッドの完成って言ったところかな。


「ふぅ〜これで今日はゆっくり寝れそうだな」


「はぁ〜そうね」


 リューネは大きく伸びをしていた。

 顔ももう疲れていて、今にも寝てしまいそうだ。

 さっき泣いてたからそれも相まってだろう。


「ご飯までまだ時間あるし……少し寝たらどうだ? 新しいベッドきっと気持ちいぞ」


 ポンポンっと新しいベッドを二回叩いた。


「そうね……ちょっと寝ようかな」


 そう言ってリューネは新しい布団に潜った。


「グラリスは寝ないの?」


「僕はちょっとだけ魔法の練習してきます。いつかエイミーみたいにすっごい魔法使いたいから、毎日コツコツ頑張ろうって思って」


「……そっか。おやすみグラリス」


 少し寂しそうに告げたリューネを背中に俺はドアを開けた。

 ……まぁ疲れているだけか。そっとしておこう。


 その時だった───


「グラリス。私の事……好き?」


 ……!? 好き!? これって……告白!?

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