第7話
「あ、アタシはアイツにちょっと謝りたくて……アンタは?」
「わたしもですけど……今はそんなこと言ってる場合じゃなくないですか?」
「確かに……ここ、学校のはずよね?」
「あいつら、どうして……!?」
反射的に思わず駆け出しそうになったが、自分の今の姿では、信じてもらえないどころか、いぶかしがられるのが関の山だ。悔しさのあまり、物陰で歯噛みする。
『君を追ってしまったがために、この世界に入り込んでしまったんだろう』
「そんな……!?」
それじゃあ、巻き込んだのは俺のせいじゃないか!
『彼女達を巻き込んだことを後悔するなら、支払うべき相応の対価は、そう悪いものじゃない』
「なんだって……?」
『魔王城に変貌した私立汀目高校を戻して、この事態を解決してほしい――僕はそう言った。それは彼女達に身を守るすべを与えることにも
俺の考えが正しければ、なつめとまりかを更に巻き込むことになる。自分可愛さで判断していいはずがない。
「そうは言っても……っ」
『判断は早いに越したことはないぞ――そら、』
「!」
『魔王の眷属共は待ってくれないぞ』
促されてはっと顔を上げれば、丸腰の少女達を今か今かと襲おうとする魔王の眷属の鋭い眼光が、
「彼女達を巻き込む前に訊かせてくれ」
『なんだ?』
「ここから脱出する方法はあるのか?」
『魔王の眷属共を倒す力で中和すれば、道は開ける』
「……俺が自分を
逃げてそのまま戻らなければ、俺の異常はさておき、今直面している問題の解決にはなる。そのまま学校を戻す契約を踏み倒すことも可能なのだ。
『それはないな』
だが、勇者アストティティアはきっぱりと否定する。
『彼女達は条件を呑むよ――これは勇者の勘だ』
「勘かよ」
勘だと言いながら、自然の摂理でも述べるような軽さで言い切ってみせる。妙な確信を感じさせる。
……それでも、今はなつめとまりかを救えるのならば、安い買い物だ。
『魔王の眷属共が動くぞ』
「分かってる。行ける」
『――行け!』
合図の火蓋は、勇者アストティティアが切った。
俺は弾かれるようにして、何事かも理解していない二人の前に飛び出した。
「えっと、ええっと……!」
だというのに、こんな時に限って言葉が出てこない!
「え、なにこれ。ふわふわした……猫? ウサギ?」
「可愛い……」
なんと言って状況を知らせたらいいのか。というか、俺の名前を言っても信じてもらえないのであれば、なんと名乗ればいいのか。信じてもらうには。
「ぼ……」
「ぼ?」
――ええい、ままよ!
「ボクの名前はヒロンだロン!」
やぶれかぶれだ。この際、どんな道化だろうとこなしてみせる――!
「キミ達は今、魔王城に変えられた学校に来てしまったロン!」
「魔王城……?」
聞く耳を持ってくれている。悪くない傾向だ。
ありがとう、ジャパニーズカルチャー。ありがとう、魔法少女の妖精さん。
「このままじゃ怪物――魔王の眷属に襲われてしまうロン! ボクと契約して――」
「待って」
そこで「学校に残ってた先生達は?」と待ったをかけたのは、まりかだった。
「養護教諭の先生も残ってたはず」
「……その人はもう帰っているロン。ヒロンが見たから、間違いないロン」
酷い嘘っぱちだ。けれど、これから彼女達を巻き込むのだから、これくらいの方便は許されるだろう。
「っ!」
このまましっかりと説明を伝えたいのは山々だったが、暗闇が動く気配がして現実に引き戻される。
「なに、あれが魔王の眷属だっていうの……!?」
なつめが
「ボクと契約をしてほしいロン。そうすれば、キミ達は魔王の眷属と戦う力を得られる。魔王城に変えられてしまった学校も、元に戻せるロン」
「ヒロン、最後に一つだけ訊かせて――学校を元に戻されないと、どうなるの」
まりかが問う。俺だけに聞こえるらしい勇者アストティティアは、最悪の答えを述べた。
「……今は不安定に現れてるだけだけれど、近い将来、魔王城は学校と完全融合を果たして、町に魔王の眷属が溢れるロン」
伝える俺の口も、かすかに震える。
「あるいは、学校だけ神隠しに遭うとか……」
「……どっちにしたって、最悪には変わりないじゃない」
「あの人が襲われて謝れなくなるとか……そんな最悪、絶対ナイ!」
「奇遇ね。わたしも同意見。いずれにしろ、戦わなきゃ打破できない状況なら、立ち向かわないまま負けるのは本望じゃない」
「二人とも……!」
そんな二人の目を見たら、尻込みしていた自分が一等馬鹿馬鹿しく思えてきた。そうだ、俺だって二人に謝りたい。二人に再会できたこの学校をなくすのは嫌だ。
「ヒロン! お望みどおり、契約してあげる! 感謝しなさいよねっ!」
なつめが手を差し出す。いつか引っ越してきた初日、交わした握手をリフレインさせる。
『契約成立だな。ならば復唱せよ――!』
「――バトルドレス、メタモルフォーゼ!」
とうとう襲い掛かった魔王の眷属達に三下り半を突きつけるように、光の渦がなつめとまりかを包み込んだ。
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