秋暮れない
只
秋暮れない
目を開ければ広がる騒然とした世界。君から始まるこの季節。
涼し気な潮騒も、乱反射する蝉時雨も、届くはずの声さえ届かない。
それほどまでに君は眩しく、儚い。
まるで夏の幻影のようで、朧に映る。
夏が廻れば君はいつもここに現れて切なげな表情を浮かべる。
彼女が来れば夏が来る。そんな因果を誤謬するほど君と夏はピッタリで。
深めにかぶった麦わら帽子で目元が隠れちゃってるけどね。
夏影に縫い付けられたようにいつも彼女から目を離せない。
いつも、いつまでも君に想いを寄せ慕っていた。
何度想いを伝えたかもうわからないけど、想いを忘れたことは一度もない。
僕じゃ君を笑顔にできないかもしれないけど、君がいたから僕は君にとっての影でいられた。
今の僕には君しか映らない、映せない。
あと何度言葉にできるかわからないから、どうか、この季節を好きでいて。
僕がくれない空を受け入れることができるその時までは。
その時が来たら、冗談話にするよ。
だから、その言葉はまだしまっておいて。
頬に涙が伝い、零れないように口を押さえて駈けてく彼女の後ろ姿は霞に飲まれて消えていった。
きっと終わりは近い。始まりすらももう思い出すことは叶わない。
彼岸の先にいる君に手を伸ばせるその時までに。
時雨から逃れるために、また、目を閉じた。
秋暮れない 只 @jankv
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