第51話 途絶
食糧を積み込んでる時間はない。安全な海域まで逃れたら潜水艦を浮上させて釣りでも手掴みでもなんとか食糧を確保するしかない。
PZに同化される同胞を見て、逃げているのは私くらいしかいない。じゃあほとんどは同化されていないのかといえば、このリグで生活して数ヶ月、人々が目の前の作業を手放し、元気溌剌意気揚々とリグの中を歩いている姿を見たことがない。手遅れだ。この分では潜水艦も危ないかもしれない。
艦長は停泊中も原子炉と食堂、操舵室を巡回しているので、艦内に入るとその巡回経路を辿って探し回った。
私から言っても聞かない時のためにグロスマンも探さなくては。
医務室のドアが開いており、ついでに一瞥する程度のつもりで中を覗いた。原潜でもリグでも見かけなかった、10代前半と思しき少女がいた。
元の肉体が老婆だろうが幼児だろうが、PZは選り好みせず同化してしまうので、一目見た違和感で詳しく観察しなくても少女がPZだとすぐわかった。
「こんにちは」
「やあ。お医者様は知らないかい」
この分だと少女からグロスマン経由で感染が拡がった可能性がある。探す目的ではなく避ける目的での質問だ。
「パパは医者だよ。診てもらったらいいよ」
「ああそうしよう」
背後から肩を掴まれた。
振り向いて見た顔は、酢の臭いもせず黄疸がなく血色がすこぶる良いのでグロスマンに見えなかった。
触られたパーカーが熱を発して溶けて肌が触れたのを覚えている。全身麻酔をかけられた時の記憶のようだ。
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