第47話 医療従事者
ベーリング海といえばカニ漁だが、極圏につながった海は海水温が低く、酸素も栄養も豊富なので大型の魚介類が獲れると聞く。実際、漁業に出てみると信じられないほど大漁になる。
最大の捕食者が絶滅寸前なので、私のような素人でも生きていくのに困らない程度に漁業資源は回復しているのもあるのだろう。むしろその要因の方が強いかもしれない。
特に、PZがあらゆる生物を食い散らかし、不要として吸収しなかったミネラルが海水に流れ出したことも水圏にとっては恵みになっているかもしれない。
食糧供給に対して、生存者の人口増加という面では前途多難というレベルを超えてなんらかの奇跡を信じるしかない状況だった。
ここまででPZにならずに済んでいる人間は、私も人のことを言えないが協調性や社交性に致命的と言っていい欠陥を抱えている。
握手にしろ殴打にしろ、なんらかの他者との身体接触が全くないような人々なので、「前段階」の交友関係自体が構築できない。破滅以前なら消えるに任せられた人々だけが選ばれて生き残っている。
そこで不可解なのがグロスマンをはじめとする医療従事者がなぜ生存したのか。見知らぬ患者とのある程度の人間関係を構築する能力があって、身体接触を厭わない態度でなければ、患者への医療行為に臨むことはまず不可能だ。アワジ島の廃病院もPZの診察中に同化された痕跡があった。
そして現にグロスマンは原潜でもベーリング海リグでも、本来なら指導的な立場にある人間にコミュニケーションの世話をしていた。他の船医も同じような具合で、そこには破滅以前と変わらない光景があった。ここまで社交性のある彼らがなぜ同化されなかったのか。
その日は、漁からリグに戻った時に原潜が浮上し停泊しているのが見えたので、配給所でグロスマンを待ち構えていた。
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