第44話 共通傾向
文明が滅亡し、再生したばかりの小規模コミニュティでは、軍人が封建制を敷いて王侯を気取ったり、鬱屈を発散しようとジョックや神懸かりの老婆が取り巻きを連れて誰かを生贄にしたりするのが定番だ。
そんな状況を想像して医務室を出たくなかったが、歩けるようになったなら他所へ行けとグロスマンに追い出された。
奇妙なことに、回収した漂流者が立って歩けるなら本来は艦長のところに連行されて色々尋問されるはずだ。部外者の私が放任されている。私が悪意を持っていたら非常に危険な状況だ。
「誰も気にしやしない。食事の配給は1日1回だけであの部屋だ。それまで隅にいろ」
廊下のつきあたりを指さして船医は医務室に引っ込む。
原子力潜水艦ともなれば、原子炉の管理や空気調整その他色々な仕事があるはずだが、廊下に誰も出てこない。各々の仕事を各々の部署に引きこもって遂行しているらしい。
することもなく会議室か食堂だったらしい部屋のテーブルで肘をついていると、軍服の割に痩せ細った2人が紙箱を両手に抱えて入ってきた。
「そこに置きたい」
話す調子から私がここの作法を知らないことは把握してるらしい。
「これは申し訳ない」と謝って立ち退く。
猛烈に硬いビスケットが5枚入った銀紙のレーションを手渡された。
「それが1日分だからゆっくり食べろ」
「予定外のことがあったんだ」
ひどく覚えにくい名前の2人だった。いつも2人で行動するのだが、前者はいつも伏せ目がちで、後者は目を見て話しはするが要点以外を極端に省略する癖があった。
船がフィリピン海のリグで補給をするはずだったが嵐でリグ側の係留施設が破壊されて復旧の見通しが立たず、やむを得ずベーリング海に向かう途上なので物資が尽きかけている。その結果、節約のために極端に食糧の配給が少ないということだった。
後で配給中に出会った艦長も似たような調子で、船医以外は総じて対人能力になんらかの欠陥があるようだった。
アワジ島コミニュティと同じ傾向で、彼らもその社交性・協調性のなさが功を奏して1年間感染せずに済んだ生存者だった。
なので、医務室での悩みは杞憂だったが、空腹にも関わらず談笑が一つもない暗い日々が際限なく続いた。
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