第40話 オール一本

最終的にレインコート5人、パーカー3人、作業着3人の11人の感染者がハチマンに降ってきた。どうせなら最初のレインコートと同時に振ってくれればフルスイングは1回で済んだのに。


錨を上げるスイッチを押すと巻き上げ機が凄まじい音を立てているのが操舵室にいても聞こえる。音の発信源に感染者達が群がっていくので、気を逸らすにはまだ使えるが錨はこの船を2度と離さないだろう。


フルスイングの影響で操舵室のドアは開いたまま歪んでしまっている。夜になったら感染者達が「帰宅」してくる。ハチマンの快適さを惜しんでいる場合ではない。


操舵室に転がってるコンパス、寝室の「持ち出し袋」、予備の釣り道具を持って船尾に積んだ救命ボートに乗り込んだ。


セト内海の真ん中に放り出されてオール一本で漕ぎ出すことと、感染者と遭遇しない場所を探すことのどちらにより絶望していたか、あまり思い出したくない。

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