第38話 陰謀

「今日の作業は終了だ。休憩しよう」

右手を挙げて英語で呼びかける。

ロシア人だったらおしまいだ。

レインコートの生前がどんな人間かはわからない。だがここは漁船だ。そしてお前は船の上でレインコートを着ている。ということはお前は荒れ狂う波をものともしない船乗りで、私はお前の漁師仲間だ。

「もうくたくただよ」

英語の返答だ。最初の賭けに勝った。

何の作業もしていないし、奴らが疲労した姿を見たことがない。話を合わせてきたのだ。

「船を停めるから、両足でこのワイヤーを抑えてくれるかい」

「ああ。早くしてくれよ」

甲板の上にあったワイヤーの束の上に誘導する。

「ワイヤーが海に飛び出したらおしまいだ。しっかり乗っててくれよ」

「ああ。任せておけ」

レインコートは笑顔だ。

ワイヤーが海に飛び出したら何がおしまいなのか、なぜ彼がワイヤーの上に立たなければならないのか、そのことを疑問に思うだけの思考は稀にしかしない。

「ところで、このワイヤーは何に使うんだ」

稀が今であって欲しくなかった。

「おいおいしっかりしてくれよ。これは大事な商売道具じゃないか。これがないと飯の食いあげだぞ。だから、早く休憩に入るためにも、しっかり乗っててくれなきゃ」

「そう言えばそうだったな。うっかりしてたよ」

バックスバニーがタズマニアデビルを引っ掛ける時も内心では絶叫して逃げたいのだろうか。

「よし。そのまま海を見ていてくれ。停船させてくる」

レインコートは気づいていないが、船は停泊中だ。

錨をあげ、エンジンを動かし、ゆっくりと速度を上げていく。

私が言ったことと真逆の動作をしている、と察知できる知能自体は奴らには備わっている。

ただ興味がないだけだ。ミツバチが陰謀を巡らせようが嘘を吐こうが、ハチミツを簒奪する養蜂家にはどうでも良いことだ。

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