第37話 コンマ秒

奴らは明るいところを好む。だから昼間は操舵室を出なければ私自身は恐らく問題ない。


だが、日が沈むと奴らは屋内に入ってくる。


鍵や扉を無理矢理壊す真似はしないが、ドアノブを回したり関貫を外すくらいは、奴らの記憶してるルーチンの範囲内だ。もしも私が機関室に引き下がって鉄扉を閉めても、何かの拍子に奴らが操舵室に入るルーチンを思い至ったら、プラスチック製品や紙の資料は全て食いつくされる。


この時になってようやく、船こそ奴らとの共存のできない空間なのだと思い知らされた。


どうやって下船させるか。あらゆる「無理矢理」が通用しない。ここにRPGがあって甲板ごと吹き飛ばしても無傷のレインコートが「爆発だ!逃げるんだ!」などと言いながら強歩で向かってくるかもしれない。あの手足は車をパンのように容易に引きちぎるので「私を爆発から助けるために」鍵のかかったドアをこじ開けてくるだろう。


自動車でも力負けする以上、押して海中に落とすのも不可能だ。船を破壊するほどの力でもダメかもしれない。そもそもここにそんな力が出せるのは船のエンジンだけだ。仮に双方互角の力だったとして、エンジンの力をどうやったら甲板のレインコートに当てられるというのか。


そうだ。エンジンがレインコートを制止できないように、レインコートもまたエンジンを制止できない。レインコートは船に乗ってるのだ。勝機はここにしかない。

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